本・書籍
2018/4/27 16:30

『オトナの短篇シリーズ01「女」』―芥川、太宰、夢野久作…文豪たちが描く美しくも恐ろしい女たち

「青空文庫」は、誰にでもアクセスできる電子本をインターネット上に集め、図書館のように利用できるものだ。取り上げられるのは、著作権の消滅した作品と「自由に読んでかまわない」という許可があるものに限られる。

 

オトナの短編シリーズ』(オトナの短篇編集部・著/学研プラス・刊)は、膨大な作品がおさめられた「青空文庫」から、本当に面白いと思える作品を編集部員が独自の視点で選び、まとめたものだ。いわばCDにおけるベスト盤のようなもので、多分に編集部員の趣味が反映される。

 

 

第1回のテーマは女

『オトナの短編シリーズ01』はその名の示すとおり、シリーズ化されているが、記念すべき第1回のテーマとして選ばれたのは、「女」。なかなかに憎いセレクションだ。「女」は書くテーマとしても、読むテーマとしても、興味をそそられる。

 

短編編集部員たちが選んだ「女」は、「お母さん」であり、「騙す女」であり、「怖い女」や「可愛い女」や「かっこいい女」や「おしゃべりな女」など様々で、ドロップの缶から色とりどりのドロップがこぼれ出すような楽しさと驚きがある。

 

 

女を描く作家達

『オトナの短編シリーズ01』で取り上げられる作家は8人。著名で興味深い存在ばかりだが、簡単に紹介すると…。

 

小川未明(1882年~1961年)
自然主義の影響を受け、詩情あふれる小説を制作したあと、童話に専念し、『赤い蝋燭と人魚』などの作品を残す。

岡本かの子(1889年~1939年)
強烈なナルシズムを描いた作品が多く、『生々流転』などの作品がある。さらには、芸術家である岡本太郎の母親としても知られる。

与謝野晶子(1878年~1942年)
大胆奔放な作品『みだれ髪』などで知られる歌人。

大倉燁子(1886年~1960年)
国学者である物集高見の3女として育ち、後に、『踊る影絵』で女流としては初めての探偵小説家となる。

芥川龍之介(1892年~1927年)
夏目漱石門下として、菊池寛らと「新思潮」を刊行。『鼻』『芋』『粥』などで注目された。

葉山嘉樹(1894年~1945年)
プロレタリア文学の作家として活躍。『淫売婦』『海に生くる人々』が代表作。

夢野久作(1889年~1936年)
怪奇幻想の手法で意識化の世界を探求した作家として名高く『ドグラ・マグラ』は熱狂的なファンを持つ。

太宰治(1909年~1948年)
屈折した罪悪意識を笑いでつつんだ秀作が多い。後に虚無的で退廃的な作品を数多く発表。

 

8人が描くそれぞれの「女」

8人が描く作品群は、さすがとうなるものが多い。作者を選んだ編集員の才能を感じる。8人がだいたい同じ時代を生きているのも面白い。それでいながら、それぞれの作家が描く女たちの多様さときたら。まったくもって、驚きの小説が連なっている。

 

日本の文学は思っていた以上に深く、豊かで、それでいながら死の影をまとったものだったと感じた。8人の中で、大倉燁子という作家を私は知らなかった。もちろん、作品を読んだこともなかった。『オトナの短編シリーズ』の編集者が選ばなかったら、この先、読むことはなかったと思う。

 

大倉燁子という作家

大倉燁子の『魔性の女』は実におそろしい作品だ。何でもお見通しの霊感を持つ妻から逃げ出そうとする夫の話なのだが、真綿でじわじわクビをしめられるような息苦しさがある。と、同時に夫に対してこれほどの執着を持つことができることをうらやましいと思った。執着は愛でもあるからだ。

 

逃げても逃げても、追ってくる妻。浮気をしていても、黙って許しながらも、息の根をとめるようなことをする。今の言葉で言うならストーカーと呼ぶべき女性で、夫が「黙ってただじいっと眺めていられるのは辛い」と嘆くのも当然だと思う。

 

 

太宰治が描く3通りの女

他の作品も夢中で読んだが、太宰治の3文字「女」シリーズにはたまげた。『美少女』、『千代女』、『女生徒』と3つの作品が収録されているが、太宰治とはこれほどまでに女を舐め尽くすように描く作家だったろうかと驚かずにはいられない。

 

それも作品ごとに視点が異なっているのが驚く。太宰治は心中という形で命を絶ったが、苦しみも喜びも作品のエネルギーも、もしかしたら、すべてを女性に求めていたのかもしれない。そうでなければ、作品によっておじさんになったり、狂気をおそれる女の子になったり、小説の才能を持った少女となったりできないはずだ。

 

3人3様とも言えるし、3人の中に太宰本人がいるともいえる。実に不思議な味わいの太宰がそこにいる。

 

『オトナの短編シリーズ』はオトナのための作品集であると同時に、オトナになるための小説集だという気がする。19世紀から20世紀にかけて、日本にはこんなに自由闊達な小説があったのかと、これほどまでに暴れてしまう作家達がいたのかと、改めて驚いた。

 

やっぱり小説は面白い。オトナもこれからオトナになるヒトも読んでみて欲しい。

 

 

【書籍紹介】

オトナの短篇シリーズ01 「女」

著者:オトナの短篇編集部
発行:学研プラス

与謝野晶子や太宰治、芥川龍之介に加え、岡本太郎の母・岡本かの子や夢野久作など一度は名前を聞いた事のある作品を中心に厳選。魅力的な「女」の作品と共に、編集部員の選考理由も掲載。電子書籍をまだ読んだ事がない!という方にもオススメの一冊です。

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