「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインと作画監督を手掛けた安彦良和氏。
近年は漫画家としての活動に専念していたが「機動戦士ガンダムTHE ORIGINⅠ青い瞳のキャスバル」で再びアニメの現場に舞い戻り、本作の魅力を『GetNavi』(学研パブリッシング刊)で語った。
ガンダムのテーマは何だったのか。簡潔に言うなら『ディスコミュニケーション』でした。連邦とジオンのどちらが悪いのか、ということじゃない。本質的に、人がわかりあえない世界を描いていた。しかし、我々制作スタッフの力不足によって、世間では単なる世代間の対立の物語と誤解された部分がありました。だからこそ『THE ORIGIN』は『ガンダム』を誤解している人にこそ見てほしい。これはわかりあえない人々のドラマなのだと。漫画もそういう思いで描きました。
安彦氏にとってのシャア
本作のタイトルにも入っている「キャスバル」は言わずとしれたシャアの本名。シャアを描くということは、どういうことなのだろうか?
シャアは、まさにネガティブヒーロー。世界を破壊し、わかりあうことを拒絶した男で、終始一貫そのように振る舞っています。悪役がウケるのはヒットの条件といわれますし、人間の内面にある、“黒い部分”を一手に引き受けている彼は、確かに魅力のあるキャラクターです。一方で、彼をポジティブなヒーローとして捉える人が出てきたことはいかがなものか。これこそが、メッセージの“誤発信”の最たるものでした。だからこそ、丁寧に描かざるを得なかったのです。なぜ、そういう人物が形成されてしまったのかを
映画はキャスバルが11歳のとき、父ジオン・ズム・ダイクンが演説中に突然死するエピソードからスタートする。
あのとき、ダイクンはザビ家の連中に暗殺されたことになった。でも、それは果たして本当だったのかと。いきなりボタンの掛け違いが始まっているんです。そこが重要なポイント。シャアは『父親の仇敵に復讐する男』と世間で伝わっていますが、それは違う。11歳で父を亡くした彼の人格が形成される過程において、父親の存在はそもそも欠落しているんです。一方の母親は、彼のあらゆるピースを探ってもまったく出てこない。それはなぜなのかと
シャアの“誤解”を解くカギ
シャアの母・アストライアは、安彦氏によって創造された。同時に、シャアの“誤解”を解くカギもそこに見出されるのだ。
“ファースト”のシャアを振り返ると、まるで砂のなかの針に触れるようなチクリとしたセリフがあるんですね。実は物語のあちこちに伏線が仕掛けられていたんですけど、当時は僕ですら気付くことができなかった。漫画を描きながら、あらためて原作を手がけた富野由悠季のすごさを思い知りましたよ
『機動戦士ガンダム』とは、アムロを中心に、それでもわかりあうことを追及し続けた仲間たちの物語でもあると安彦氏は語る。今回のアニメでそんなガンダムの世界を再発見してみてはどうだろうか。
(文:フムフム編集部)
【文献紹介】
GetNavi 2015年4月号
著者:GetNavi編集部
出版社:学研パブリッシング
読者の「賢い買い物」をサポートする新製品情報誌。話題のスマートフォンから薄型テレビ、パソコン、デジタルカメラまでベストバイを断言!