デジタル音楽配信全盛の時代に、ひそかに盛り上がりを見せているアナログレコード市場。テレビでは、日本のレコードを求めて海外からやってくるレコードファンの行動を追ったバラエティやドキュメンタリーが放送され、その人気が世界レベルのものであると報じられました。また、オーディオ愛好家のあいだでは、デジタル音源では出せないアナログならではの音質が再評価され、再びレコードに注目が集まっています。
そこで今回は、世界中のレコードファンが集まる老舗ショップ「ディスクユニオン」のスタッフの方々に集まって頂き、レコードブームの現状について話を伺いました。また、みなさんプライベートでもレコードを愛聴しているということで、それぞれの思い出のレコードも持参して頂き、実際にレコードを聴きながらその音質や思い出について熱く語って頂いています。ホストを務めるのは、GetNaviでもおなじみのAVライター鳥居一豊さんです。
アナログの“作法”を楽しむ人が増えている
鳥居さん(以下、敬称略) この前、テレビ番組でディスクユニオンが取り上げられていましたが、海外からレコードを買い求めにくる人が多いそうですね。
杉本 私が店長を務める昭和歌謡館を、NHKの「ドキュメント72時間」やテレビ東京の「Youは何しに日本へ?」で取り上げて頂きました。その反響も大きいですね。
武蔵野 実際、海外のお客さんは本当に多いです。私の勤務するロックレコードストアは路面店ではないのですが、それでも多くの方に足を運んで頂いています。
鳥居 やはり邦楽のレコードを買っていかれるのですか?
武蔵野 当店は邦楽洋楽問わず、クラシック以外のレコード全般を扱っていますが、例えばクラッシュの日本国内盤を探しにいらっしゃる海外のお客様もいます。
鳥居 海外から洋楽の国内盤を買いに来るんですか?
武蔵野 そうです。日本語の帯が付いているものが欲しいそうです。それから、7インチ盤などはお土産用としても買われているようです。
杉本 昭和歌謡館の場合は、海外のクラブDJがネタを探しに来ることもあります。日本の歌謡曲に興味を持っている方もいるようですね。
鳥居 日本に比べ、海外の方がレコード回帰志向が高いというデータがありますが、日本においてもレコードの生産枚数や金額は年々増加しています。国内のアナログユーザーというのは、どういう方が多いですか?
武蔵野 いまレコードを聴かれる方は、レコードを裏返したり、針を落としたりする動作というか、そういう作法を楽しんでいる方が多いように思われます。わたし自身、日ごろは忙しくてあまり音楽を聴けていないのですが、アナログで聴くときは、ゆっくりした気持ちで音楽を楽しむようにしています。
鳥居 CDが世に出たとき、レコードよりもノイズが少なくて音がいいともてはやされました。確かにCDは誰が再生しても80点の音を出せます。しかし、レコードは再生する人の知識や腕、使用する機材によって、60点の音にも90点の音にもなります。そこを手間と捉えるか、楽しみのひとつとして捉えるかによって大きく違ってきますね。
武蔵野 ちなみに今回の機材は、ディスクユニオン店頭でも使用しているティアック社製のものですね。
鳥居 はい。視聴に当たり皆さんからぜひ試してみたいと声の上がった今年発売のティアック最上位モデル「TN-570」を、ティアックさんにご用意していただきました。
試聴システム(すべてティアック)
アナログレコードプレーヤー:TN-570
プリメインアンプ:AX-501-SP
スピーカー:S-300HR
サブウーファー:SW-P300
スピーカースタンド:TA-STD300
アナログレコードの魅力とは?
鳥居 みなさんは普段からレコードをよく聴かれているとのことですが、アナログレコードの良いところとはどんなところでしょう?
