物を盗むのは、いけないこと。
誰もが、子どものころからそう教わってきた。けれど、「物」を「時間」に置き換えてみるとどうだろう? 世の中には、「時間泥棒」がいかに多いことか。
たとえば、約束に遅れる。たとえば、予定を直前にキャンセルする。無駄に話が長いことも、重大な時間泥棒だ。
自分の想いを端的に伝えられず、たとえ話ばかり並べたり、なんだかんだと長々話し続けたりすることは、多忙を極める相手の貴重な時間を奪っていることに他ならない。
友人同士の会話ならまだいい。だが、会社の上司や取引先に何かプレゼンをするとなったら、いかに簡潔に自分の主張を伝えられるかがカギになる。
つまり、大切なことをシンプルに伝える技術が不可欠なのだ。
今回は、ヤフー株式会社で次世代リーダーの育成を行うほか、多くの企業でメンター、アドバイザーを務めるプレゼンの名手・伊藤羊一氏の著書『1分で話せ』(SBクリエイティブ・刊)から、相手を動かす効果的な伝え方を学んでいく。
あなたの話の80%はスルーされている!?
私自身、「自分の想いをしっかり盛り込んで話せば、相手に伝わるもの」だと思っていたのだが、それは間違いだと伊藤氏はズバリ切る。なぜならば、「そもそも人は、相手の話の80%は聞いていない」のだと言うのだ。
たとえば、一生懸命相手の話を聞こうと思っていても、ふとした瞬間に別の思考に飛んでしまうことはないだろうか。雨の音が聞こえてきたら「あ、今日は傘を持ってきてない!」、ちょっと冷えてきたら、「羽織ものを持ってくればよかった」、お昼が近づいてくれば「お腹空いてきたな」などが頭の中をよぎることは珍しくない。
そのため、どれだけ素晴らしい内容のプレゼンをしたとしても、自分が話したことのすべてを相手の頭の中に残すことはほぼ不可能なのだ。
では、どうすればよいかというと「1分で話せるようにする」ことだ。極論、「1分でまとまらない話は、何時間かけても伝わらない」のだと伊藤氏は述べる。
ロジカルに1分間のストーリーを組み立てよ
話が長くなりがちな人は、往々にして「あれもこれも伝えたがる」ことが多い。(だって、実例やデータが多いほど、相手は納得してくれやすいと思うじゃあないか!)
だが、いくら事例や根拠を並べても、相手は動かせないのだと伊藤氏。何か伝えたいことがある場合は、まず「主張」があり、その下に根拠をいくつか(理想は3つ!)並べる「ピラミッド」の形を意識すること、これが大前提だ。ロジカルに思考をまとめることで、話が簡潔に、しかも説得力が増す伝え方ができるのだと言う。
そして、難しい言葉は避け、できるだけスッキリと内容を整理する。これは、話すときの言葉はもちろん、プレゼンなどで使用するスライドも然り。読まずとも内容が頭に入ってくるような見た目や言葉のチョイスを心がけよう。
相手に強く印象づける「最強のキーワード」を考えよ
雑誌でもwebでも、記事を書く際にキモとなるのが、タイトルや見出しだ。「何が書いてあるんだろう」「読みたい!」と相手を動かすための、惹きのあるキャッチーな言葉選びが重要である。
同様に、プレゼンでも「覚えやすく、その一言で、プレゼン全体を表現するようなキーワード」が強い武器となる。このことを「超一言」と伊藤氏は表現している。何か印象的な一言を使うことで、聴衆はプレゼンの内容までを鮮明に覚えていてくれるのだそう。80%はスルーされる状況下で、超一言の威力は大きい。
その上で、誰に向かって話すかを意識し、視線・手振り・声・間合いに気をつけながらプレゼンをする。これだけで、あなたの話はぐっと相手に伝わり、主張が通りやすくなるだろう。
話している自分と相手を俯瞰で見よ
伊藤氏の主張はタイトル同様に、とても簡潔で、しかも納得できるものばかり。なかでも特に「面白いな」と感じたアドバイスが、「リトルホンダを作るよう意識する」ということだ。
サッカーの本田圭佑選手が2014年にACミランに移籍するとき、「心の中で、私のリトルホンダに聞きました。『どこのクラブでプレーしたいんだ?』と。そうしたら、心の中のリトルホンダが『ACミランだ』と答えた。そういう経緯があって、ACミランに来ました」と記者会見で話したことを覚えているだろうか。これこそが、プレゼンがより伝わるテクニックなのだと伊藤氏。
つまり、主観の自分と客観の自分、両方の視点を意識して、俯瞰で見ながら話すことで、聞き手の心をぐっと捉えるのだと。なるほど。私も、次に何か相手に訴えたいときは、リトルミズタニの存在を意識してみようか。
『1分で話せ』では、伊藤氏によるプレゼンの極意だけでなく、実践法も詳細に語られている。相手を取り込むために、あえてツッコミどころを用意する、会議で自分の発言をスムーズに聞いてもらうための雰囲気を作っておくといった、テクニックとしては少々高度だが、効果抜群のアドバイスも満載だ。
最後に、間違ってはいけないのが、話をロジカルに組み立て、シンプルに「1分で話す」ことは大事だが、そのための準備には時間を惜しまないこと。事前の根回しやプレゼン後のフォローがあってこそ、1分間のプレゼンが活きてくる。
自分の話がイマイチ相手に伝わっていない、話を聞いてもらえている実感がないと悩みを抱えている人は、伊藤氏のプレゼンノウハウを取り入れて、時間泥棒からの卒業を試みてみてはいかがだろうか。
【書籍紹介】
1分で話せ
著者:伊藤羊一
発行:SBクリエイティブ
ヤフーアカデミア学長にしてグロービス講師。孫社長にも一目置かれた伝説の「伝え方」! プレゼンに限らず、人前に立って話をする、指示をする、伝える、ということが苦手な方はいるでしょう。著者の伊藤氏は、そのプレゼンを聞いたソフトバンクの孫社長から認められるほどの技術の持ち主であり、今はグロービスの講師として、ヤフーアカデミアの学長として、起業家からビジネスパーソンまで年間300人以上のプレゼンを指導し、ピッチコンテストなどでの優勝者を続々と輩出しています。本書では、「右脳と左脳」に働きかける伊藤氏独特のメソッドを紹介します。
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