困ったなと思う人に出会ったことがありますか? 私はあります。すごく多くはないけれど、やっぱりあります。何度かあります。
身に覚えがないのに、「あなた、私の悪口言ったでしょう?」とか「自分が幸福だからって、見下しているでしょう?」とか、「美容に関心を持とうとしない、その態度が許せない」と、いきなり噛みつかれ、言い返すこともできずに、立ちつくしてしまったことが……。
すぐに言い返せばよいのでしょうが、私はぼけっとした性格なので「悪口? 言ったっけ?」とか、「私は幸福なの? ま、そうか」とか「これでも綺麗になろうとしているんだけど」と、考えこみ、その態度が、かえって相手の怒りを燃え上がらせてしまうのです。
後になって「ひどい、あんまりだ」と、泣いたりしますが、その時はすでに相手は目の前から姿を消しており、結局は言われっぱなしで終わるというのを繰り返すことになります。
どんなに嫌でも避けられないときは
それでも私はましな方でしょう。家で原稿を書くのが仕事ですから、どうしても相いれない性格の人に会ったら、付き合わないようにすればいいのです。住まいもマンションで、近所づきあいもほとんどありません。
たまに人に会うときは、お互い好ましく感じているいわば「相思相愛」の人と楽しく過ごしたいと思っています。相手にとっても、その方がいいはずです。悪口を言われているとか、見下しているとか、許せないと思っている私となんか付き合わない方が、平穏な生活が約束されます。
ただし、その代わりにある程度は、孤独に耐えなければなりません。毎日、会社に行けばとりあえず気心が知れた人たちと日常会話できるといったチャンスはないのです。
とりあえずは人の輪の中にいたいと思うこともありますが、まあ、それも自分で選んだ道だから仕方がないと、ぽつねんと暮らしているわけです。
困った人の割合は20人に1人
『困った性格の人とのつき合いかた』(小羽俊士・著/すばる舎・刊)によると、性格上の特性が極端で難しく、「ちょっと……」と感じるような人と出会う確率は20人に1人だといいます。
20人に1人。けっこう多いと思いませんか? 普通のクラスでいえば、1学級に2人の割合ですから。これはまずい。ヒジョーにまずい。完全に避けて通るのは難しそうです。
職場に自分を攻撃してくるモンスターのような相手がいたら、どんなに嫌でも毎日のように顔を会わせことになります。その人から離れることができない場合もあります。
上司や同僚、仕事でつき合いのあるお得意さん等々。それどころか、大好きな友達や家族が、非常に特殊な性格の持ち主で周囲を困らせる場合もあるでしょう。こうなると、本当にもうどうしていいかわかりません。
困った性格の人はそんなこちらの悩みなど理解せず、困らせ続ける場合が多いのですから、ますます両者の関係は泥沼化していくことになります。これは何とかしなければなりません。
クレーマーおばさんに怒鳴られて
私は私を嫌いだという人とはなるべく会わないようにして暮らしているつもりですが、それでも、相手がやって来てしまう場合もあります。
ある日のことです。玄関のチャイムが鳴りました。「宅配便かしらん」とドアを開けると、一人の女性が立っています。ゴージャスな服にきちんとセットされた髪。同じマンションに住んでいるマダムでした。「こんにちは」と挨拶をすると、彼女は「あなたねぇ」と、いきなり怒鳴り始めました。
我が家から真夜中にシャワーの音がして、眠れないというのです。当時、うちの夫は不眠症に苦しんでいて、夜中によくシャワーを浴びていたので、確かにそういうこともあるかと思い、「わかりました、以後、気をつけます」と言ったのですが、怒りは収まらず、ツバキを飛ばしてまくしたてます。
顔にツバキがかかるのを避けようとズルズルと後退したのが、さらなる怒りを招いたようで、「あなたっ! 聞いてるの!!」と、ズンズン踏み込んでくるのです。
どうしたらよかったの?