杉本 ジャケットが大きいので、ジャケ写にこだわった作品が多いですよね。昭和歌謡館ではジャケ買いされるお客さんが非常に多いです。7インチ盤でもCDより大きいですからね。
鳥居 レコードジャケットはポスター感覚というか、飾って楽しむ人も多いですね。
水上 むかし、デカジャケCDというのがありまして、LP盤サイズのジャケットにCDを入れたものが発売されましたが、あまり流行りませんでした。
武蔵野 いまも7インチ盤サイズのジャケットにCDを入れたものが出ていますけど、メーカーさんは試行錯誤をしながら頑張っているようです。
鳥居 アナログメディアは保存性が優れているというのもありますよね。現にこうして何十年も前のレコードが聴けちゃうんですから。HDDの方がよっぽど早く壊れると思います。
水上 お客様が押し入れに眠っていたレコードを売りにいらして、「これはカビているからダメだよね」と聞かれることもありますが、レコードはカビても洗えるので大丈夫なことが多いです。ディスクユニオンがオリジナルで販売しているレコードクリーナーは強力なので、数回洗えばだいたいのカビは落ちますね。こすらないのがポイントです。
武蔵野 国内のレコードは保存状態がいいものが多いですね。海外の中古レコードだと、どうしたらこんな傷がつくんだ、と思うようなことがよくあります。レコードの取り扱い方にも国民性が表れている気がします。
レコードにしか出せない音がある
鳥居 本日はみなさんに思い出のレコードを持参して頂きましたが、それぞれご紹介して頂いてもよろしいですか?
武蔵野 わたしはドナルド・フェイゲンの「The Nightfly」のUS 1stプレスの貴重な1枚を持ってきました。ジャケットの上部にアーティスト名とタイトルがあるんですけど、微妙に色が違うのがわかりますか? 実は色が異なるのは初回盤だけで、それ以降はこのタイトルの青い色で統一されているんです。このレコードは、いまはなきWAVEというショップで購入したのですが、当時の値札シールを剥がしてしまって、そこをちょっと後悔しています(笑)。
杉本 わたしは海外からのお客さまにも人気のあるゴダイゴの「西遊記 オリジナル・サウンドトラック」。帯も当時のものです。
水上 わたしはモノ盤(モノラル音声で収録したレコード)が好きで、ビーチ・ボーイズの「Pet Sounds」を持ってきました。
鳥居 みなさんがレコードを聴き始めたのは、いつごろからでしょうか?
武蔵野 わたしは中学生のころです。当時、自宅にレコードの再生機器しかなくて、「CDうらやましいな」と思いながらレコードを聴いていました(笑)。その後CDに移りましたが、ある時からレコードの良さに気付き、またレコードを集め始めました。
水上 わたしの場合、もともとレコードで育った世代なので、CDよりもレコードの音に慣れ親しんでいて、いまでも同じ作品でCDとレコードが発売されれば、レコードのほうを買って聴いています。
杉本 わたしは小学1年生のときに生まれて初めて買ったのが、今回持ってきたレコードに収録されているゴダイゴの「モンキー・マジック」の7インチ盤なんです。英語歌詞なので意味は理解していませんでしたが、真似して口ずさんでいました。
鳥居 まずは1曲聴いてみましょうか。最初は武蔵野さんのドナルド・フェイゲン「The Nightfly」から「I.G.Y.」。
鳥居 いかがでしたか?
杉本 音の広がりがすごいですね!
武蔵野 普段、自宅では大きなスピーカーで聴いているんですけど、これくらいのコンパクトなサイズのスピーカーで聴くとまた違いますね。このレコードプレーヤーが素晴らしいのもあると思いますが。
鳥居 今回はティアックの「TN-570」というレコードプレーヤーをはじめ、アンプとスピーカーも同社のシステムで揃えていますので、非常に音のバランスがいいですね。
杉本 いまの「Nightfly」は80年代なので、次は70年代のゴダイゴのサントラ盤から「モンキー・マジック」です。
杉本 このころは人力のアナログシンセですが、アナログシンセならではの分厚い音がよく出ています。デジタル録音になる少し前の時代で、アナログレコーディングの技術が到達点に達した時代でもありますので、オーディオ的価値もあると思います。
鳥居 当時、どこの家にもあったというほど大ヒットしたレコードですが、いま聴くと、ダフト・パンク的な感じがありますね。これがお茶の間で流れたのだから、すごい時代です。
杉本 洋楽的な感じはありますね。この曲ではないのですが、ゴダイゴの曲がダフト・パンクにサンプリングされているという話もあります。このモンキー・マジックも海外のヒップホップアーティストにサンプリングされていますよ。
鳥居 現代のアーティストがこの時代の音楽をサンプリングする理由のひとつとして、アナログシンセの音が求められているということもあるのでしょう。ロスト・テクノロジーというわけではないですが、現代のデジタルシンセでも再現できない音質という感じがします。
水上 最後はさらに遡って、60年代に発表されたビーチ・ボーイズの名盤「Pet Sounds」から「Wouldn’t It Be Nice」です。
鳥居 水上さんはモノラルにこだわっているとおっしゃっていましたが、それはなぜですか?
