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カメラ
2020/9/7 19:30

プロ写真家の撮り方に学ぶ! 身近な風景を「超広角レンズ」で切り取ってみよう

筆者が愛用するスナップ向きのカメラボディFUJIFILM「X-E3」にベストマッチな交換レンズを探す本企画ですが、今回は35mm換算で超広角15mmから広角36mmまでを1本カバーする「XF10-24mmF4 R OIS」をセレクト。レンズ側に手ブレ補正機能を搭載するため、ボディ側に手ブレ補正機能を持たない「X-E3」との相性も抜群です。

↑「XF10-24mmF4 R OIS」は重量410gと軽く、φ72mmのフィルターも使えます。右はFUJIFILM「X-A2」にフォクトレンダー「SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5」を装着したものです。ホットシューには水準器が取り付けられています

 

スナップショットの基本を見つめ直すために、FUJIFILM「X-H1」のオフィシャルCM動画撮影に参加した小平尚典さんに同行してもらいました。小平さんは1980年より写真週刊誌「FOCUS」の専属カメラマンとして活躍、御巣鷹山の日航機墜落事故、ホテルニュージャパンの火災などの報道写真から、若き日のスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツなどの人物写真まで幅広く撮影、現在はメディアプロデューサーとして活躍中。2020年には富士山ドローンサロンを開設するなど常に新しいことに挑戦し続けています。

↑現在はメディアプロデューサーとして活躍されている小平尚典さん

 

仕事でも広角は10-24mmがあれば大丈夫

小平さんが仕事で使っているFUJIFILMのカメラボディは「X-H1」と「X-T2」で、交換レンズは標準ズームの「XF16-55mmF2.8 R LM WR」と広角ズームの「XF10-24mmF4 R OIS」、そして望遠ズームの「XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR」の3本で、これに単焦点のマクロレンズ「XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro」を加えているそうです。

 

「80mmはポートレートにも使える柔らかい描写の傑作レンズですよ。あ、今日は広角ズームの話でしたね。10-24mmは歪みが少ないので建築写真にも使えます。単焦点レンズを複数持ち歩く必要がないので仕事にも散歩にも欠かせませんね」と小平さんも太鼓判を押します。

 

私はさらに超広角が使える「XF8-16mmF2.8 R LM WR」とどちらがいいか悩みましたが、重さが805gもあり、手ブレ補正非搭載だったので、スナップにはちょっとヘビーかと思い、10-24mmを選びました。ということで、今回は2人とも自前の超広角ズーム10-24mmで撮影します。

 

「この10-24mmレンズは、まず超広角15mm(35mm換算、以下も同じく)でのぞいてみて、20mmぐらいに戻しながら、ファインダーの四隅を見ながら調整していきます。それ以外は24mmにしてますね。ズーミングをして動かない棒立ち状態だと迫力ある写真は撮れないので、自分自身が動いて被写体を撮影しています。自らが動くフットワークが大切。広角ワイドはどうしても歪みが出ますが、それを気にするより、やはり広角はグッと被写体に寄るタイミングがコツだと思います」と小平さん。

↑「X-A2」は背面のチルト式液晶モニターを使って素早くローアングル撮影ができるという

 

瞬間を切り撮るために風景も連写する

小平さんも私もフィルムカメラ時代からのカメラユーザーであり、モノクロフィルムの現像から引き伸ばしまで、暗室にこもって自分でやっていた世代です。当時のフィルムは36枚撮りが最長で、実際は38枚ぐらい撮れましたが、それが終わるとフィルム交換が必要でした。撮影機材+フィルムを持ち歩く必要があり、海外ロケではフィルム管理が重要でした。

 

当時、フィルムは貴重であり、無駄なシャッターを極力切らないように気を配っていました。まあ、スタジオ撮影の場合は話が別で、冷蔵庫にフィルムがたっぷり入っていてじゃんじゃんシャッターを切っていましたが。その当時から一転して、デジタル時代は電池がなくなるまでシャッター切り放題で、何千枚も撮影可能です。これは夢のような話なので、私は、つい無駄に撮影枚数が増えてしまいます。小平さんは連写モードを常用されているようで、1つの被写体に対してのカット数が多いそう。

 

「最もいい瞬間がいつ訪れるのかを予想してシャッターを切りますが、その前後にもっといい瞬間があるかもしれません。ほんの数秒の違いかも知れませんが。風景写真でも光線の加減、風向きの違い、ほんのわずかな動きを捉えるため連写します」(小平さん)

