アニメーションのキャラクターに声を吹き込む声優。今も昔も人気の高い職業の一つだ。最近は、水樹奈々さんのように紅白歌合戦に出場する声優も登場したりと、その活動の幅はマルチなものになっている。
さて、新学期となり、将来の職業として声優を志している若者も多いことだろう。キン肉マン、ケンシロウなど数々の主人公を演じてきた人気声優の神谷明さんの本『声優になるには 初歩からプロの技まで』(神谷明・著/学研プラス・刊)から、声優になるためのヒントを紹介していこう。
高校時代にやっておくべきこと
「夢は声優。高校時代にすべきことは?」という質問には、神谷さんはこう回答している。
まず、大事なのは学校の勉強だ。得意な学科を掘り下げていくことも大事なことだが、それ以外の科目もまんべんなく勉強し、不得手をなくしておくことが肝心だ。
ボイストレーニングとか歌の練習とか、そういうことの方が必要だ、という回答が真っ先にくると思ったのに、意外だ。その理由を神谷さんはこう解説している。
声優になった君に先生(どんな教科でも)の役が来たと仮定しよう。その場合、しゃべっている内容が理解できなければ、演じることもできないだろう? また、ナレーションなどでも、様々な知識を要求されることがある。ウィークポイントは少ないほど良いのだ。
『声優になるには 初歩からプロの技まで』より引用
なるほど、参考になる。そのためには、一般常識を学んだり、友達を作る意味でも高校はできるだけ行っておいた方がいいということだ。何事も焦りは禁物。まずは普段の授業や人間関係を大切にすることが近道のようだ。
アニメよりも映画や演劇をチェック
演技を勉強するためには、やはりアニメをたくさん見る方が良いのだろうか? 神谷さんは、映画や演劇の鑑賞を第一にすすめている。お金が足りないという人には、テレビの舞台中継が良いとのことだ。テレビのニュースや雑誌のチェックも必須だという。
なぜなら、僕たちの仕事は『時代の風を感じる仕事』だからだ。今、世の中がどう動いているか、風俗、習慣、流行、政治、経済など、知っておかなければならないことは多いぞ。
『声優になるには 初歩からプロの技まで』より引用
声優の仕事の幅が広がっている今だからこそ、あらゆる分野の知識や教養が求められているといえるだろう。アニメが好き! という思いだけではなかなか声優になることは難しいようだ。
養成所や専門学校に行けばデビューできる?
巷に溢れる声優の専門学校や養成所。こういう学校に通えば、憧れのデビューも可能なのだろうか。神谷さんはずばり「NO!」と答えている。確かに、それらに通わなければ難しい面もあるけれども、行ったからと行ってなれるわけではないのだそうだ。神谷さんはこうも語っている。
夢を持つのは良いことだ。でも、普通の人と同じことをしていては、それは手に入らない。(中略)発声練習を欠かさないことはもちろん、あらかじめ渡された台本をボロボロになるまで読むなんてのは当たり前だ。
『声優になるには 初歩からプロの技まで』より引用
才能と努力が不可欠
最後に、神谷さんは声優になる夢について、“才能があり、努力を続けたわずかな人だけが、手に入れることができる”と語っている。本書によれば、養成所や専門学校を卒業した時点で、声優のプロダクションに入れる人は全体のわずか5~15%。デビューした後も、そこからさらに、生存競争に勝ち残っていかなければならないのだ。狭き門であることは間違いないようだ。こういった数字を見せられてしまうと、諦めてしまいそうになる。しかし、神谷さんはこう語っている。
今、この現実を知って声優への夢を捨ててしまうか、「ヨシッ!」とファイトを燃やすかは、すべて君たち次第だ。
『声優になるには 初歩からプロの技まで』より引用
なるほど、自分次第で運命は変わるということだ。神谷さんが説いていることは声優に限ったことではなく、あらゆる職業に就くために重要なポイントといえるのではないだろうか。
余談だが、神谷さんの経歴をネットで調べてみて、私が好きだったアニメキャラの多くを演じられていることを知って驚愕した。すごすぎる。こうした迫真の演技も、血がにじむほどの努力によって成し遂げられているんだなあと痛感した。
(文:元城健)
【文献紹介】
声優になるには 初歩からプロの技まで
著者:神谷明
出版社:学研プラス
声優になるには? 恥ずかしくて聞けないような初歩の悩みから、専門学校選び、プロならではの現場でのTIPSまでをふんだんに盛り込み、Q&A形式でわかりやすく解説。月刊アニメディアで連載したものの再編集版。