水上 以前は、モノラルよりステレオの方が高音質だ、という思い込みのような気持ちがあったんですけど、あるときステレオ盤を買おうとしたら、あるレコード屋の人に叱られたんです。「なぜモノラル盤を聴かないんだ」と。それでモノラルの方を聴いてみたら、音がガツンとダイレクトに届くというか、60年代のロックのグルーヴに合っていると感じて、それからモノラルを聴くようになりました。
鳥居 モノ盤とステレオ盤といえば、ビートルズが代表的ですよね。かなり後半の方まで両方出していたような……。
水上 「WHITE ALBUM」くらいまでですね。ある時期まで、ステレオがそれほど重視されていなかったというか、ギミック扱いされていた時期もありました。そのころのステレオは、L/Rで極端に分離されていたり、疑似ステレオだったり。モノラルこそが音響の基本だということを、ジョージ・マーティンも言っていました。
ハイレゾはデジタルとアナログのいいところ取り
鳥居 さて3枚聴き終えたところで、感想を伺いたいと思います。いかがでしたでしょうか。
水上 レコードってディスクが回っているのを見て楽しむという側面もあるのですが、今回の使ったプレーヤー(TN-570)はデザインが格好いいので、見ていて飽きないですね。ビジュアルがいいというのは、意外と大事だと思います。
鳥居 アクリルで出来た透明なプラッターとか、ベルトが表に露出しているところなどは、あまり国内のプレーヤーでは見かけません。和紙のターンテーブルシートも独特ですよね。細部にこだわりが感じられ、価格以上の高級感が出ています。
↑TN-570には和紙のターンテーブルシート「TA-TS30UN」が標準で付属
↑TA-TS30UNは単体でも販売されており、価格は4000円前後
杉本 アナログシンセの音の分厚さとか音場感がすごくよく出ていて、CDとは違う音が楽しめますね。TN-570もレコードの音を上手く表現していると感じました。
水上 よく「レコードの音は温かみがある」とおっしゃる方がいますけど、この音を聴くと全然違いますよね。どちらがいいとかじゃなくて、レコードでしか出ない音というのがある。昔の音を知っている人が、またレコードに戻ってくるというのは自然な流れのような気がします。
鳥居 最近になってCDよりも高音質なハイレゾフォーマットが登場したのですが、基本的にはデジタルの音をよりアナログに近づけるというのがコンセプトです。つまり、デジタル音声もハイレゾになってようやく、アナログレベルに近づいてきたともいえます。
水上 最近、7インチレコードの音をCDで再現しようとしているレコード会社さんもあるようです。技術の進歩で、デジタルとアナログの音質が接近してきたというか、両者のいいところ取りが出来るようになってきたのかもしれません。
鳥居 今回再生に使用しているTN-570なんかはまさしくそれですね。ハイレゾクオリティのデジタル出力もあって、D/Aコンバーターにつないで聴くこともできます。もちろん、アナログのままでも良い音を楽しむこともできます。USBで出力すれば、PCにデジタルファイルとして保存して、スマホやポータブルオーディオで外に持ち出すことも可能です。時代の要望に即した機能を備えた1台ですね。
水上 今回は試せませんでしたが、ハイレゾで出力して聴くとどうなるのか、すごく興味があります。
鳥居 そのあたりはこのあと私がみっちりレビューしますので、お楽しみにして下さい! 今日はどうもありがとうございました。
【製品詳細】
ティアック
アナログレコードプレーヤー「TN-570」
実売価格13万円前後
ハイスペックとスタイリッシュさを両立したベルトドライブ方式のアナログレコードプレーヤー。ティアック初の回転数自動調整機構「RPS3」を搭載。光学センサーによりプラッターの回転速度を検出してモーターの回転にフィードバックすることで、高い回転精度を実現する。また、最大192kHz/24bit出力可能な光デジタル端子と、最大48kHz/16bit出力可能なUSBを搭載。レコードをハイレゾで出力して出力してD/Aコンバーターによる音の違いを楽しんだり、PCでデジタル録音できる。カートリッジはオーディオテクニカ製のVMカートリッジAT100E相当が付属。ユニバーサルヘッドシェル対応なので、ヘッドシェルの交換もできる。MM型対応のフォノイコライザーアンプも内蔵する。
TN-570の詳細はコチラ
【撮影協力】
ディスクユニオン dues新宿
【URL】
ティアック https://www.teac.co.jp/jp/
TN-570 https://teac.jp/jp/product/tn-570/top
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