シグマのコンパクトデジカメ「dp Quattro」シリーズ。前編では、4機種の画角や色味の違いについて考察した。後編では、4機種の作例を紹介していこう。画像をクリックすると拡大表示可能なので、気になる方はじっくり見て頂きたい。なお、前半の画像はすべてJPEG記録の撮って出しとなっている。
【前編はコチラ】
超絶解像度を誇る孤高のカメラ シグマ「dp Quattro」シリーズを一挙比較!【前編】
dp0 Quattroは超広角撮影が手軽に楽しめる
21mm相当の超広角レンズでポートレート。遠近感がかなり強調されるため、構図には気をつけたい。特に、近くの被写体はゆがんでしまうため、ポートレートの場合はなるべく中央に人物を置いたほうがいいだろう。今回は人物を強調しつつ、奥行き感を出した。dp0 Quattroは色味があっさり目のため、ポートレート向きな色味だ。
超広角の画角を活かし、広々とした風景を撮影。F10まで絞っているため、遠くの木々や小さく写る建物などもしっかりと描写されているのがわかる。手前の農園のディティールもしっかりと出ており、解像感の高さが伺える。
オブジェに留まる鳩を逆光気味に撮影。拡大して見るとわかるが、一見黒つぶれしてしまっている鳩も、階調が残っている。また、遠くに写るビルのディテールがしっかり出ている。
dp1 Quattroは濃い目の色味を活かそう
4機種の中でもかなり色が派手目に出る機種。モデルの赤いブラウスが目立つ。28mm相当ながらF2.8という開放値なので、被写体に寄って絞り値を小さくすれば、背景をぼかすことができる。
カメラを地面ギリギリまで下げて撮影。曇り空のため全体的に色味がおとなしめの写真だが、モデルの赤いブラウスがアクセントとなって目を引く。
蓮池に咲く蓮の花を撮影。広角レンズでの撮影では、メインの被写体と背景を両方活かすことができるので、背景にも気を配るといいだろう。
日常のさりげない一瞬を捉えるのに適したdp2 Quattro
45mm相当の焦点距離は、いわゆる「標準域」と呼ばれ、扱いやすい。広角レンズのように遠近感の誇張がなく、ストレートに撮影ができる。寄って撮影すれば望遠レンズのようにもなるし、引いて撮影すれば広角レンズにようにもなる。このカットは、モデルの自然な表情を引き出すために、川岸を歩きながら撮影したもの。ISO400だが、ノイズやディテールの乱れはあまり感じられない。
水が流れていない小川。こういう被写体では、dp Quattroシリーズの解像感が際立つ。個人的に、金属や石などの硬質なものの描写に、dp Quattroシリーズは向いているのではと感じる。
薄暗い公園を高感度撮影。正直なところ、dp Quattroシリーズは高感度撮影は苦手。ISO800でもややノイズが目立つ。ISO1600からはカラーバランスが崩れる。ISO6400ではほぼ色味がなくなっていく。ISO800くらいが限界値か。
マクロ撮影も可能なdp3 Quattro
75mm相当のレンズを搭載したdp3 Quattro。75mmは中望遠域のため、メインの被写体を大きく写し、背景をぼかす撮影などが得意。このカットでは、あじさいをモデルの前と後ろに配置し、前ボケと後ろボケの両方を活かした。色味も4機種のなかでは落ち着いており、扱いやすい。
並び立つ木々を撮影。手前の木や葉の質感に解像感の高さが伺える。カラーモードを「風景」にしているため、やや彩度が高めになっている。その効果か、絵画的な雰囲気になった。
dp3 Quattroは、最短撮影距離22.6cm、最大撮影倍率約0.3倍。等倍撮影まではいかないが、簡易的なマクロ撮影が可能だ。小さなシロツメグサもググッと寄って大きく撮影できる。日常的なスナップ撮影だけでなく、ポートレートやマクロ撮影など使い方によってはかなり可能性を秘めたカメラだ。
同じdp Quattroシリーズだが、それぞれかなり個性があるのが作例からわかるだろう。究極的には、4機種を状況によって使い分けるのがベストだが、持ち運ぶ手間は資金面を考えるとあまり現実的とは言えない。
最初の1台を選ぶとしたら、画角的に扱いやすいdp2 Quattroあたりか。スナップ撮影をメインにするならdp1 Quattroもありだろう。
dp Quattroシリーズのポテンシャルを最大限に引き出すRAW現像
これまでの作例を見ると、dp Quattroシリーズは他のデジカメに比べると、やや地味な画像という印象を受ける。撮影したJPEGファイルを編集してもいいが、画質が劣化してしまう。できるだけ高画質を保ったまま、自分のイメージに近い写真にしたい。そんなときには、RAW撮影だ。
