お金という関門
少年はその一言に刺激を受け、野球を続ける決意をする。そこからがまたグッとするのだけれど、経済的理由で少年野球には入れないから、一人ぼっちでランニングをスタートさせたのだ。あと半年で中学生になる。そしたら中学で野球部に入るのだ、と……。
ここで私は思わずツッコミみたくなった。最近の中学はいずれかの部活動に全員が属するよう指導しているところも多い。少年の学校もそうであったのなら、彼は迷わず野球部に属するのだろう。けれど、そこでも野球道具やユニフォーム代が必要となり、親に難色を示されるのではないだろうか。
夢はお金では買えない
でも、それは杞憂かもしれない。中学生なら新聞配達などでお金も稼げるはずだ。本当にやりたいこと、実現したい夢があれば、人間は真っ直ぐにそこに向かっていく。少年が出会った弾き語りの青年も、東京に行くためにアルバイトをして資金稼ぎをしていた。お金がなければ働けば、夢へのチケットが手に入ることも多い。
しかし、その逆は難しい。いくらお金があっても夢がなければ、張り合いのない人生が続くだけだ。夢は決してお金では買えない。自分で見つけるものなのだ。まずは夢を持つことだ。そうすればそのために何をするべきか、いくら必要かが見えてくる。人生の柱が見えてきた時こそ、生きているという実感が持てるはずだ。
しかしこうした主人公の物語をぜひ読んでもらいたい当の貧困家庭の子どもたちはこの1000円以上もする本を買ってはもらえない可能性がある。せめて図書室や図書館に入っていればと思うけれど、子どもたちへの図書の告知は繰り返し行っているのだろうか。こども食堂や無料塾など貧困家庭の支援は広がっている。もっと読書支援もあってほしいと個人的には考えている。
【著書紹介】
ブルースマンと小学生
著者:こうだゆうこ(作)、スカイエマ(絵)
発行:学研プラス
6年生で大の野球好きの鉄平は地域の少年野球チームに入ろうとするが、母親にお金がないと断られる。やけになった鉄平は、公園で赤い髪のギター弾きの兄ちゃんと出会う。東京で歌手になるという兄ちゃんの夢を聞いて、鉄平ももう一度野球を目標に立ち上がる。