韓国ドラマには海外に養子に出された主人公というのがよく登場する。実際、韓国ではそれだけ海外養子縁組の数がとても多いのだそうだ。
『他人のふたご』(アナイス・ボルディエ、サマンサ・ファターマン・著 羽田詩津子・訳/太田出版・刊)の訳者がこの事情を解説している。
最近の統計によると1950年代初めから20万人近い子どもたちが海外に養子に出されているようだ。その理由のひとつは、国内の児童福祉が充実していないということ。また、(中略)韓国社会では未婚の母に対する偏見が非常に根強いという理由があげられるだろう。(中略)実際、海外に養子に出される子どもの大半は、未婚の母の出産によるものである。さらにもうひとつの理由は、「養子ビジネス」が儲かるということだ。
(『他人のふたご』から引用)
本当にあった『ファミリー・ゲーム』
別々に育ったふたごの再会といえば映画『ファミリー・ゲーム/双子の天使』を思い浮かべる人が多いだろう。ドイツの作家エーリッヒ・ケストナーによる児童文学『ふたりのロッテ』を原作とした作品。これはもちろんフィクションだ。
本書『他人のふたご』はドキュメンタリー映画『双子物語』としても公開されていて、こちらは実話なので世界中の人々が輸出ベイビーたちの奇跡の再会に驚き、大きな話題となった。
韓国の釜山で生まれた双子の姉妹だったが、出生証明も双子とはされておらず、また別々の仲介業者を通じてアメリカとフランスへ養子に出された。サマンサはアメリカ人として、アナイスはフランス人として、それぞれ愛情深い養父母の元で何不自由なく育っていった。
ひと昔前なら、彼女たちは出会うこともなく、また、実はふたごだったということすら知ることなく生きていっただろう。ところが、現代はネット社会、世界各地にいる人々がSNSでつながっているからこそ奇跡も起きるのだ。
きっかけは、アナイスの友人がYouTubeで、彼女と瓜二つのアメリカ人女優・サマンサを見つけたことからはじまった。
血がつながっているに違いない、分身に違いないと確信したアナイスは、TwitterやInstagram、そしてFacebookを追跡しサマンサを見つける。そしてメッセージを添えてフェイスブックから友達リクエストを送ったのだ。
欧米では実子がいたとしても国際養子縁組をする家族は少なくない。有名人の子どもにも養子が多いけれど、裕福な家庭ほど養子を受け入れているように思う。
私は娘をフランスで育てたが、学校のクラスにはどの学年でも養子を迎えた家族が二組くらいはいた。周囲の親たち、子どもたち、先生たちもそれを自然と受け止め、特別視する人は誰もいなかった。さまざまな人種が入り乱れて暮らす社会では、親と子の人種が違っていても驚くことはなく、ある意味、国際養子縁組にやさしい環境といえるだろう。
娘が小学4年だったとき、クラスメイトのフランス少女が「私の妹がやってくるの」と大喜びしていたことがあった。彼女のママもフランス人だが「ベトナムから私のもうひとりの娘がやってくるの」と興奮気味に私に話してくれたのを思い出す。
数日後、国際養子縁組された2歳のベトナム少女は学校でもお披露目されることになった。みんなに「かわいい」と見つめられ、撫でられて、最初は無表情だったベトナム少女はみるみる表情豊かになっていった。その後も彼女たちとはずっと同じクラスだったおかげで、実子と養子を分け隔てることなく愛情深く育てる家族の姿を、私は間近で見させてもらうことができた。
SNSが可能にした奇跡の再会!
話を本書に戻そう。フランス人のアナイスはパリに隣接する高級住宅街ヌイイで育ち、バカロレア取得後、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジでファッションデザイナーになるべく勉強していたときに双子と再会。現在はパリ在住でジェラール・ダレルのデザイナーとして活躍しているそうだ。
一方のサマンサはロサンゼルス在住の女優で、映画『SAYURI』、『21オーバー/最初の二日酔い』などに出演、現在も活躍している。
さて、アナイスからのメッセージを受け取ったサマンサもパソコンの中に”自分と同じ顔のフランス人”が登場したことに驚き、Facebookの友達リクエストは受けたものの、すぐには返事が書けなかったようだ。戸惑うサマンサの心情、一方、返信を待ちわびるアナイスの心情などが余すところなく書かれていて、読み手もこの物語にぐいぐい引き込まれていく。
やがてふたりはインターネットを通じてコミュニケーションを取りはじめ、Skypeで会話をするようになる。そして、DNA検査でふたりは一卵性双生児だったことも判明するのだ。
サマンサがロンドンに飛び、25年前に生き別れたふたごが再会をする場面はドキドキだ。
わたしはサムに近づいた。それから彼女の頭をちょっと突いた。本物かどうか確かめずにはいられなかったのだ。(中略)サムはまさにわたしの鏡像だった。
わたしは息を呑んだ。(中略)あれはわたしだ、彼女はわたしだ! 初めて彼女の顔を見て驚いた。自分があんなふうに見えるとは思ってもみなかった。
(『他人のふたご』から引用)
本書を読み終えた後、私はドキュメンタリー映画のほうも観てみたが、ほんとうにふたりの容姿は同じなので、どちらがどちらかわからなくなるシーンばかりだった。
愛と奇跡の物語
アナイスとサマンサは出会う前もそれぞれ幸せな家庭に育ってきたが、再会してからは、家族ぐるみの交流もはじまり、さらなる幸せを手に入れることができた。
一方、韓国の生みの母は判明はしているものの、ふたごを産んだことも認めておらず、また養子に出したことも否定しているそうだ。
これについてふたりはこう語っている。サマンサは、
母親がふたごを引き裂くなんてとても残酷だ、おそらく自分がしたことが絶対にばれないようにだろう、と推測した。でも、そんなことを考えてもむだだ。思ってもみないときに、わたしは幸せな生涯をともに生きていける相手を見つけた。わたしは贈り物を与えられたのだから、いい面を見よう。それを受け入れ、もっと役に立つものに変えよう。
(『他人のふたご』から引用。
アナイスのほうは、
以前はどうして捨てられたのかどうしても知りたいと思っていた。今はサムがいるので、他のことはどうでもよくなった。サマンサとわたしはかつて同じ物語を生き、離ればなれになり、そして今、これから先の人生をいっしょに幸せに暮らしていけるようになった。後ろを振り返る必要はない。実の両親については、それは彼らの物語であって、わたしたちの物語ではないのだ。
(『他人のふたご』から引用)
本書を読むと、世界各地にいる養子たちの幸運を願わずにはいられなくなる。
【書籍紹介】
他人のふたご
著者:アナイス・ボルディエ、 サマンサ・ファターマン
発行:太田出版
YouTubeで見つけたわたしにそっくりの女性は生き別れたふたごだったー韓国で生まれてすぐにアメリカとフランスへ。ふたごであることを知りぬまま、25年ぶりに奇跡の再会を果たす。養子ビジネス、ふたごの最新研究までを追った驚愕のドキュメンタリー。