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2018/9/26 23:00

雷を指揮する? 杖で指揮して死亡? 意外すぎる指揮者のハナシ――『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』

今年12月より取り壊されてしまう、吹奏楽の甲子園とも呼ばれる「普門館」。中学時代、吹奏楽部だった私も「いつかあの黒い床の舞台で演奏してみたい!」と夢見ていました。中学3年生では岩手県大会金賞を受賞したものの、東北大会へは出場できず、夢は叶わず。大人になってからもなんとなく普門館は気になっていて、「いつかそのうち行ってみよ〜」なんて軽い気持ちで過ごしていました。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけに耐震調査を行ったところ、震度6以上でホールの天井が崩落する恐れがあるとして、今年11月のホール開放を最後に、12月から取り壊すことが決定しました。

(参考:http://www.kosei-kai.or.jp/fumonkan/

 

いつまでもあると思うな、親と金と普門館。

 

ということで、今回は『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』(藤野栄介・著/学研プラス・刊)より、吹奏楽やオーケストラには欠かせない指揮者について色々と探っていこうと思います。

 

 

指揮者のはじまりはバロック時代!

みなさんは、指揮者っていつ頃からいたのかご存知ですか?

 

管弦楽という、管楽器、弦楽器、打楽器を組み合わせたジャンルが登場したバロック時代に、「せーの」と合図を出したのが指揮の始まりと言われています。また当時は、作曲家が演奏者と指揮者を兼ねていたため、演奏しながらヴァイオリンの弓を動かしたりする人もいたそうです。そんな中に驚くようなエピソードがあったのでご紹介します。

 

ジャン・バティスト・リュリという作曲家は、演奏中に杖で床を叩いている際に誤って自分の足を叩いてしまい、破傷風で死んだというエピソードなどがよくクラシック史の中で語られていますが、この「杖で床を叩く」という行為が「指揮」のはしりとも言われます。

(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)

 

え??  杖で指揮??  死ぬ??

 

このリュリさん、ルイ14世の病気快癒を祝した演奏会で指揮をしている最中だったそうですが、今のような軽い指揮棒ではなく、金属の重く長い指揮棒で床を叩くという方法で指揮をしていたそうです。快気祝いでテンションが上がっていたんでしょうね。

 

「ルイ14世おめでと〜〜! ドンドンドン……痛っ!」

 

と自分のつま先を叩いてしまいます。後日その傷が膿み、命を落としたそうなのですが、悲しすぎるよ!!  けれど、何かのコントか映画にでもなりそうなくらいなエピソードとも思ってしまいました。リュリさんに幸あれ!

 

 

指揮者に必要な4つの能力

現代において指揮棒で命を落とす……ということはなくなりましたが、あの軽い棒で指揮者はなにをやっているのか? と聞かれるといまいちピンとこない人が多いと思います。一般的に「右手で拍を刻んで、左手で表情を示す」とも言われますが、プロの指揮者も「指揮は教えられない」というほど、明確な定義や手法が固まっておらず、「朗読」に近いものだと「指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?」では語られています。また同じ楽曲でも、指揮者が変わると演奏が変わる理由を以下のように語っています。

 

・基礎的能力や指揮法などのアンサンブルを合わせる能力
・楽曲を読み取る力(スコアリーディング)
・オーケストラをエンロールする(巻き込む)力
・何がなんでも目指すレベルに導いていくという意思の強さ、実行力

(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)

 

とは言ってもよくわからないなーという方のために、わかりやすい例を以下でご紹介します。

 

 

同じベートーベンの「運命」でも指揮者によって演奏時間が変わる

みなさんにお馴染みベートーベンの「運命」ですが、同じ「ンタタタ ターン」というフレーズのテンポによって、曲全体の印象を大きく変えてしまうそうなんです。

 

軽快に「タタターン!」とやると30分11秒で、重厚感がある「ダッ、ダッ、ダッ、ダーン!」と演奏すると38分38秒と、全部で4楽章ある演奏時間が8分も変わってくるというのです。

 

もちろん、「タタターン!」だけ早くしているわけではないのですが、指揮者がどんな「運命」と感じたかによって、同じ楽譜でも表現が変わるということなんですよね。自分なりの表現をしなければいけないので、プロが言う指揮は教えられないというのも納得! 演奏会で運命を聞く機会があったら、ぜひ指揮者にも注目してみましょう。

 

 

演奏も人生も止まれない! やり直せない

また、オーケストラだけでなく観客を巻き込む力をもっている指揮者のエピソードもご紹介します。

 

野外で演奏会をしていた時、突如雷が鳴り出し、観客は演奏に耳を傾けるどころではなくなっていたそうです。その際、指揮者(マエストロ)が行った行動で観客の雰囲気がほぐれたのですが、一体どんな指揮をしたのでしょうか?

 

そのとき、なんとマエストロは、突然、オーケストラではなく、雷に向かって指揮をし始めたのです。ステージ右側から雷が落ちる音が聞こえれば右に、左側から雷の落ちる音が聞こえればすぐさま左にタクトを振ります。観衆は彼のその滑稽な指揮姿にびっくりした様子でしたが、しばらくすると笑い声も聞こえてくるようになりました。

(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)

 

 

演奏中に雷は鳴り止み、無事に演奏会は終了。終了後、指揮者のもとには喜びと感謝を伝えたい観客で列ができたそうです。なんだか心温まる〜♪

 

もう普門館で指揮者の姿を見ることはできませんが、これまでに普門館で演奏された楽曲の音源は聞くことができます。音源だけでは姿の見えない指揮者ですが、想像力を豊かにして、「この指揮者の性格は頑固そうだな」「こっちの指揮者はせっかちだな」などと、同じ楽曲で聴き比べてみるのも楽しいかもしれません。あぁ〜普門館言って見たかったなぁ。

 

【書籍紹介】

指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?

著者:藤野栄介
発行:学研プラス

指揮者って、いったい何をやっているの? あの指揮棒で何を指示しているの? オーケストラは、個性あふれる専門家集団。その集団を、指揮棒ひとつでまとめ、美しい音楽を奏でるための方法を、現役指揮者が公開する。

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