 

そして、小平さんのモードダイヤルは常にMモードつまりマニュアルです。

 

「撮影モードはマニュアルです。ミラーレスほど、マニュアルで撮影すると楽しいものはないです。スナップであれば、シャッター固定で、例としてISO200で1/500sec、F5.6あたりから、ファインダーを見ながら、その絵柄の状況に合わせながら絞りリングを動かします。自分の気に入った露出で撮影できることは最高に楽しいです。もちろん開放で撮影したい場合はシャッタースピードを変えていきますが、フジのXシリーズは非常に操作がしやすくストレスはないですね。ぜひ、マニュアルでの撮影に挑戦してください。画質を重視するのでISO感度も200に固定、オートにはしません」と小平氏が、自身の撮影スタイルを語ってくれました。

↑「X-E3」に装着した10-24mmはボディが小柄なので大口径ズームに見えます

 

繊維の街・日暮里から谷中銀座、根津神社まで歩く

小平さんと待ち合わせたのは繊維の街として有名なJR日暮里駅。繊維街をブラブラ歩いて駅まで戻り、谷中銀座から根津神社へと抜けるルートを歩きました。スナップなので特に被写体は決めていません。小平さんは「X-A2」と「X-H1」の両方のカメラを使って撮影しています。「X-A2」を使った撮影ではレンズの焦点距離は22.5mm(35mm換算)になります。私は10-24mmの広角ズームのみで撮影、絞り優先AEでISO感度はAUTOにしました。それでは作例をご覧下さい。

 

【作例】

↑繊維街に入りカラフルな紐が軒先に並べられた店頭を切りとりました
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/1700sec F13 ISO12800 20mm相当で撮影)

 

↑同じ店頭を小平さんが撮影。歩道と人物を入れることで奥行き感が出ると同時に、軒先という状況もハッキリ分かるようになりました
(FUJIFILM X-A2 SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 1/60sec F8 ISO200で撮影)

 

↑歩道にあったオブジェ。場所を説明するため交差点の日暮里駅前と書かれた信号を入れました。
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/420sec F5.6 ISO200 36mm相当で撮影)

 

↑同じ被写体をX-A2で撮影する小平氏。広角レンズなのでかなり被写体に接近しています

 

↑小平さんは正面から連写してバイクのドライバーのポーズと位置がいいカットをセレクトしました。オブジェは動きませんが、背景が変化するため連写モードを使っています
(FUJIFILM X-A2 SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 1/60sec F8 ISO200で撮影)

 

↑老舗の佃煮専門店、中野屋を撮影。歩いてきた女性を入れることで動きを出しました
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/340sec F8 ISO200 30mm相当で撮影)

 

↑小平さんは15mmで空と周囲の状況を写し込んでいます。歩いている女性の背景が暗い位置で撮影しているため、白い服が浮かび上がって見えます
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/2000sec F4 ISO200 15mm相当で撮影)

 

↑経王寺の山門。山門の暗部がつぶれないようにダイナミックレンジを拡張するモードで撮影。奥の風景が額縁のように見える様子を狙いました
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/240sec F8+0.67 ISO800 24mm相当で撮影)

 

↑小平さんは15mmで手前の花にピントを合わせて、山門はボカして遠近感を強調しています
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F4 ISO200 15mm相当で撮影)

 

↑谷中銀座と七面坂の分岐点。正面に見えるのは犬専門のトリミングサロン。手前の道を入れて道路の二股の様子を強調しました
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/750sec F8 ISO200 29mm相当で撮影)

 

↑小平さんは電信柱が全部入るまで空を入れて撮影。左側の道路には自転車も入り、動きのある画面になっています
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F8 ISO200 24mm相当で撮影)

 

↑谷中銀座を撮った小平さんの1枚目。人影のない人気商店街、新型コロナウイルスの影響を感じさせられます
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F5.6 ISO200 18mm相当で撮影)

 

↑小平さんの2枚目。ズーミングで画角を狭くして手前の道路をカットして影と日向のコントラストを強調しています。影の面積が増えて不安なイメージがかき立てられます
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F7.1 ISO200 19mm相当で撮影)

 

元々は小川だったへび道で猫を探した

これまでのカットを見比べると、私の方が説明的な構図が多いと感じます。お店はこう撮る、お寺はこう撮るといった既成概念にいつしか囚われてしまっていたようです。このため、15mmという画角を活かしきれずについズーミングしてしまいがちに。