ようやく解放されて、浴びたツバキを洗い流そうと、洗面所で顔を洗っていると、またチャイムの音。げっそりしながら扉を開けると、顔見知りの奥様が「大丈夫?」と、涙ぐみながら聞いてきます。
何だろうと思ったら、私を慰めに来てくれたのです。怒鳴り声が聞こえたといいます。先ほどの怒りのマダムはクレーマーで、他の部屋の人にも文句を言い、捨て台詞として「訴えるわよ」の言葉を残し、その後も何度かやって来るというのです。
確かに、マダムは翌日、またやって来て、「先月のお盆の時期が一番うるさかったわよっ。亡くなった家族を静かにお迎えしようと思っているのに、あなたの家がうるさいから、できやしないじゃないの」と、怒鳴り始めたので、「あ~~、それは無理ですぅ」と、つい答えてしまいました。
お盆の期間、私たち一家は帰省していて留守だったのです。誰かに家を貸したりもしていません。すると、彼女は「あなたっ! じゃ、何なの? 他の家の水音だとでもいうの? それを言い逃れというのよっ」と、またまたツバキを飛ばし始め……。
ゲッソリ……。そして、また顔を洗う羽目に……。結局、二度とやってこなかったのですが、あのとき、どうやって対処すべきだったのか、今でもよくわかりません。
こうしたらよかったのか!?専門家が示す5つの方法
『困った性格の人とのつき合いかた』の著者はプロの精神科医です。日夜、神経症やうつ病の患者さんの治療にあたり、同時に家族や周囲の人たちにも接しています。
それだけに、冷静に対処法を教えてくれるのです。困った人への対処法で、すべてに共通して言えるのは次の5つです。
1 自分と相手の間にある対人関係の境界線を明確にする
2 自分の側の問題と相手の側の問題を分けて考えていく
3 境界線の向こう側にある相手の縄張りを尊重し、境界線を踏み越えて、手出しや口出しをしないようにしていく
4 相手との関係で、自分のできること、できないこと、すべきこと、すべきでないこと、を明確にしていく
5 嫌な感情に仕返ししたくなる自分自身の気持ちにしっかり気づき、行動化しないようにコントロールしていく(『困った性格の人とのつき合いかた』より抜粋)
難しいとは思います。果たして私にできるか自信はありませんが、自分の身を守り、相手への思いやりをはぐくむために、試してみて損はないはずです。
それから、もう一つ、実は私は不安に思っていることがあります。もしかしたら、相手ではなく、私自身が周囲を困らせているのではないかという恐怖です。それを確かめるためにも、読んでおかねばなりません。
(文・三浦暁子)
【参考書籍】
困った性格の人とのつき合いかた
著者:小羽俊士
出版社:すばる舎
理不尽なほどのストレスを感じさせられてしまう「困った性格の人」。私たちはどんな相手を「困った性格の人」と思ってしまうのでしょうか? どんな人との関わりでも、多少の摩擦や利害の対立はあるでしょうし、そのためにいくらかのストレスを感じることは避けがたいでしょう。しかし「困った性格の人」を相手にする時、私たちはそうした普通の「避けがたい」「しかたのない」レベルをはるかに超えた〈理不尽なほどのストレス〉を感じさせられてしまうのです。「彼ら/彼女ら」と関わっていると、私たちは通常以上に傷つき、苛立ち、怒りを生じ、こうした自分自身のネガティブな感情に疲弊してしまいます。「彼ら/彼女ら」は、対人関係における境界線を平気で踏み越え、〈マイ常識〉〈マイルール〉を押しつけて他者を支配しようとしてきたり、自分の感情をコントロールするためにネガティブな感情を他者に押しつける形で「他者の心を使ってしまう」ということが目立って多いのです。本書では特に「境界性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」「ヒステリー性格」を取りあげ、その性格病理を正しく理解することからはじめ、どうすれば「困った性格の人」との関係を不愉快なものにしないでいられるかを解説します。数多くの臨床例を診療してきた経験豊富な精神科医による具体的な方法は、簡単に離れられない「困った性格の人」との人間関係に悩むあなたを助ける有効な方法となるでしょう。
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