本・書籍
2017/10/2 0:00

野良猫に救いの手をさしのべる。スマイルキャット物語

野良猫として生まれたら、きびしい生涯を覚悟しなければなりません。雨風にさらされて、エサを満足に食べられないからです。

飼い猫に比べると、野良猫の寿命は短いです。平成28年度には、約7万頭の野良猫が殺処分されています。内訳は、約4万5千頭が子猫です。

1頭でも多くの野良猫を救うため、ボランティアで手助けをしている人たちがいます。

 

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あごのない猫

民間ボランティアによる「猫の保護施設」をご存じでしょうか?
家族になる日 のら猫の命をつなぐ物語』(春日走太・著/学研プラス・刊)という本では、東京都目黒区にある「smile cat(スマイルキャット)」を取材しています。

野良猫を「保護する」のは、簡単なことではありません。「命に責任を持つ」ことだからです。

スマイルキャットが保護しているのは、健康で五体満足な野良猫ばかりではありません。たとえば「アゴのない猫」──身体的な障害を負った野良猫を引き取ることもあるのです。

 

ラクはけがのせいで、右側の歯がむきだしになっています。そのため、歯ぐきとひふの間に、えさの食べかすがたまってしまうのです。

その食べかすは時間がたつと、かさぶたのようにかたくなるので、ティッシュを水でぬらして、そこにあてて、ふやかしてから取らないといけませんでした。

(『家族になる日』から引用)

 

アゴのない猫である「ラク」は──いまでは飼い猫として暮らしています。「スマイルキャット」は保護するだけでなく、飼い主(里親)探しもおこなっているからです。

救いがあるのは、介護の必要があるとわかったうえで、アゴのない猫「ラク」を迎え入れてくれる里親が現れたことです。単なる「ペットを飼いたい」という気持ちでは、身体障害のある猫を受け入れることはできません。ヒトの慈愛を信じさせてくれるエピソードです。

 

 

猫の保護施設「スマイルキャット」

全国には、猫のボランティアがいます。ケガをしていたり虐待されそうな野良猫を自発的に保護している人たちです。

猫の保護施設「スマイルキャット」は、個人ボランティアを支援をするためのコミュニティスペースであり、保護猫が家族と出会うまでのあいだ安心して滞在できるシェルターです。

 

青木さんは、この施設を、「猫が笑顔になれる出会いの場にしたい」という思いから、「スマイルキャット」と名付けました。
そして、ここで里親に出会い、もらわれていった猫の数は、五年間で四百匹以上にもなりました。

(『家族になる日』から引用)

 

エサ代、医療費などにかかる月額40万円〜50万円の運営費用は、猫ボランティアと市民からの寄付金によってまかなわれています。

 

 

白血病の野良猫は、その後どうなったのか?

保護される野良猫は、ケガや衰弱をしていることが多いです。回復することがほとんどですが、なかには難病をかかえている野良猫もいます。

《こぐたん》という野良猫が保護されたことがあります。健康チェックのために血液検査を受けると、こぐたんは「猫白血病」であることがわかりました。

 

猫の白血病は、正式には「猫白血病ウイルス感染症(FeLV)」といいます。このウイルスに猫が感染すると(人間やほかの動物にはうつらない)、その多くが、二年から五年以内に死亡するといわれています。

(『家族になる日』から引用)

 

猫白血病ウイルスは、感染しても症状が出なければ、ふつうに生活できます。ほかの猫には近づけず、合併症に気をつけさえすれば、生きられる病気なのです。

スマイルキャットの青木さんは、「長生きできる可能性はゼロじゃない。新しい家族のもとでしあわせに暮らしてほしい」と考えて、あきらめずに、こぐたんの里親探しをはじめます。

難病の子猫を欲しがる人はきわめて少ないですが……。やがて、こぐたんに救いの手を差しのべてくれる飼い主があらわれました。2017年現在、こぐたんは4歳の誕生日を迎えることができて、いまでも元気に暮らしています。

 

 

猫のためにできること

行政によって捕獲されると、各地の動物愛護センターに収容されます。「譲渡会」によって新しい飼い主を探してくれるのですが、見つからない場合は殺処分がおこなわれます。半数以上が子猫です。

「スマイルキャット」のようなシェルター(一時的な受け入れ先)があれば、野良猫は殺処分をまぬがれることができます。命が救われるのです。

 

のら猫が、家族になれたとき、
その小さな命は、輝きを増す──。

(『家族になる日』から引用)

 

お住まいの地域に、「スマイルキャット」のようなボランティアの集まりがあるかもしれません。猫は好きだけど、里親になれない(自宅で猫を飼うことができない)という状況でも、野良猫のためにできることがありそうです。

 

(文:忌川タツヤ)

 

 

【文献紹介】

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家族になる日 のら猫の命をつなぐ物語
著者:春日走太
出版社:学研プラス

東京のとある場所にある猫の保護施設。ここには障がいや病気など、様々な事情を持つのら猫が集まり、やがてそれぞれが里親のもとに巣立っていく……。その現場で奮闘する猫のボランティアたち、そして出会えた里親とのら猫たちの、心あたたまる物語。

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