お金を貯めたいと思うのなら、支出を減らせばいい。簡単にできて効果的なのは「電気代の節約」だ。東京郊外で月500円の電気代で暮らしている4人家族が実在する。1ヶ月ワンコイン生活のノウハウをご紹介しよう。
「根性試し」のような節約生活はイヤだ
節約生活ということばにあまり良いイメージはない。忍耐を強いられ、少なからず苦しみや痛みをともなうからだ。節約術と称して、目的と手段が逆転しているような人もいる。
あるテレビ番組で紹介されていた「節約上手な主婦」は痛々しかった。真冬のキッチンでおこなう食器洗いは冷たく寒くてイヤなものだ。その「節約上手な主婦」は、食器を洗うまえにいったん外出するという。なぜなら、気温3℃の屋外から10℃の屋内に帰ってきた直後は、なぜか暖かく感じるからだ。人間の体感温度差を利用して給湯器や暖房などの光熱費を節約するという「節約術」を、その「節約上手な主婦」はうれしそうに語っていた。ちなみに夜は、サラダオイルを燃料にした自家製ランプだけで過ごしているという。母親のとなりでは小学校低学年の女の子がビミョーな表情を浮かべていた。節約術というよりも「根性試し」だ。
理にかなった節約術を実践している人がいる
電気代、水道代、ガス代
あわせて一家4人で5000円。
これだけでも生きていけるのです。(『電気代500円。贅沢な毎日』から引用)
1ヶ月にかかる電気代は500円前後。そのうち基本料金は273円。つまり実際に使っているのは250円程度ということだ。すごい。
『電気代500円。贅沢な毎日』(アズマカナコ・著/CCCメディアハウス・刊)は、たんなる節約術の指南本ではない。いまの生活を根本的から見直すことによって、わたしたちが必要経費だと思い込んでいる「インフラ費用(光熱水道費)」を将来にわたって削減するノウハウが紹介されている。注目すべきは、以下の3点だ。
・冷蔵庫はなくてもいい
・洗濯機がなくてもいい
・冬は火鉢ですごせる
一見すると「無茶だ」という印象を受けるかもしれないが、理にかなっているものが多いので、再現するのは難しくない。本書で紹介されているノウハウは、世にはびこる「根性試し系の節約術」とは比較にならないほど真っ当なものだ。
冷蔵庫を置かずにまともな食生活は可能か?
本書『電気代500円。贅沢な毎日』の著者・アズマカナコさんのばあい、冷蔵庫や洗濯機などの家電製品を置かないのは、電気代や待機電力を節約するためではない。「ただ好きだから」という。
冷蔵庫がない。だから、まとめ買いはしない。肉や魚はすぐに食べきってしまい、野菜は近所の農家直売所で買っている。数日くらいなら常温で保存できるものしか買わない。余った食材は保存食にする。ぬか床があるので、たいていの野菜は漬け物にできる。
朝食は、野菜たっぷり具だくさんの味噌汁をつくって、あとはご飯と漬け物で済ませる。昼ごはんや弁当は、夜のおかずを温め直したものだ。アズマさんは「料理は適当にする」という方針だ。テキトーといっても、レトルト食品や冷凍食品を食卓に並べるわけではない。あらかじめ作っておいた佃煮や干物やビン詰めなどの保存食を活用するのだ。これは「手抜き」とは言わず「段取りが良い」と言う。
玉子は常温でも1~2週間くらいは保存できる(生食もできる)が、アズマさんは玉子を買わない。そのかわり烏骨鶏(ウコッケイ)を自宅で飼っている。薬効や栄養価が高いといわれている高級種だが、じつは畜産試験場に行けば「ひな」を500円程度で購入することができる(東京都の場合)。 雑食なのでエサは何でも良い。1kg100円のクズ米や野菜クズでよく育つらしい。大きな声で鳴くのはオスだけであり、玉子を産んでくれるメスは静かなので住宅地でも無理なく育てることができるという。
洗濯はタライと洗濯板。火鉢を使うのは難しくない
洗濯機がない。もちろんコインランドリーなんて使わない。ぬるま湯を「金属製のたらい」にためて、せっけんを溶かして洗う。洗濯板は「しつこい汚れ」を落とすときに使うものであり、たいていは押したりもんだり踏んだりすればアカや汗はキレイになるという。風呂の残り湯をつかうので冬でも手が冷たくない。ちなみに、バスタオルは使わずに小さいタオルで代用している。『必要十分生活』という本でも紹介されているライフハックであり、洗濯機のある家庭でも有効だ。
掃除機もない。そうじをこまめに心がければ、ホウキとチリトリと雑巾で不自由がない。
エアコンもヒーターもない。しかし、火鉢(ひばち)がある。火がついた木炭で暖をとる。いまや時代劇ドラマでしか見かけない、日本古来の暖房方法だ。
冬はつとめて。雪の降りたるは、いふべきにもあらず。霜などのいと白きも、またさらでも いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりぬるはわろし。
(『枕草子』から引用)
平安時代に著された文学作品にも「暖をとるための炭火」が登場する。火鉢に手をかざす。風流でかっこいい生活スタイルだと思うが、管理や後始末が大変そうなイメージがある。アズマさんいわく、難しくないという。
炭のこたつや火鉢、あんかに炭を入れて暖をとるんです。
中でも、火鉢は手軽に使えて便利です。使い方は簡単。中に燃やした炭を入れて、手などの冷えるところを部分的に暖めます。炭はガスコンロで火をつけることができ、1回火がつけば、それをつないで一日中使うこともできます。夜は灰に埋めておけば火は消えません。朝になって灰をどかせば、またすぐに使うことができる。慣れると、毎回火をおこさなくても、ずっとつないでいくこともできます。(『電気代500円。贅沢な毎日』から引用)
完全に炭火を消したいばあいは「火消しつぼ」に入れてフタする。ファンヒーターや石油ストーブ同様に、一酸化炭素中毒に気をつけるべきなのは言うまでもない。なかなか実行にうつす勇気がないが、こんな冬のすごしかたに憧れてしまう。いちどは試してみたい。
【参照URL】
【必要十分生活】シャンプーを共有している夫婦は仲が良い。
(文:忌川タツヤ)
【文献紹介】
電気代500円。贅沢な毎日
著者:アズマカナコ
出版社:CCCメディアハウス
東京に暮らす普通の主婦が実践する、古くて新しい身の丈生活。一家4人で1カ月の電気代が500円という究極の節電ぶり。それは「太りすぎた生活」から「究極のシンプル」を目指してのことでした。冷蔵庫も洗濯機もエアコンも掃除機もない暮らしから、本当の豊かさを感じてみませんか?日本版ベニシアさんの生活哲学がこの1冊にまとまりました。単なる?節約?にとどまらないアズマカナコさんの暮らしぶりは、多くの反響を呼んでいます。便利が行きすぎて不便になる経験をした私たちが求める本当の豊かさのかたちを、アズマさんの生活から感じ取ってみませんか。