崩壊するのは「床」だけではない
たくさんある本、どうにかならないの? 日の光が入らないから、部屋が死んでるじゃない。すぐにでも本を動かしてよ。実家かトランクルームに移動させたらどうなの?
(中略)
妻の強い態度に驚き、そして愕然とした。
(『本で床は抜けるのか』から引用)
フリーライターである著者は、奥さんが「自分の仕事を理解してくれている」と信じていたそうです。挽回するために家事を手伝うこともありましたが……奥さんは、お子さんを連れて出ていきました。そのあと別居を経て、離婚が成立しています。
愛書家は、本を捨てることができません。なぜなら、本は読むたびに新しい発見があるからです。フリーライターや小説家ならば、ふたたび必要になることも有り得るので、なおさら手放さずに済ませたいと考えます。悩ましいです。
愛書家が考えるべき「本の終活」とは?
5000冊、いやそれ以上の蔵書を持っていた人が亡くなると、蔵書はどこへいくのだろうか。
(『本で床は抜けるのか』から引用)
愛書家の遺族が、本好きであるとは限りません。むしろ、蔵書が占めていたスペースを有効活用するために、遺族は「古書店に売却」や「図書館に寄贈」などを検討します。
古書店は「出張買取」をしてくれます。遺族が「故人が残した蔵書」にあまり愛着がない場合は、売却処分によってスムーズに解決します。
難航をきわめるのは、遺族の「こだわり」によって処分先が決まらないケースです。たとえば「図書館に寄贈する」という発想は、「故人の遺志(蔵書)を社会のために役立てたい」「手元には置きたくないけれど、故人の思い出を散逸させたくない」という方針に基づくものです。
本が貴重だった時代には、地元の名士が残した大量の蔵書を「●●文庫」と銘打って、図書館が一括で引き受けてくれることもありました。しかし、現在はどこの図書館もスペースが足りなくて困っているので、大量の寄贈はたいていお断りされます。むしろ、所蔵本をやむなく廃棄処分しているのが現状です。
インターネットやスマートフォン、デジタルによるペーパーレス化やクラウド化の影響によって、蔵書にも「終活」が求められる時代になりました。お試しください。
【書籍紹介】
本で床は抜けるのか
著者:西牟田靖
発行:中央公論新社
大量の本を抱えて引っ越し、「床抜け」の不安に襲われた著者は、解決策を求めて取材を開始。井上ひさしや草森紳一らの事例を調べ、床が抜けてリフォームした人、蔵書をまとめて電子化や処分した人、私設図書館や書庫を作った人、等々を訪ね歩き、「蔵書と生活」の快適な両立は可能かを探る。愛書家必読のノンフィクション。