RAWとは「生」という意味。通常、デジカメの画像は撮影後にJPEGファイルに変換されて保存される。JPEGファイルに変換されるとき、不要な情報は削除されカメラで設定されたホワイトバランスや色味に従った加工がされ、圧縮される。圧縮されると、元に戻すことはできないため、削除された情報は永遠に帰ってこないことになる。
一方RAWファイルは、JPEGファイルに加工される前の画像を指す。このRAWファイルは、無加工の状態のためにファイルサイズがとても大きいが、保持している情報量も多い。これを専用ソフトで加工すると、ほとんど画質劣化を気にすることなく、自分の好みの写真に仕上げることができるのだ。この作業は「現像」と呼ばれる。RAWファイルを残しておけば、何度でも現像作業が可能だ。
このRAWファイルは、各カメラメーカーで独自の仕様となっている。dp Quattroシリーズの場合、RAWファイルの拡張子は「.X3F」となる。これを、専用ソフトである「SIGMA Photo Pro」で現像を行うと、JPEGファイルので撮って出しに比べ、より自分のイメージに近づけることができる。
そこで、簡単にSIGMA Photo Proでの現像方法について解説する。
先ほどdp3 Quattroの作例で紹介したシロツメクサの写真。これをもう少し明るく、さわやかな写真に仕上げてみよう。
これがSIGMA Photo Pro。原稿執筆時点での最新バージョンは6.4.0。製品に付属するCD-ROMからインストールできるが、最新版はWebサイトからダウンロードしたほうがいいだろう。
現像したいファイルをダブルクリックすると、現像ウィンドウが表示される。
これが現像ウィンドウだ。画面左側の設定画面で、露出やコントラスト、ホワイトバランスやカラーモードなどの設定変更ができる。
やや画面全体が暗いので、「露出」スライダを右に移動して明るく補正。露出を+1にするだけでこれだけ印象が異なる。また、dp QuattroシリーズはRAWファイルに保持されている色情報が豊富なため、白とびや黒つぶれに強いという特徴がある。
背景の緑を鮮やかに見せるために「カラーモード」を「フォレストグリーン」に設定。「風景」や「ビビッド」なども試してみて、気に入ったカラーモードにしよう。
さらにコントラストや彩度などのパラメータを変更していき、イメージ通りの写真に仕上がったら、JPEGファイルやTIFFファイルとして保存しよう。
現像後の写真。JPEG一発撮りの写真に比べ、より印象的に仕上がった。JPEGファイルから加工すると画質が劣化してしまうが、RAWファイルからならば画質劣化は気にしなくてもよい。
SIGMA Photo Proは無料で使えるので、dp QuattroシリーズでRAWファイル撮影をしたいという場合は、インストールしておくといいだろう。
画質へのこだわり派なら1台は手にしたい
正直なところ、dp Quattroシリーズはクセが強いカメラといえる。ボディデザインの独特さに目を奪われがちだが、画質のほうもなかなか独特。今回はJPEG一発撮りで撮影したものを掲載したが、ほかのメーカーのコンデジに比べるとかなり地味な印象だ。
いくら解像感が高いとはいえ、気軽に撮影できないというのは、一般の人にとっては使いづらいカメラと言える。
一方、画質へのこだわりがある中上級者にとっては、この解像感は唯一無二の存在。他のメーカーのカメラの画質に不満があるのならば、ぜひdp Quattroシリーズで撮影してほしい。もちろん、撮影はRAWファイルで行い、SIGMA Photo Proで現像がオススメ。高解像感を残したまま、自分好みの画質に仕上げることができる。
誰にでもオススメできるカメラとは言いがたい。特に初心者には扱いづらいことこの上ないだろう。しかし、それでもdp Quattroシリーズにしか撮れない写真がある。撮影のレスポンスもそれほど高いとは言えない。SDカードへの書き込みも速くはない。背面液晶は明るい屋外での視認性が低い。高感度撮影に弱い。SIGMA Photo Proの使い勝手もイマイチだ。
しかし、dp Quattroシリーズは他のデジカメとは違う。dp Quattroシリーズにしか出せない「画質」がある。画質へのこだわりがあるのなら、一度は使っておかなければならないカメラと言える。
考え方によっては、フィルムカメラに近い。撮影した時点で完結する現在のデジカメとは違い、撮影後の「現像」まではワンセット。本来の写真の楽しみ方ができるのが、dp Quattroシリーズなのではないだろうか。