ソニー「RX10」が最初に発売されたのは2013年11月。光学8.3倍ズームを持ちながら全域F2.8を達成したレンズ一体型の“ネオ一眼”カメラとして、個人的にもその実力の高さに大きな関心を寄せていた。それから2015年8月には「MK2」へと進化して初めて4K動画撮影に対応。そして今回、「MK3」となって光学25倍もの高倍率を誇る新設計レンズを搭載して新登場したというわけだ。
一見すると「RX10」は3世代にわたってマイナーチェンジにとどめているかのようだ。しかし、各世代ごとに内容を着実に進化させており、「MK3」では新設計レンズが搭載されてボディそのものにも大きな変更が加えられた。特に違いを感じるのはその重さだ。「MK2」ではバッテリー込みで813gにとどまっていたが、「MK3」は高倍率ズームを搭載したこともあり1095gと、1kgの壁を越えている。こうなると“ネオ一眼”とはいえ、もはやフルサイズ一眼レフと並べられるレベルだ。
手にすればとにかくズシリとした重さが伝わり、首にベルトをかけてぶら下げれば少なからず負担を感じないではいられない。これだけの重量を支えながら“ネオ一眼”として果たしてそのメリットはあるのか。結論からいえば、「RX10MK3」は良い意味で予想を覆す魅力あふれる仕上がりとなっていた。
驚くほど寄れる光学25倍の高倍率レンズ
最大の注目点は光学25倍のレンズだ。焦点距離は静止画で24~600mm(3:2時)となり、HD動画では26~630mm、4K動画でも28~680mmを実現。倍率が上がったため、F値はさすがに全域2.8とはならなかったが、それでもF2.4~4.0を達成。もちろん、今回もツァイス バリオ・ゾナー T*コーティングが施されている。光学25倍を達成しながらも充分な明るさが確保されたといっていいだろう。
特に動画時でも広角端が30mm相当以下の画角を確保されているのは、ライバルが軒並み30mm相当超えとなっている中で高く評価していい部分。そのおかげで撮影時のアングルの決め方では使いやすさが際立った。絞りバネは9枚で、もたらされる背景ボケの美しさは相当なもの。センサーサイズこそ従来機と同じ1インチのままだが、広角端でも被写体の置き方で自然な背景ボケは得られる。さらに光学25倍の望遠効果を組み合わせればビデオカメラでは得られない美しいボケ味が得られるのだ。
また、「MK3」では特に動画撮影時に便利な機能が追加された。それがレンズ鏡筒部に備えられた「フォーカスホールドボタン」で、ボタンを押している間はピント位置を固定することができる。動画撮影では被写体に合焦した後でもフラフラとフォーカスが揺れることがあるが、この機能を使えばフォーカスをしっかりとロックすることができるのだ。既に一眼レフの「αシリーズ」にも搭載されており、静止画撮影でもコンティニュアスAF(AF-C)時に有効。高倍率ズームを備えた本機ならではの機能といえる。
高倍率ズームを生かすレンズの使い勝手も良好だ。操作リングは3連タイプで、レンズ先端からフォーカス、ズーム、絞りが機能するようになっているが、絞りリングは鏡筒部にあるスイッチでクリック感がON/OFF可能。ズームリングによるスピードは、デフォルトだと動きが緩慢に感じるが、MENUでスピードは2段階で変えられ、その他ステップ式ズームが選択できる。ただ、動きを速くすると動画撮影時は、周囲の状況によっては作動音が記録されることもあるようだ。
ワイド端からテレ端まで高い描写力
撮影時期は梅雨のど真ん中だったが、幸い晴れる日にも恵まれた。明暗差がきついシーンも少なくなかったが、そんなシーンでも本機は驚くほど高い能力を見せてくれた。特に高倍率レンズは、ワイド端からテレ端に至るまで変わらぬ高い描写力を発揮。伊達にレンズを大口径化したわけではないことを実感した次第だ。
まず静止画を撮影してみた。フォーカスしている部分を捉えた繊細なまでの高い解像力、フォーカスが外れているところを緩やかに暈かしていく感じが自然で心地良い。その上で豊かな発色も持ち合わせており、その映像からは一目で美しいと感じさせるに充分だ。
一方、4K動画を撮影するとここでも高い解像度で表現する優れた描写力に圧倒された。輪郭を強調することもなく、被写体をフワッと自然に表現。発色も良好で見たままに再現されているのがすぐにわかる。1インチサイズのセンサーは既にビデオカメラでも採用されているが、本機の能力は明らかにそれを上回っていると見ていいだろう。スペックを見ると、動画記録時は17M(5472 × 3080)で撮影されるということだが、4K映像はこれをリサイズして作り出している。つまり、元の情報を凝縮することでこの解像感が導き出されているのだ。
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マクロもいける万能カメラ
優れたマクロ撮影能力も本機ならではのウリとなっている。RX10シリーズは初代機よりこの機能に力を入れていたが、光学25倍ズームを備えた本機ではその機能に一掃磨きがかけられた。ワイド端では従来機と同じ約3cmとなっているが、光学25倍で約72cmまで近寄れる。たとえば、狭い車内でも細かな各部分をアップで撮影するのもお手もの。出掛けた先で見つけた目印なども積極的に捉えるのにも充分役立つことだろう。
そして、軽快な動作も本機ならではの持ち味だ。連写速度は最高約5コマ/秒と決して速い部類ではないが、動作自体が軽快であるため、シャッターを押す感覚がすこぶる気持ちがいい。手にしているボディの重さは感じつつも、この軽快な動作がつい撮る気にさせてくれるのだ。
手ブレ補正はインテリジェントアクティブを備えるが、残念ながら4K撮影ではこれが使えず光学手ブレ補正のみとなる。そのため、歩きながらの4K撮影では映像がかなりブレる。ソニーによればそうしたシーンは想定しておらず、あくまで高倍率撮影時の補正に役立てて欲しいとのことだった。フォーカスの安定性にも優れ、ズーミングしても外れることはほとんどない。おそらく歴代のRX10シリーズの中でも最も優れていると評していいだろう。
近年はビデオカメラの売れ行きがシュリンクしていると聞く。デジタルカメラはもとより、スマホで動画を撮る人が急激に増えたことが要因だが、本機を試すと、実力の上でももはやビデオカメラをかなりの部分で上回っていることを実感する。しかも4K動画が撮れるのだ。1kgを超える重量、実売16万円超えの価格は、まさにダブルで“ヘビー級”であることは確かだが、この実力を実感すればこれ一台で静止画と動画のすべてが高いクオリティでまかなえることは間違いない。家族の成長記録はもちろん、旅行などのイベントを高品質で残すには最適な一台であると思う。
【作例】
【SPEC】
撮像素子:2010万画素、1.0型積層型CMOSセンサー
モニター:3型/約123万画素
EVF:0.39型/約236万画素
サイズ:W132.5×H94.5×D144.9mm/約1150g
【URL】
RX10M3 http://www.sony.jp/cyber-shot/products/DSC-RX10M3/