私の母は、今も昔も大の読書家だ。我が家には、私が物心ついた頃からたくさんの本があった。実家にある小部屋には、母が昔から集めている本がずらりと並んでいる。その中から、興味があるものをいろいろと手にとり、時間を忘れて読み入ったものだ。
あるとき、活字ばかりの書籍の中で、一箇所だけ違ったオーラを放つエリアがあった。漫画本が置いてあったのだ。
「お母さんって漫画も読むのか~」と手にとって読んでみると、みるみる夢中になってしまった。
これが、私と『小さな恋のものがたり』(みつはしちかこ・著/学研プラス・刊)との出会いである。
叙情まんが『小さな恋のものがたり』とは
『小さな恋のものがたり』とは、背が低いことにコンプレックスを持っているチッチこと小川チイコと、背が高くてイケメンなサリーこと村上聡の純愛を描いた4コマ漫画。なんと、1962年に連載が始まって以来、実に50年以上も続く国民的超ロングセラー漫画である。
若い方や男性陣はもしかしたらご存じないかもしれないが、意外にも私のように「母が持っていて、自分も好きな作品になった」という人がかなり多いようだ。「叙情まんが」とタイトル前に付けられているように、ページのところどころに、ポエムとイラストが挟み込まれているのが『ちい恋』の大きな魅力。
就職で実家を離れてからはすっかり遠ざかってしまっていたが、なぜか紫陽花やさくらんぼ(みつはし先生のイラストによく描かれていた)を見かけると、ふとチッチとサリーのことを思い出すことがある。
それくらい、DNAレベルでチッチとサリーが私の中に組み込まれているような感じだ。
久々の『ちい恋』は切なさ100%
さて、そんな『ちい恋』を久々に読んだ。というのも、「第43集で突然の最終回を迎えた『小さな恋のものがたり』が復活した!」とニュースで知ったからである。
正直なところ、すでに最終回となっていたことも知らなかったのだが、久々にチッチとサリーの姿が見たくて、電子書籍で『ちいさな恋のものがたり 第44集』を開いてみたというわけである。
すると、序盤からなんとも胸が痛い。あれれ、初恋ならではの切なさとか、すれ違いのもどかしさは昔から散りばめられていたけれど、こんなにぎゅっと胸が締め付けられるようなまんがだったっけ?
そもそも、サリーがいない。チッチが事ある毎にサリーの姿を思い出して、悲しみに暮れている。最終回とされている第43集を読んでいないからこそ、あれこれとよからぬ妄想が広がる。二人は別れたのか? チッチが振られた? まさか死別じゃないよね?
そして、読み進めていくうちに、どうやらサリーはスウェーデンに留学したことがわかってきた。
友達の恋愛や友情、ちょっぴり心変わりも? 『ちい恋』復活集は見どころ満載
サリーがいない現実を憂いながら、毎日を送るチッチ。親友のトンコをはじめ、周囲の友達の温かな気遣いやセリフが胸に染みる。
しばし読んでいなかったせいで、登場人物の関係性が微妙に変化していたことにも驚いた。そして、新たなキャラクターも。チッチと今後いい関係になっちゃうのかな? なんて思わせる男性も現れたり。
それにしても、片思いでも両思いでも、みんなそれぞれ泣いたり笑ったり嫉妬したり、いろいろあるよね…学生時代の恋って。そんな淡いあの頃の恋心なんかを思い出して、思わず自分の年齢を忘れタイムスリップしてしまった。
『ちい恋』は親子3世代で楽しめる名作だ!
著者のみつはしちかこ先生は、御年7。2010年に大病をした後、手が思うように動かなくなり落ち込んでいたが、ずっと傍らで支えてきてくれた編集者に励まされながら、再び鉛筆とスケッチブックを手にとったのだそうだ。
今の時代パソコンで漫画を書く人も多いが、鉛筆ならではの素朴で愛おしい、懐かしさ漂う感じがまた、『ちい恋』の魅力なのかもしれない。
この原稿を書き終えたら、第43集を読もう。そして、今度実家に帰ったら、第1集から読み直そう。抜けている部分は買い足そうか。娘たちがもう少し大きくなったら、喜んで読むような気がする。
そういえば、あの小田和正さんも『ちい恋』の古くからの愛読者なのだそう。男性にもぜひ一度読んでほしい作品である。秋の夜長、いつものビジネス本もいいけれど、今宵はちょっと趣向を変えて、叙情まんがでもいかがだろうか?
【書籍紹介】
小さな恋のものがたり 第44集
著者:みつはし ちかこ
発行:学研プラス
43集で片恋にひとつの区切りをつけた、主人公のチッチ。スウェーデン留学中のサリーを想いながら過ごす、その後のチッチの日常を描きます。親友のトンコや松木さん、マユミとの交流、チッチが心ときめく新しい登場人物も!!