森永乳業のアイス「Pino(ピノ)」は、ロングセラー商品です。2016年で40周年を迎えました。「ピノ」が発売されたのは、1976年です。「徹子の部屋」の放送がはじまった年であり、アメリカでは、スティーブ・ジョブズが「アップルコンピューター」を創業しています。
現在でも「ピノ」は、年間11億粒も売れているそうです。ながく売れ続ける商品には、どのような秘密が隠されているのでしょうか。
ロングセラーの共通点
『ササる戦略』(三才ブックス・刊)には、ヒット商品や成功したビジネスにまつわるインタビュー記事が収録されています。
著者の土肥義則さんが、森永乳業のマーケティング担当者に「ピノ」がロングセラーになった秘密をたずねたところ、「わからない」という答えが返ってきました。
企業秘密をごまかしたのではなく、そもそもロングセラー商品というのは、とても一言ではあらわせない気長な企業努力と細かい工夫のたまものだからです。
「ピノ」は、ひとくちサイズのバニラアイスをチョココーティングした単純なものですが、40年のあいだ、レシピと製造方法をすこしずつ変えてきました。
このような「水面下における度重なる改良」というのは、ロングセラー商品の共通点といえます。
つぎに、自販機で買えることで有名な「セブンティーンアイス」の知られざる企業努力を紹介します。
自販機アイスの歴史
江崎グリコ「セブンティーンアイス」には、30年以上の歴史があります。
1983年の発売当初は、ほかのアイスとおなじ小売店のショーケースで売っていました。自販機で販売するようになったのは1985年からです。
「セブンティーンアイス」という商品名があらわすように、はじめは「17歳の若者」をターゲットにして、ボーリング場やスイミングスクールに設置していました。
その後、ショッピングセンターや駅にも並べるようになり、大人にも手にとってもらえるようになったそうです。
現在では、あわせて2万台以上の「セブンティーンアイス」自販機が、日本全国で稼働しています。
気づかない「改良」がロングセラーを生み出す
30年以上の歴史がある「セブンティーンアイス」は、いまでも売れ続けています。2013年には、過去最高の売上を記録しました。
『ササる戦略』には、江崎グリコによる「2つの工夫」が紹介されています。
ひとつは、自販機パネルの「クリームの見える部分を増やした」ことです。本書に掲載されている「新旧パネルの比較写真」を見比べると、たしかに1.5倍ほどクリーム面積が広がっています。
もうひとつの工夫は、セブンティーンアイス自販機の「パネルデザイン」を毎年変えていることです。
意外な事実でした。新フレーバーアイスだけでなく定番アイスのパネルも毎年変わっています。この事実に気付いている人は少ないのではないでしょうか。
わたしたちが普段なにげなく使っている自動販売機ですが、じつは細かい配慮がなされています。
最後に、ダイドードリンコの自販機にまつわる「ヒットの秘密」を紹介します。
常識を覆したダイドーの研究結果
「Dydo」ロゴでおなじみの自販機を設置しているダイドードリンコ株式会社は、もとは薬品会社の飲料部門でした。
母体である大同薬品工業は、置き薬方式でガソリンスタンドを顧客にしており、薬箱のそばにコーヒーも置いて好評を得たことが、のちの飲料自販機事業へと発展していきます。
コカ・コーラ社やサントリーなどの競合他社とは異なり、ダイドードリンコは飲料売上に占める自販機比率は9割です。
つまり、ダイドードリンコは自販機販売にすべてを賭けており、並々ならぬ情熱を注いでいます。
もっとも成果を上げているのが、アイトラッキング技術による「視線」の研究です。
‘‘その結果、「左下」に視線が集まっていることが分かったんですよ。これには驚きましたね。
というのも、従来のマーケティングでは「『左上』が最も見られている」と言われてきました。これは自販機だけでなくスーパーやコンビニの棚でも「左上」と信じられてきました。
まず「左上」を見て、アルファベットの「Z」の形で右下まで目を動かす──これが常識でした。‘‘
(『ササる戦略』から引用)
アイトラッキング研究を自販機ショーケースの並び順に活かすと、缶コーヒーの売上が数十パーセントもアップしたそうです。
ロングセラー商品を作り出す「戦略」とは、ひたすら「見直す」ことです。
一発逆転のアイデアをひねりだすよりも、作ったものを気長に改良して、長く売り続けるほうがうまくいくのかもしれません。
(文:忌川タツヤ)
【参考文献】
ササる戦略
著者:土肥義則
出版社:三才ブックス
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