この春から、PTA本部役員を務めている。
実は息子の小学校では、昨年度の役員の方々がかなり尽力してくれて、大幅なPTAのスリム化が実現した。これまで当たり前のように存在した○○委員会といった類の役割を、極限まで廃止。今の時代に合わない、必要ないと思われる役割はどんどん削減していったのだ。
これには、保護者一同拍手喝采である。ただし、大改革後の初年度であるがゆえに、いろいろな部分で苦労も多い。委員に選出された保護者の負担をできるだけ減らすべく動いてはいるが、すぐにはなくせない行事もある。また、地域活動への参加要請に対して「今年からうちの学校はなしで!」とは言い難いものだ。
これまでの長い期間「当たり前」とされてきたことにメスを入れるのって、楽しくもあるが、本当に骨が折れることでもある。
さて、そんなどの世界にも存在する「当たり前」をことごとくやめてきた、まさに異端児とも言える校長をご存知だろうか? 東京の公立名門中学・麹町中学校の校長である工藤勇一氏である。
彼は、「宿題は出さない」「中間・期末テストの全廃」「クラス担任制の廃止」など、ちょっと耳を疑うような大改革を成し遂げている。なぜ、そのような改革が成功したのか。もしかすると、工藤校長のメソッドは教育界のみならず、さまざまなビジネスに通じるものがあるかもしれない。
今回は、工藤校長の著書『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社・刊)から、衝撃の、そして納得の改革法と思想を読み解いていく。
固定観念にとらわれず、「目的」と「手段」を洗い出す
毎日宿題が出され、定期テストに向けて勉強する。「みんな仲良く」をスローガンに、各クラス担任の指導のもと、和を重んじた学級経営が行われている。
こんな「当たり前」の学校の姿に、待ったをかけたのが工藤校長である。
というのも、今の日本で行われている教育活動の多くは、「本来の目的」を見失っているのではないか? と、かねてから疑問に思っていたからだという。
本来学校は、子どもたちが「社会の中でよりよく生きていけるようにするため」にあり、「自律」する力を身に付けさせる場である。けれども、現在の学校や家庭での子どもの接し方を見ていると、手厚く育てすぎているがゆえに、子どもたちが自ら考え、判断し、決定、行動する機会を逃してしまっているのではないか。そう危惧しているのだ。
だから、大人になって何か壁にぶつかる度に、誰かのせいにするようになってしまう。
そうならないためには、「目的」と「手段」を今一度見直すことが重要だと工藤校長は述べる。
たとえば、当たり前に毎日出される「宿題」。自ら学習に向かう力をつけて、学力を高めていくためには、「わからない問題をわかるようにする」プロセスが大切だ。しかしながら多くの宿題は、同じ漢字を機械的に数十個書かせたり、すでに解ける簡単な計算問題が何十問も並んでいたりと、子どもにとって「非効率な作業」にとどまってしまっている。
宿題とは、子どもたちが「やらされる学習」ではなく、「自律的に学ぼうとする姿勢を育てる学習」でなくてはいけないのだ。
定期テストに関しても、然り。
中間テストや期末テスト前になると、ほぼ一夜漬けでテスト範囲を丸暗記したという、苦い想い出を持っている人は多いだろう。この勉強法は、「テストの点数をとる」という目的においては有効だが、「学習成果を持続的に維持する」という点では効果的でないと工藤校長。
そのために工藤校長が行った改革は、「定期テストの全廃」だ。そのかわり、麹町中学校では単元が終わるごとの小テストや、出題範囲が事前に示されない実力テストの回数を増やし、着実に学力を高めていける方法を取り入れている。
社会に出てから役立つ力を身につけるカリキュラム
工藤校長の斬新な試みは、まだまだある。
単に黒板の内容を書き写すだけのノートの取り方ではなく、自分の頭で考え、気付きやまとめを書き込む、効果的な「フレームワーク」の導入。スケジュール管理を身につけるための「手帳」の活用。観光地を巡って「楽しかったね」で終わるだけの旅行ではなく、生徒自身が旅行会社の社員になったと想定し、ツアーを企画・考案して実際に取材して旅行会社に提案する「修学旅行」。ありふれた「遠足」だって、一人一枚お気に入りの写真を撮影し、キャッチコピーを添えて教室前に掲示する「フォトコンフィールドワーク」になる。
すべての行事に明確な目的意識を持ち、楽しみながら夢中で取り組むなかで、生徒たちは「自律」を身に付けていくのである。そして、社会に出たときの即戦力となる。
ほかにも、法律の存在意義を考える「模擬裁判」、実在する企業の社員の一員になり、与えられたミッションに取り組む「職場体験」など、聞いているだけでワクワクしてくる、興味深い取り組みばかりだ。
「最上位の目標を共有する」ことこそが、大いなる改革の第一歩
はたして、工藤校長の大改革は、麹町中学校だから可能だったのだろうか。それとも、やはり工藤勇一という地位や人徳あってのものだろうか。
答えは、おそらく「ノー」だ。
教育現場に限らず、会社でも、家庭でも、「当たり前」を変えていくことはできる。そのために重要なことが「最上位の目標を共有すること」だと工藤校長は述べる。
目指す形が同じであれば、たとえそこへ向かうプロセスで意見が対立しても、必ず「目的を達成するためにはどうしたらいいか」に立ち戻って、考え直せる。
今の私で言うと、PTA活動がまさにそれだ。最上位の目標は「子どもたちも保護者も、楽しく学校活動に関われること」。親子共に笑顔になれるためには、何ができるか。この目的のもとに手段を考えていくことで、イヤイヤ参加するPTA行事から、保護者が進んで参加するPTA行事へと変えていけるかもしれない。今年一年、やれるだけやってみようか。
誰もがみな、何かしらの「不要な当たり前」に気づいてはずだ。そして、その「当たり前」をやめることは、思ったよりも難しいことではない。自分にも一歩を踏み出せるかもしれない。『学校の「当たり前」をやめた。』は、そんな希望が湧いてくる一冊だ。
【書籍紹介】
学校の「当たり前」をやめた。
著者: 工藤勇一
発行:時事通信出版局
宿題は廃止。固定担任制も廃止。中間・期末テストも廃止。およそ全国の中学校で行われていることを問い直し、本当に次世代を担う子どもたちにとって必要な学校の形を追求する、千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長。自ら学習し、将来を切り拓く力は「自律」。大人が手をかけすぎて、あげくの果てになんでも他人のせいにするようなことにならないよう、中1から中3までの授業や行事を組みかえる。生徒や保護者に強く支持される学校づくりの全貌がここに。
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