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2019/1/20 18:30

雑誌『ソトコト』編集長が語る、現代人の幸せな暮らしとは何か?

「スローライフ」「ロハス」「ソーシャル」「ローカル」など、いまでは当たり前になったキーワードをいち早く発信し、社会をリードしてきたソーシャル&エコ・マガジン『ソトコト』。さまざまなライフスタイルの在り方を提供し続ける、この稀有な雑誌の編集長を、約8年間にわたって務める指出一正さんを訪ねました。

 

さまざまなトピックを誌面に取り上げるための“ソトコト的視点”から見えてきたのは、「社会との関わり方」や「上手に人生を遊びながら行きていくコツ」などなど。そこには、現代人が自然に生きていくためのヒントがたくさん隠れていました。今回も聞き手となるのは、アットリビングでおなじみの“ブックセラピスト”、元木 忍さんです。

 


『ソトコト』
823円〜1000円(木楽舎)
1999年の創刊以来、2019年で20周年を迎える。本棚にあったここ2年あまりのバックナンバー。地方のコミュニティにスポットをあてた特集が並ぶ。今後は再び「環境」などについても、面白いテーマを探っていくという。

 

東日本大震災をきっかけに変わった
『ソトコト』らしさの転換点

元木忍さん(以下、元木):“ソトコト的な生き方”を選ぶ人々がますます増えていますね。この雑誌は創刊されてから何年目になるのでしょうか? それと編集長になられたのはいつ?

 

指出一正さん(以下、指出):雑誌は2019年で20周年になりますね。あと、僕が副編集長から編集長に就任したのが2011年。ちょうど東日本大震災があった年なので、よく覚えています。

 

元木:副編集長から編集長になったことで何か意識の面で変わったことはありましたか? 「編集長になってこいうことがしたい」という志など……。

 

指出:僕が変わったというよりは、社会が変わったタイミングで僕が編集長になったんですよ。3・11のあった2011年の、6月5日発売の号から僕は編集長なので、まさに3月ぐらいから。それまでは、“環境や地球のことを考えるライフスタイル”を提案しているメディアでしたが、もっと“コミュニティ”とか“社会”とか、自分たちが暮らしている社会の中で、もっと幸せを見つけられるような“ヒント”を載せていかないと。あまりにも大きな目標ばかりでは、みんなが手ごたえを感じない社会になってしまう、と思ったんですよね。

 

元木:なるほど。たしかにあの3・11で社会は大きく変わりましたし、考えてもみなかった大きな天災を目の前で見た時に、今何をすべきかと考えられるようになった人も多いですよね。

 

指出:例えば地球温暖化問題もそうですけど、「自分 vs 地球」みたいのはわかりやすい。でも、自分が地球のために何ができるんだろう、というときに遠く大きすぎて、“目印”を見つけづらくなっちゃうんですよね。だから、それよりはリノベーションみたいに、古くなって使わなくなった場所を、3カ月後にはカフェにしてオープンさせるとか、そういったほうが、みんな一緒に“近い未来”を見られる。こうした“小さな社会”の中で、前を向けるような提案というのをやっていこうと思ったんです。

 

元木:それを「ソーシャル&エコ・マガジン」と言って、社会とか未来のことを考える“ソーシャルグッド”“ソーシャルビジネス”“ソーシャルベンチャー”という視点として前に持っていって、変えたわけですね。

 

 

ミクロな視点で物事を見る
それが『ソトコト』らしさ

元木:『ソトコト』を読んでいて感じるのは、とてもミニマムなコミュニティを取り上げて、そのライフスタイルを掘り下げている、ということ。全国誌なのに、小さな地域の現象を広めるというのはかなりの挑戦というか、新しいとも感じました。どういった基準で、そのテーマを取り上げるか否かを決めているのですか?

 

指出:全国誌としては非常に異風なテーマを取り上げている雑誌ですよね。たしかに「そんな小さな世界のことを全国に発信して、果たしてどうなるんだろう?」というのは、みんな疑問に思っているかもしれません。でも、僕が舵を切って『ソトコト』をソーシャルな方向に振った1〜2年目に、はたと気がついたんです。違うコミュニティの若者同士が、実は意図せずして社会のつながりを増幅してくれている人たちだった、と。各地のローカルイノベーターたちが同時性を持って、『こんな面白い人たちもいるよ』と、新しい若者たちとそのコミュニティを、距離を飛び越え、SNSを介して広めてくれていったんです。だから、今は“小さな視点”で社会を見るようにしています。すると、どんな地域でも、そこには必ずいくつかの面白いことが発見でき、社会に広がっていく。

 

元木:ではその面白い発見とは、場所や現象を紹介することではない、ということなんですね。どんな人が住んでいて、どんなことをしているのか、を純粋に伝えたいと?

 

指出:そうですね。元木さんとかもたぶん感じていると思いますけど、基本的にはお店を紹介したり、新しい現象を紹介したりしたら、また次の新しいトピックを探すのが編集者の仕事じゃないですか。それはすごく大事なんだけど、それをやっていたら消耗してしまうだろうなと思って。あるタイミングで、そこだけに軸足を置くことをやめて、今は25カ所くらい定点で同じ場所に通うことをやっているんですよ。

 

元木:そうした場所にいる、面白い人物やコミュニティを“ミクロな目線”で観察するのが、“ソトコト的な伝え方”なんですね。

 

アウトドアブームに見る
「遊び方」の重要性

元木:ここ数年、急激にアウトドアブームが訪れて、イベントなども盛り上がっていますね。指出さんは釣りが趣味とのことですが、こうしたブームもライフスタイルの変化として、どう捉えていますか?

