中堅私立中に息子が通っていた頃、そこのお母さんたちはよく集まり、時には教師も交えて朝まで飲んでいた。彼女らの話題はブランドのセールや美味しく飲めるバーやレストランの話など、出かけることが中心で、口ぐせは「うちの子勉強しないのよ〜」。しかしそこを退学し、偏差値が18も上の難関私立高に進学したら、お母さんたちの姿はまるで違っていた。
話題が違う母親たち
難関高のお母さんたちは、ロゴが付いているようなブランド品は、ほとんどの人が持っていない。中堅校では競い合うかのようにブランドロゴをよく目にしていたので大違いだった。その代わり、質が良さそうな素材の品のいい格好をしている。そしてセールやバーの情報には詳しくはない。代わりに詳しいのは時事ニュースや海外情勢であった。ちなみに集まりでも朝まで飲んだりもしない、早めの時間に集まり、終電にまだ余裕がある時間に解散している。
そして彼女らの口から「うちの子勉強しないのよ〜」というセリフは出てこない。よく聞いたのは「うちの子が勉強しているのかどうか、よくわからないのよ」という言葉だった。学校や塾の自習室に寄っているらしい、または部屋にこもって何かしているようだ、そう言うのだ。子どものことは子どもにまかせている感じだった。そんなお子さんたちは次々と東大などの最難関と言われる大学に進学していった。中堅私立中のお子さんたちのなかからは、東大合格者は出なかった。
親が勉強する利点
『ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?』(学研プラス・刊)は、子どもの勉強のことで悩む親からの様々な問いに、教育専門家の石田勝紀さんが答えている本だ。その中に「うちの子が勉強しない」という母親がいた。
石田さんが「お母さんは今何かを勉強していますか?」と尋ねると「仕事が忙しくて特に勉強してません」という答え。すると「お母さんも学びたいことをやってみたらいかがでしょうか」というアドバイスが飛んだ。
石田さんは「親の好奇心は子どもにコピーされる」と言う。親が楽しそうに何かを学んでいれば、子どももそうした姿勢が知らず知らずのうちに身につくのだと。私はこれに心底賛同する。それなのに質問した母親はあぜんとしていた。子どもが勉強しないと相談したのにお母さんが勉強しなさいと言われたのだから、納得いかないのだろう。
ムダのない生きかた
難関私立高のお母さんたちは、社会情勢に関心を持ち、英語にも詳しい。海外生活経験や海外旅行経験があるお母さんが多いからか、日ごろから英語を勉強しているお母さんも多い。そしてテレビやネットをだらだらと見ることはせず、特定のコンテンツを楽しみにチェックしている。自分の関心を絞り、忙しい日々の中で、欲しい情報のみを得ているのだ。そこにはムダなく的確に行動する姿がある。
こうしたお母さんの姿を見て育つから、お子さんたちも自然と、ムダなく的確に動く姿勢が日ごろから身につくのだ。だらだらと目的もなくテレビを見ているお母さんに育てられたら、だらだらと焦点を絞らず勉強する子どもに、録画予約をしておいた番組を手が空いた時に観るようなお母さんに育てられたら、事前に用意しておいた参考書でポイントを絞った学習ができる子どもになりやすいのかもしれない。
できるお母さんの日ごろの姿を見ていたら、子どももそのように自然に体が動くようになる。空手のように「型」ができるので、子どもが勉強しているかわからなくても安心していられるのだ。
一朝一夕ではない
子どもが勉強しないのは、どうやって勉強したらいいのかその方法がわかっていないからだという話はよく聞く。けれどお母さんが日ごろから寸暇を惜しんで学んでいたら、勉強とはこうやるものなのかということを子どもは目の当たりにするはずだ。近所の人に挨拶する姿を見せれば子どもは挨拶ができる子になる。それと同じで勉強する姿を見せれば子どもも勉強ができるようになるのだろう。
学ぶお母さんたちの影響を受けたこともあり、私も遅ればせながら英語を勉強したり、通信制大学で学んだりするようになった。すると家の中の空気は変わった。お母さんが机に向かって勉強している。いつも書いている原稿ではなく、大学のレポートを書いている。その姿を子どもたちに見せると、子どもたちも机に向かう時間が長くなり、何やら難しい顔をして学校の課題に取り組むようになった。親の姿を子どもはコピーするのだ。一朝一夕ではそうはならない。日々コツコツと学ぶ姿を子どもに見せることが肝心なのだと思う。
(文・内藤みか)
【文献紹介】
ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?
著者:石田勝紀
出版社:学研プラス
東洋経済オンラインで累計3000万PVを超える大人気連載を持つ著者が、子どもの教育に悩む親へ送るアドバイス集。悩みの多い項目をリストアップし、極めてわかりやすく実践方法を紹介。根本原因は日常生活にあり、生活習慣を変えれば、問題は解決する。