私は2月14日はなるべく外に出ないで、家で仕事をするようにしている。
出版社に打ち合わせに行ったり、たまたまその日の取材相手が男性だったりしたら、やっぱり“義理チョコ”を用意しなければならないと思ってしまうからだ。別に、チョコを渡さなくても誰も文句は言われないだろうが、巷のバレンタイン・フェアを無視できず、つい買ってしまう気がするのだ。
ところで、バレンタインデーに女性がチョコレートに愛を込めて告白する、というのは日本独特の習慣。では、よその国ではどんなバレンタインの風景が見られるのだろうか?
バレンタインには花束を
欧米では、バレンタインデーに欠かせないものはチョコレートではなく花束だ。
2010年のアメリカ映画『バレンタインデー』はロサンゼルスを舞台にした複数の男女の恋物語だが、それぞれがフラワーショップで花束を注文する。男女にかかわらず、バレンタインにはアクセサリー、本、雑貨、あるいはレストランでの食事などをパートナーにプレゼントとして用意するのだが、それとは別に愛のしるしとしてなくてはならないものが“花束”なのだ。
映画は主人公のひとりが経営するフラワーショップを中心にストーリーが展開していく。
花束を贈る習慣はフランスでも同じで、2月14日にいちばん儲かるのは、間違いなくフラワーショップだ。
それは渡仏して最初の2月14日を迎えた日のことだった。
その日、近所の花店のすべてに、長い長い行列ができていたのだ。しかも並んでいるのは男性ばかり。観察していると、皆、色とりどりのブーケを抱えて出てくる。中にはたった一輪のバラの花を大事そうに握りしめているムッシュもいた。
いったい何事かと思って、聞いてみると、フランスではバレンタインデーには男性から女性へ花を贈る習慣があるのだそう。妻へ、娘へ、恋人へ、友だちへ、フランスの男たちは愛する女性のために必ず花を贈らなければならないのだ。
テレビのドラマだったか、コマーシャルだったかは忘れたがこれを取り上げた映像を観たことがある。
「ただいま」と夜遅くに仕事を終え帰宅した一家の主が家の玄関を開ける、と迎えた妻が夫の手に花束がないのを見て取ると、ドアをバタンと閉めてしまうのだ。バレンタインデーを忘れていて慌てた夫は夜の街をさまよい開いている花店を探し、ようやく花束を買って家に入れてもらえたというストーリー。
フランス男性にとってはこれは笑えない話で、「花がないと家に帰れない」とみんな言っている。
愛こそすべてのマダムたち
かつて女性誌の取材で、パリに住むマダムたちに「ご主人からの贈り物で、これまでいちばん嬉しかったものは何?」という質問をしたことがある。
編集部としては、どんなブランドのどんなモノが、あがってくるのかを期待していたのだが、残念ながら品物を答えとしてあげたマダムはひとりもいなかったのだ。
30代のマダムは「夫の愛、そして息子と娘を私に与えてくれたこと」と答え、
40代のマダムは「夫が私を愛し、結婚してくれ、家族をふやしてくれたこと」と答え、
50代のマダムは「愛に優る贈り物はこの世にはないでしょう」と答え、
60代のマダムは「30年変わらない夫の愛こそ、最高の贈り物です」と答えた。
日本人の場合は照れもあって、「愛」なんて答えはしないだろうが、フランス女性にとって人生で一番大切なものは「愛」、「愛こそすべて」なのだ。
バレンタインデーに彼女たちが期待しているものも、花に込められた夫の愛情。だから、豪華なブーケを期待しているわけではなく、たった一輪の花でもマダムたちは満足するような気がする。
バレンタインデーに読みたい恋愛小説
さて、バレンタインデーに読みたい本といえば、やはりロマンスもの。
できれば、物語がハッピーエンドで終わり、「ああ人を愛するっていいな」という余韻に浸れるものがいい。
アメリカのロマンス作家、マヤ・バンクスの作品は、ちょっとエロティックで、それでも素敵なラブストーリーが多いのでおすすめだ。
『危険な恋に魅せられて』(マヤ・バンクス・著、芦原夕貴・訳/主婦の友社・刊)は、恋人たちにとっての冬の二大イベント、クリスマスとバレンタインデーをテーマにしたふたつの恋物語だ。
「大切な贈り物」は、過去の経験から男性不信に陥ったヒロインを、長年の友人であり、彼女に思いを寄せるヒーローが救い、クリスマスにプロポーズをするストーリー。
「バレンタインには夢をかなえて」は、マンネリ化したセックスが不満で彼氏と別れたヒロインに、狩りと釣りという共通の趣味のある男友だちが、彼女の夢をかなえようと奮闘するストーリー。過激なラブシーンがあるが、結末はとてもさわやか。バレンタインデーにヒーローがヒロインを抱きしめプロポーズするのだ。
ルークは抱擁を解き、ポケットに手を突っ込んだ。「バレンタインデー用の花束を買っていないんだ。これで勘弁してもらえるといいのだが」小箱を出してグレイシーに差し出す。
(『危険な恋に魅せられて』から引用)
ヒーローのこの言葉でもあるように、やはり欧米ではバレンタイデーには花束は欠かせないようだ。
(文:沼口祐子)
【文献紹介】
危険な恋に魅せられて
著者:マヤ・バンクス
出版社:主婦の友社
ロマンスの女王・マヤ・バンクスが、クリスマスとバレンタインデーが舞台になった2編をお届けします。1作めの「大切な贈り物」。バツイチのエリーはフットボールの花形選手レイと結婚するもののDVが原因で2年前に離婚。その経験がトラウマで、いまだに男性が怖くて誰ともつきあえません。実は会社の共同経営者のジェイクのことが気になっています。ジェイクは夫の親友であり、エリーをずっと応援してきた、頼もしい男性。2作めの「バレンタインには夢をかなえて」にはマヤ・バンクスお得意の3人プレイが。ヒロインのグレーシーはその日の朝に別れを告げられたばかり。ヒーローは1作目ジェイクとともに会社を経営するルーク。