たとえ一夜漬けで暗記しても、1回のペーパーテストを乗り切れるだけの付け焼き刃にすぎません。人生の数えきれないアクシデントを乗り切るためには、基本的な原理原則をしっかり身につけましょう。
『定理と法則105』(白鳥敬・著/学研プラス・刊)は、自然科学や社会学のエッセンスをしっかり学び直すことによって、本質的な問題解決思考を身につけることができます。
部屋が散らかるのは自然の摂理
自然は平衡状態を求めているのです。(中略)もっとも身近なたとえで言えば、部屋を整理整頓しても、時間とともに、乱雑になっていきます。これもエントロピー増大の法則です。
(『定理と法則105』から引用)
エントロピーとは「変化」という意味です。たとえば、熱いお湯が冷める(室温に戻ろうとする)ときに、「エントロピーは増大する」と表現します。
片付けても、また散らかってしまう。お腹がいっぱいになっても、また食べたくなる。なるようにしか、ならない。「エントロピー増大」は自然の摂理です。人生は、なりゆきに任せたほうがうまくいくのかもしれません。
1対29対300の法則
数学や物理学だけでなく、わたしたちの日常生活から見出された「法則」もあります。たとえば「ハインリッヒの法則」です。
1つの大事故の背後には、29個の小事故があり、さらにその背後には300個のヒヤリ・ハット事故がある。
(『定理と法則105』から引用)
アメリカの損害保険会社に勤めていたハインリッヒは、労働災害にまつわる調査を論文にまとめました。それが、1対29対300(ヒヤリ・ハット)の法則です。
肝を冷やすような「ヒヤリ事案」。ハッと気づくのが早くて助かった「ハット事案」。かすり傷の小事故であっても、積み重なることによって「大事故」につながります。ハインリッヒの法則を知っていれば、危険のきざしである「ヒヤリ・ハット」を見逃さずに、取り返しのつかない人災を防ぐことができます。
まことしやかな言い伝えが、後世において科学的に立証されることがあります。たとえば、奈良時代(西暦720年ごろ)に成立した日本書紀によれば、聖徳太子は「同時に10人の質問を理解して的確に答えた」といいます。本当でしょうか?
じつは、聖徳太子の「豊聡耳」と呼ばれる現象は、それから1200年後に「カクテルパーティー効果」と名付けられました。
カクテルパーティー効果とは
人間は、騒音のなかでも相手の声を聞き取ることができます。これをカクテルパーティー効果といいます。
カクテルパーティーのように、大勢の人が集まって談笑しているところでも、特定の人の声を聞き分けることができるので、この名前がつけられました。
(『定理と法則105』から引用)
カクテルパーティー効果は、イギリスの認知学者コーリン・チェリーが1953年に提唱したものです。そして最近、Googleが「カクテルパーティー効果を再現できるAI」にまつわる研究成果を発表しました。
観客による「ざわめき」に加えて、2人の登壇者が同時に別のことを話しているにもかかわらず、ディープラーニングAIはそれぞれの発言をもれなく抽出できます。機械であるAI(人工知能)が聖徳太子を超える日は遠くないかもしれません。
なぜ絶対零度はマイナス273℃なのか?
どんな気体でも、一定の圧力のもとでは温度が1℃変化すると、0℃のときの体積の273分の1ずつ変化することを見つけました。
(中略)
マイナス273℃では体積がゼロになります。体積は0より小さくなることはありえませんから、マイナス273℃が物質がとりうる最低の温度となります。これが絶対零度[0k]です。
(『定理と法則105』から引用)
絶対零度がマイナス273℃であることを知っている人は、必ずしも原理まで覚えていません。数値だけを暗記している人が多いです。
音速のことを「秒速340メートル」と覚えている人が多いでしょう。しかし、これは「1気圧・摂氏15℃の空気中」の速度です。水の中では、空気中の約4.5倍の速度(秒速1500メートル)になります。
光は、秒速で約30万キロメートルを進むことができます。光速のすごさを説明するときに「1秒間で地球を7周半できる」と言いますが、厳密には「まちがい」です。なぜなら、光は「まっすぐ進む」という性質があるからです。光そのものが地球をぐるぐる周ることはできません。
新しいことを学べば、喜びを得られます。お試しください。
【書籍紹介】
定理と法則105
著者:白鳥敬
発行:学研プラス
ピタゴラスの定理から悪魔の証明、相対性原理、フェルマーの最終定理まで、教養として知っておきたい代表的な105の定理と法則を解説。発見者と発見年、定義、数式、解説などを、見開き単位で図鑑的にわかりやすく構成。これ一冊で科学の進化がわかる!