 

指出:やはり、きっかけは震災だと思うんです。それまで普通にあった食べ物やインフラが急に止まったことで、「いつもあるものは、いつもあるとは限らない」と気がついたんじゃないでしょうか。お金があっても、何もできないということを。
僕は小学2年生から釣りを趣味にしていて、イワナという魚のことしか、いまだに考えていない(笑)。自分の好きなものを真ん中に置いて生きる方法を選んだときに、「なんだ東京じゃない場所のほうもクリエイティブじゃないか。ローカルはファンタジーに満ち溢れているじゃないか」と思ったんですよ。たとえば山形県の赤いトタン屋根の集落とか、遠野のカッパ淵に行くとか、島根県の石州瓦のオレンジ色の屋根がずっと続く田園風景とか、めっちゃかっこいいじゃん! って。

 

元木:さすが、指出さん。すごく遊び方が上手そうですよね(笑)

 

指出:自分で遊びを作れる人たちは、ローカルやアウトドアに行けば行くほど、釣りをやってもおいしいパンを焼いてもいいし、そういうことができる。自分で自分の遊びや暮らしを作れる人たちが若い人たちに増えた結果、アウトドアとかキャンプとかの価値観がもう一度見直されて、これだけの人気になったんじゃないですかね。誰かに時間割で与えられた時間の中で生きるのとは別の、そうした自分で自分の時間や暮らしを作る感覚が、キャンプとかにはある。それで盛り上がっているんじゃないかなと思います。

 

元木:我々からちょっと上の世代って、何かにつけて「忙しい」とか言って、自分の時間を作るのが下手な人が多いですよね。忙しいって言葉を使う人は、心を亡っている(うしなっている)気がしてなりません。

 

指出:自分の本当に好きなものを持たないまま引退している人が多いかもしれませんね。人はやっぱり、なるべく遊んだほうがいいですよ。自分の遊びを持って歳を重ねている人のほうが、街に迷惑をかけないですよね。

 

 

“ローカルヒーロー”に学ぶ
これからの新しい生き方

元木:仕事と休日の境目がなさそうですが、本当の休日はどう過ごされているんですか?

 

指出:先ほども話しましたが、いま複数の同じ場所に通っていまして、休日もローカルな場所に足を運んでいます。あまり仕事とプライベートの境目はないですね。

 

元木:でも仕事も休日も楽しそうですね(笑)。足を運ぶのは25カ所とおっしゃっていた地域ですね。どういった観点で赴かれているのでしょうか?

 

指出:やはり気になる地域には、キーパーソンがいます。その地域を盛り上げるための活動をしている人だったり、その周辺の人間関係だったり。そうした「ローカルヒーロー」を軸に、地域がどう変わっていくかを感じるのが楽しいんです。たまには釣りをしながら(笑)

 

元木:魅力あるローカルにはキーパーソン有り、ですね。そこにはクリエイティブがあると思われますか?

 

指出:例えば、岡山県で蜂追いを仕事にした男性がいます。彼は完全にパイオニアなわけですよ。しかも年収も何百万円も稼いでいて、ちゃんと仕事になっている。こうした若い人が「新しい仕事」を作っていくことこそ、これからの社会に求められていくんじゃないかと思っています。

 

小さな地域で、そこにしかないような個性や仕事を生む若者たちを常にチェックしている。

 

元木:人工知能(AI)が発達すると、今ある仕事がなくなるとも言われています。そうすると、新たな生き方や働き方を模索する必要がありますよね。

 

指出:はい。だからこれからは、小回りが利くものを作っていく時代じゃないですかね。それこそ下北沢みたいな街の感じというか。みんなが小さなコミュニティとして商売をやっていくことを、若い人たちが取り戻したいんじゃないかなあという気がします。

 

元木:“ローカルニッチ”は増えてますよね。

 

指出:ええ、例えばフランチャイズのカフェやドーナツ店とかが、いろんな地方都市から撤退していったとします。でも、それは実は悲しい現実ではなくて、“可能性がたくさん開かれたみたいだ”と僕は思っていて。大きな会社はギリギリまで辛抱して撤退するんじゃなく、必ず早めに撤退するじゃないですか。絶対損しないタイミングで。だから、「絶対に危ないぞっていうライン」と、「まだちょっと大丈夫だけど、ここは撤退しようというライン」の“真ん中”が、若い人たちの起業のチャンスなんですよ。ミニマムな投資でカフェをやることで、実はそこで行列ができるお店ができたり新しくスタッフを雇えたりする。地域で小さな仕事をする流れをどんどん作ってもらったほうが、これからは面白いんじゃないかなと思いますね。

 

『ソトコト』編集長 / 指出一正 (左)

1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。趣味はフライフィッシングで、イワナをこよなく愛する。島根県「しまコトアカデミー」をはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる 。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。
ソトコト https://www.sotokoto.net/jp/

 

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