 

小平さんは被写体と向き合った時には、凄く高い位置から、地面すれすれのローアングルまで様々な構図を試して、順光、斜光、逆光と光の向きも検討してシャッターを切っていました。お寺を撮るのではなく、そこに何か面白い発見があるかどうか探す。そんな視点で街を歩いているそうです。

 

ここからは藍染川という小川を埋め立ててできた、へび道を歩きます。猫を探しながら歩いたのですが、なかなか本物の猫には出会えませんでした。

 

【作例】

↑小平さんが最初に見つけた猫。民家の白壁に描かれホッコリした雰囲気、左手前のネコジャラシも効いています
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F5.6 ISO200 36mm相当で撮影)

 

↑私が発見した猫は三次元に飛び出していました。トタンの壁に映った影の形もユニークでした
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/1100sec F4 ISO400 36mm相当で撮影)

 

↑小平さんが撮ったホテルリブマックス日暮里。超広角レンズのパースを使って建物の高さを強調しています。手前に自転車を入れることで画面に動きが出ました
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F7.1 ISO200 15mm相当で撮影)

 

↑小平さんが撮った、千駄木駅近くの通り、古い建物と新しい建物が混在、右に見えるリバティというパン屋さんは地元では有名らしいです。手前を走る自転車が街を生き生きと見せています
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/500sec F5.6 ISO200 15mm相当で撮影)

 

↑私が撮った道端に植えられたほおずき。最短撮影距離24cmなのでマクロ撮影もできます
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/300sec F4 ISO200 29mm相当で撮影)

 

↑根津神社の千本鳥居。普段は参拝客で一杯らしいのですが誰もいませんでした。逆側から見ると家内安全などのお願い事が書かれています
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/75sec F8 ISO200 15mm相当で撮影)

 

↑小平さんが撮った千本鳥居。色褪せた鳥居を混ぜることで画面に奥行きが出ています。さらに道をカットして鳥居だけをオブジェとして魅せています
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/60sec F4 ISO200 36mm相当で撮影)

 

広い所を広く、狭い所も広く撮れるワイドアングル

スナップには広角レンズがよく似合います。風景のより広い範囲を切り取りたい、狭い所は広く見せたい。そんな想いが広角レンズを選ばせます。その反面、被写体に思い切って近付かないと、テーマが背景に埋もれてしまうことも。広い範囲が写るので画面が散漫になりやすく、せっかく広角で撮影したのにPC画面でトリミングして使う。これでは広角レンズの意味がありませんね。

 

プロの物撮りなら周囲を広めに撮ってトリミングして使うこともありますが、スナップショットはなるべくノートリミングで。そのためには撮影時に画面の四隅まで神経を配って構図を決める必要があります。それだけではなく、一瞬のシャッターチャンスにも反応しなければなりません。インパクトのある被写体なら背景に負けずに目立ってくれるはずです。

 

最後に小平さんが最近テーマにしている木の写真と、私のホームグランドの吉祥寺で撮ったスナップをご覧下さい。

 

【作例】

↑逆光で絞り込み太陽の光芒を入れています。キレイな放射状の光が写るのがフォクトレンダーのこのレンズの特徴です
(FUJIFILM X-A2 SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 1/60sec F8 ISO200で撮影)

 

↑根津神社境内の巨木。こちらも逆光ですがレンズの性能がいいのでほとんどフレアが出ていません。階調性が豊かで、明るい空から暗い幹まできちんと描写されています
(FUJIFILM X-H1 XF10-24mmF4 R OIS 1/1000sec F5 ISO200 15mm相当で撮影)

 

↑降り出した雨の中を傘も差さずに早足で歩く女性。ノーファインダーで撮影。絞り開放だったのでAFが合ったのは偶然でした。後ろ姿でも人物認識してほしいです
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/200sec F4+0.33 ISO400 15mm相当で撮影)

 

↑吉祥駅南口からアトレを出た交差点。パースが強調され、ベンツのフロントノーズが長く見えています。道路も実際より広々としています
(FUJIFILM X-E3 XF10-24mmF4 R OIS 1/300sec F4+0.33 ISO200 15mm相当で撮影)

 

これからの涼しい季節は、ぜひ広角レンズをつけたカメラを持って、身近な風景を撮ってみてはいかがでしょうか。レンズを通して見ることで、見慣れた景色のなかにも新たな発見があると思いますよ。

 

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