2005年から2008年まで、カリフォルニア州南部のアーバインという町に住んでいた。これだけの長期間にわたる外国暮らしは、留学以来初めてだ。学生時代にはなかった携帯電話もインターネットもケーブルテレビの日本語チャンネルもあるので、日本との情報距離はそれほど感じなかった。
生活に密着した情報を得る方法
ところが、現地生活に直結する情報となると、ちょっと工夫が必要だった。日系スーパーで日本語情報誌や日刊紙も手に入るが、こうした紙媒体はどうしてもスピードで劣る。さまざま試した結果、最終的にたどり着いたのは超有名SNS“mixi”の南カリフォルニア在住者コミュだった。
「売ります/買います」で家具の一部をゲットし、「車事情」で評判の良いクルマのディーラーを調べ、「フィットネス関連」で在住者おすすめのスポーツジムを探し、「オフ会」で飲み会に参加。ミクシィには本当にお世話になった。更新のテンポが速く、コミュの種類も豊富で、求める情報を常にピンポイントな形で見つけることができた。最初は目指す情報だけを探していたが、次第に読み流すことが楽しく感じられるようになった。
発信媒体であり検索媒体であるmixi
mixiの第一義的な性質は情報の発信であると思う。それと同時に、イエローページ的な情報検索作業に対しても優れた親和性がある。加えて、某巨大伝言板サイトほど毒は強くないものの、ややアグレッシブな物言いが許される空気のコミュニティも少なくない。
こういう使い勝手のサイトは、ありそうでない。そんなことはない、という意見もあるだろうが、それはmixiの既視感をほかのサイトに投影しているだけなんじゃないかと思う。
ちなみに、mixiの南カリフォルニア在住者コミュでかなりレアな職種のアルバイトを見つけることにも成功した。一度もチェックしたことがないという人は、このコラムを読んでいただいたことをきっかけに、ぜひサイトを訪れていただきたい。アカウントは持っているがしばらく訪れていないという人たちにも、新しい発見があるはずだ。
そのmixiに深く関わる人物が書いた興味深い本がある。
SNS進化論
『自己破壊経営』(木村弘毅・著/日経BP社・刊)の帯に、大きな文字で「ミクシィはこうして進化する」と書かれている。著者の木村さんの肩書は、株式会社ミクシィ代表取締役社長兼執行役員だ。目次を見てみよう。
・プロローグ
・第一章 モンスターストライクは世界一 !
・第二章 ロジカルシンキング×ゲーム=モンスターストライク
・第三章 木村弘毅社長 結局「挑戦し続ける」に行きついた反省
・第四章 未来のコミュニケーションとミクシィ
・エピローグ
筆者が迷わず最初に読んだのは第四章だ。あれだけ役に立ってくれたサイトが未来のコミュニケーションの軸に据えるものは、とても気になる。
縦横自由自在の組織構造
強調したいのは組織の概念だ。縦軸に「スポーツ」「デジタルエンターテインメント」「ライフエクスペリエンス」「メディア」「ウェルネス」という五つの“事業組織”、横軸に「技術」「アート・デザイン」「マーケティング」という三つの“機能組織”を据える。こうすると、15の接点ができる。
さらに、「社長補佐」「人事」「財務・グループ管理」「コンプライアンス・オペレーション」という4つの管理部門の島を別に作り、組織全体が有機的につながるようにする。“縦串・横串のマトリクス型組織”と名付けられた組織図には「縦の事業組織に対し横の機能組織がナレッジを展開。管理部門は事業全体をサポートする」というキャプションがつけられている。
この組織図を紹介した理由は、企業人であっても自営業者であっても、活かせるところが多いと感じたからだ。企業人ならそれぞれの組織を“係”や“班”に、そして自営業者なら“プロジェクト”に置き換えることができると思う。
今の自分を壊すことが未来につながる?
前述の通り、筆者はこの本を4章から読み始めた。SNSから始まり、2013年のリリース以来4500万というDL数を誇るスマホゲーム「モンスターストライク」を開発し、さらにはスポーツやウェルネスといった新しい分野に挑戦していく過程は、4章から1章という逆方向の読み方を通してよりよく理解できたような気がする。
3章で詳しく触れられている挑戦し続ける姿勢に関し、次の一文を紹介したい。2018年2月に代表取締役に選任された木村氏が、ミクシィの全従業員に向けて送ったメールからとった文章だ。
コミュニケーション事業という強い領域に積極的にチャレンジし、私たちにしか提供できない社会的価値を創出し、ユーザーを笑顔にしていきたいと思います。
『自己破壊経営』より引用
自分のセールスポイントを知り、積極性を失わず、自分にしかできないことを通して多くの人たちを喜ばせる。これは、規模に関係なくどんな仕事にも当てはまる公式ではないだろうか。
木村氏は、さらにこう語る。
「これまでの人生を振り返ってみると、ひたすら挑戦してきたことは確かだと思います。現状の成功に満足せず、常に新しい驚きを生み出すよう努力してきました」
『自己破壊経営』より引用
ただ、その挑戦の連続は木村氏にとって楽しい過程だったように感じられる。現状がよくないのなら、何が悪いのかを見きわめてよくなるよう挑戦する。現状にある程度満足していても、さらなる驚きを生み出せるよう挑戦する。手を緩めることなどありえないのだ。
今の自分を壊し続けることが挑戦し続ける過程となり、そこから新しい驚きが生まれる。結果として、進化が促進される。自己破壊という響きがキツめのフレーズには、そんな思いが込められているのかもしれない。
【書籍紹介】
自己破壊経営
著者:木村弘毅
発行:日経BP社
全世界累計利用者数4500万人を突破した「モンスターストライク」生みの親が語る誕生秘話とミクシィの未来。「モンスターストライク」ヒットの秘密はロジカルシンキングだった。