2019年4月30日。「平成」が終わります。
そこで、本記事では毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史作家・谷津矢車さんに、「平成」をテーマに様々なジャンルから5冊を紹介してもらいます。
ひとつの時代が終わる節目に、平成の30年間を振り返ってみるのはいかがでしょうか?
わたしは昭和61年生まれ、ぎりぎり昭和世代である。とはいえ、昭和の記憶はほとんどない。物心ついたときに最初に目に入った社会トピックスはボディコン、ジュリアナ東京だったし、もう少し分別がついたころに目に飛び込んできたのは高速道路の高架が横倒しになった阪神淡路大震災の映像であり、戦場と見間違うような混乱のなかにある地下鉄サリン事件の光景だった。思えばわたしの人生は平成と共にあったわけだ。
だからだろうか、平成とはどんな時代であったのだろうという疑問はわたしの中で感傷的な位置を占めている。
もっとも、「平成」という時代だけを切り取ることにどれほどの意味があるのかという疑問もある。元号という時代区分は歴史学の要請によって切り分けられたものではなく、(現憲法の記述を引用すれば)日本国、ならびに日本国民統合の象徴たる天皇の在位期間を示すものだからだ。だが、「激動の昭和」という言い回しが存在したように、我々はどうしても元号をもって思考する癖がついている。これは元号制度という特殊な時代区分を有している日本文化の面白さだろう。元号には魔力があるのである。
というわけで、今回のテーマは「平成」である。しばしお付き合い願いたい。
「平成」をまるっと振り返る1冊
まずご紹介したいのがこちら、「平成を読み解く51の事件」(文藝春秋・刊)である。本書は51人の論客・言論人・ジャーナリストたちが、平成に起こった様々な事件やスキャンダル、社会変動について回顧した本である。
本書が面白いのは、重大事件だけを紹介しているわけではなく、貴乃花・宮沢りえ破局や尾崎豊の死、宇多田ヒカルの台頭といった芸能ニュースにも目を向けているところだ。平成を生きたわたしたちは、山一證券の破綻に呆然としながら、芸能人たちのゴシップや新しい才能の誕生に一喜一憂していたのである。本書を読んでいくうちに、「ああ、こういう事件があったなあ」「そうか、この騒動はこの時期の出来事だったのか」と三十年余りの一時代を一冊の中で見返すことができる。
他国から見た「平成」ニッポン
次にご紹介するのはこちら。「黒い迷宮」(リチャード・ロイド・パリー・著、濱野大道・訳/早川書房・刊)である。
皆さんは、ルーシー・ブラックマンさん事件を覚えていらっしゃるだろうか。イギリスからやってきたルーシーさんが行方不明になり、のち、変わり果てた姿で発見された2000年ごろの事件である。本書はザ・タイムズ紙の東京支店長を務める日本通記者である著者がこの事件を追ったルポである。
丹念な取材と出来うる限り中立に徹しようという態度、けれど読む者を飽きさせない筆致によって、不可解で複雑な経緯をたどった事件の経緯が分かりやすく切り分けられている。
なぜ本書を「平成」の本として紹介するのかというと、それはひとえに著者の叙述態度によるものだ。本書は本来英語圏読者向けに書かれた本のため、ルーシーさんや犯人が直面していた平成10年代半ばの日本の姿を(日本に住む人からすればくどいまでに)描写している。ルーシーさん事件を通じて、異邦人の目から見た平成日本の狂乱と特殊性が描かれているのである。