私の母は環境の変化に弱く、引っ越す度に具合が悪くなって、ぶっ倒れるようなヒトだった。だったら、なぜ転勤族の父と結婚などしたのだろう。よほど好きになったのだろうか。不思議に思って尋ねてみると、生まれたときからほとんど同じ場所に住んでいたため、引っ越しに弱いと気づかなかったらしい。
引っ越しの度に倒れる母
引っ越しそれ自体は簡単なことだった。
引っ越し屋さんがやってきて、何もかも段ボールに詰め込み、あっという間に新しい家に運んでくれるからだ。
問題はその後だ。
ダンボールが詰まれた家で母は寝こみ、父は職場に出かけていった。新しい学校への転校手続きは誰がやるのだろうと、いつも不安に思ったが、救いの手がさしのべられた。
母方の祖母がやって来て、何もかも片付けてくれるのだ。有り難い話ではあったが、祖母は猛烈な人で、家で本を読むのが好きな私に小言ばかり言っていた。「ボヤボヤしていないで、外で遊びなさい!」と。
祖母が処方する自慢の薬は朝顔の汁?
仕方がないので、夕方まで外にいたので、私は友達を作ることができた。新しい土地にもいちはやく慣れた。ただし、困ったこともあった。
なぜか蚊にさされるのだ。
ヤブ蚊が、よそ者の新しい血は美味しい!と思うはずもないが、とにかく腕がはれあがるくらい刺される。家に帰り、「おばあちゃん、虫刺されの薬、ちょうだい。かゆい」と、訴えると、祖母はいきなりベランダにある朝顔の葉をもぎとるや、私の腕が汁で緑色になるくらい、おしつけてくる。「痛い!やめてよ」と、言っても、ぎゅうぎゅう、ズリズリ大変な勢いだ。
私はベソをかいたが、不思議なことに、すぐにかゆみはおさまった。祖母によれば、朝顔の葉っぱの汁は、天然の薬だというのである。
あなどれない植物の力
植物には私の知らない力があるのかもしれないと、『天然おくすり』(池田明子・監修/学研プラス・刊)を読んでみた。そして、驚いた。植物には私の知らなかったパワーがあるようだ。
監修者の池田明子は、植物の力を心身の健康と美容に活用する「フィトセラピー(植物療法)」の専門家で、植物に対して独自の視線を持っている。
動物は必要な栄養源を自ら移動しながら得ることができるが、植物はそうはいかない。
大地に根を張った植物は、必要な栄養源をほかの動物や植物に依存することなく、自ら合成するなど、強いパワーを持っています。
(『天然おくすり』より抜粋)
日差しが強いとき、私たちはしばしば木陰に入って休ませてもらう。
しかし、その植物自体は、どんなに日差しが強くても、移動できないため、紫外線を避けることができない。
けれども、心配しなくても大丈夫だ。
そこで植物に備わっているのが、酸化し対抗する「抗酸化作用」という働きです」
(『天然おくすり』より抜粋)
からだに取り込む6つの方法
有り難いことに、私たちも植物の持つ「抗酸化作用」の恩恵にあずかることができる。植物に含まれている成分を取り入れ、体や心の調子を整えることができるらしい。これは試してみたくなる。
そのための方法は6つ。
1:飲む ハーブティーとして飲む
2:食べる 食事としてジャムなどの形で食べる
3:香る 精油をハンカチにしみこませて楽しむ
4:入浴 ゆず湯や菖蒲湯などの形でお風呂に入れる
5:塗る 皮膚を通して働きかける
6:あてる シップやローションパック、うがいなどで活用
アレルギーがある方は医師に相談し、十分に注意しながら、植物のパワーを楽しめばいい。
植物パワーに期待した7つのケース
『天然おくすり』は7つのチャプターに分けて、植物パワーを細かく説明している。
すべてを網羅する余裕はないので、かいつまんで紹介してみよう。
チャプター1:風邪・アレルギー 免疫系のバランスが乱れると、風邪やアレルギーが引き起こされる。そのため、消炎作用や免疫系のバランスを整えてくれるハーブが役に立つ。
チャプター2:疲労・肩こり 体に疲労物質や老廃物がたまると体の痛みになって表れる。ハーブで心身を癒やし、血行をよくしたい
チャプター3:心の不調 心身をリフレッシュさせたいときもハーブの力が効果的
チャプター4:胃腸の不調 胃腸の不調は体全体に響く。リンゴやゴボウなどが効果的
チャプター5:女性特有の不調 いわゆるホルモンの乱れを改善するハーブ
チャプター6:加齢による悩み ゴマ油、セロリなど、身近なものに効果が期待できる
チャプター7:美容対策 グレープフルーツやレモンなどの果物からサイプレス、イランイランなどのハーブも使える
それぞれに効果的なハーブやフルーツが紹介されているので、自分の体と相談しながら、試してみてはいかがだろう。
効いていたのか?朝顔の葉っぱパワー
残念ながら、『天然おくすり』には、虫刺されに朝顔の葉っぱを用いる例はなかった。
しかし、植物のパワーには、「抗菌作用」や「抗ウィルス作用」に並んで「防虫作用」もあるというから、あながち間違いではなかったように思う。
少なくとも、私のかゆみは止まったし、祖母の愛を感じて新しい環境になじむこともできた。
さらに、環境の変化に弱い母が、どうにか何度かの引っ越しに耐えることができたのは、きっと祖母によってもたらされる何かの力のおかげだ。
祖母を思い出すと、椿油の香りを思い出す。今年は植物のパワーについて勉強しようというのが、新春の決心となった。
【著書紹介】
天然おくすり 身近な食材や植物で不調を癒やす
著者:池田明子(監修)
出版社:学研プラス
体の様々な不調を、身近な食材や植物の力で整えます。疲労、冷え、肌荒れ、肩こり、目の疲れ、ストレス、不眠、便秘など、症状別に自然の処方で悩みを解決。ハーブティー、精油、アロマバスなどすぐに使える実践法を紹介。健康で美しくなるためのバイブル。