10月。読書の秋がやってきました。漫画で読めるブックガイド『バーナード嬢曰く。』を紹介します。
町田さわ子と神林しおり
ふたりが初めて出会ったのは学校の図書室でした。町田さわ子の「なるべく本を読まずに読書家だと思われたい」という不純な心がまえを見過ごせず、黙っていられなくなった神林しおりのほうから話しかけました。しおりは、SF小説をこよなく愛する若き読書家だったからです。
しおりがさわ子の「労せずして読書通を気取りたい」という姿勢にツッコミを入れているうちに、ふたりは互いのことを憎からず思うようになります。名著のつまみ読みばかりしていた町田さわ子は、神林しおりの影響によって読書の愉しみを覚えていきます。すると、しおりにも変化が訪れます。人懐っこいさわ子は、読書のことになると激しやすいしおりの言動をいつも笑顔で受け止めてくれたからです。
出会ったころは「水と油」だったはずのふたりは、第1巻から第3巻にかけてゆっくりと親交を温めていくうちに、かけがえのない間柄へと発展していきます。
ふたりはかげがえのない友になった
読書家(本好き)とそうでない者を決定的に分かつもの。それは「本の扱いかた」に現れます。『バーナード嬢曰く。』第3巻において、さわ子としおりの関係が破綻しかけたことがありました。しおりから借りた本に、さわ子がジュースをこぼして汚したからです。それが稀覯本だったので、愛書家を自負するしおりは激しい怒りを覚えます。でも最後には、しおりはさわ子のことを許しました。なぜなら、しおり自身も他人から借りた本を汚してしまった苦い思い出があったからです。
しおりがさわ子に親しみを感じる理由があります。若き読書家のしおりが、ミーハー読書家のさわ子に、過去や現在の自分自身のすがたを見出しているからです。たとえば、グレッグ・イーガンの難解なSF小説の理解度について。本好きが陥りがちな読書量やアンテナ感度のマウンティングについて。何よりも、たとえミーハーな興味がきっかけだとしても、好きな本について語り合える同年代の友だちがいることが、しおりの学校生活を豊かなものにしていました。卒業しても、たとえ離ればなれになっても、本好きのふたりがズッ友(ずっと友だち)でいられますように ──
本書『バーナード嬢曰く。』には、ほかにも登場人物がいます。男子学生の遠藤と図書委員の長谷川スミカです。この作品を語るうえでも欠かせない重要キャラクターなので紹介します。
遠藤と長谷川スミカ
町田さわ子。神林しおり。そして遠藤もまた、教室や同級生たちを避けるようにして昼休みや放課後に図書室で過ごすタイプの男子学生です。遠藤も人並みに本を読みますが、その視線が追っていたのは活字ではなく町田さわ子でした。
遠藤がさわ子に恋をしているのかといえば、そうとも言い切れません。『バーナード嬢曰く。』第1巻までは、遠藤が思わせぶりな表情を浮かべることもありましたが、想定を上回る「さわ子の変人ぶり」を目の当たりにしたせいか、『バーナード嬢曰く。第4巻』(施川 ユウキ・著/一迅社・刊)に至っては浮ついた要素を見出すことが難しくなりました。
本作品のLOVE要素を一手に引き受けているのは、図書委員の長谷川スミカです。引っ込み思案なメガネっ娘。若きシャーロキアン(熱狂的なシャーロック・ホームズのファン)でありミステリ小説の愛読者です。第1巻から登場しているキャラクターであり、さわ子のことを見つめている遠藤のことをひそかに見守っている一途で健気な女子学生。恋愛相関図の観点からすれば、スミカと遠藤とさわ子は緩やかな三角関係ということになります。
本書『バーナード嬢曰く。』のメインヒロインは町田さわ子と神林しおりですが ── 巻を重ねるごとに女子ふたりの共依存度が高まっている現状があります。さわ子としおりは妖しい香りを漂わせており、もはや男子である遠藤が割りこむ余地はありません。その一方で、恋の野心を秘めた図書委員にとっては逆転のチャンスであり、実際に第2巻と第3巻にわたって地道にLOVEアタックを繰り返し続けていた長谷川スミカは、第4巻時点において「遠藤のベストパートナーの座」をさわ子から奪還しつつあります。今後も目を離せません。
本好きはみんなズッ友だよ!
遠藤とさわ子。さわ子としおり。スミカと遠藤。そして第3巻から第4巻にかけては、新たにスミカとしおりが親交を温めはじめました。本書『バーナード嬢曰く。』は、ブックガイドとして楽しめるほか、交わり合う人間関係も見どころのひとつです。お試しください。
【書籍紹介】
バーナード嬢曰く。(4)
著者:施川ユウキ
発行:一迅社
グータラな読書家“バーナード嬢”と、その友人たちが図書室で過ごすブンガクな日々――。『モモ』『注文の多い料理店』『奇界遺産』『電車男』『君たちはどう生きるか』『渚にて』……、古今東西あらゆる本への愛と“読書家あるある”に満ちた“名著礼賛ギャグ”、刮目の第4巻!