日曜日の昼下がり。わんこの散歩を終えて、ネットでネタ探しをしながら、『ザ・ドキュメンタリー』という番組を見るのがルーティーンになっている。毎回、さまざまな事象や人物をちょっと変わった角度から切り取って淡々と語っていくフォーマットなのだが、先々週の放送分は特に強いインパクトを感じた。
40代前半ホストさん、再降臨
ネット上で早くも“神回”と称され始めているエピソードの主役は、40前半のホストさん。20代のころは絶対的ナンバー1として君臨していたが、最近は売り上げもさっぱりで店内の立場も決して良くなく、20歳も年下のホストからディスられたり、ほかの後輩たちの目の前で喧嘩を売られたりとさんざんだ。
番組は、このホストさんが新規の客を増やしていくプロセスを紹介していく。彼が相談をもちかけたのは売上ナンバー2のホストさん。勧められたのは、動画シェアアプリTik Tokを使ったプロモーション活動だった。
手に入れた武器はTik Tok
40代前半ホストさんは新しい武器となったTik Tokをどう使ったか。さっそく撮影してアップしたいくつかの動画の中に、起き抜けから始まってお店に出るまでの準備のプロセスをまとめたものがあった。この動画が“おすすめ”に挙げられて再生回数が驚異的な伸びを見せ、売上締め日には、これを見たという21歳の女の子が店に来て、指名を勝ち取った。こんなことが続き、結果として3年ぶりに月間売上4位に返り咲くことになったのだ。
このホストさんはテレビにも出ていて、まあまあ有名な人なので複数メディアの相乗効果もあったはずだ。しかしその分を差し引いてもこのやり方は瞬発力も爆発力もすごいし、出勤までの準備動画という自分をさらけ出す舞台裏的なコンテンツをアップする発想は、ほかの何かにも活かせるはずだ。
人であれモノであれ、売り込みという行いの核の部分にあるのは、こういうことなのだと思う。目のつけ所とか着想点を決め、そこからさまざまなアプローチを展開していく。そのプロセスを形容する言葉はさまざまあるだろう。
売れる理由
『お客をハメる「売れる!」心理学』(内藤誼人・著/学研プラス・刊)のタイトルにある“ハメる”という言葉は、騙すというネガティブな意味では決してなく、それぞれのお客にとって最も収まりのよさが感じられる器を作るというニュアンスの動詞として使われているものだ。あまたあるアプローチやセールスの方法論におけるキーワードのひとつにほかならない。
売れる商品、売れるサービス、売れる店員には、何らかの理由があるはずだ。理由があるからこそ、現実に“売れている”わけであり、その理由とは一体何なのだろう?
私は、もともと何でも知りたがる人間なので、よくそういう疑問にとらわれる。私は専門のマーケターなどではないが、心理学的な知見から、そうした理由について分析することに興味がある。
『お客をハメる「売れる!」心理学』より引用
アメリカに、トレーダー・ジョーズというオーガニックスーパーのチェーンがある。最近日本でもこの店のロゴが入ったトートバッグが流行している。筆者はある時期、カリフォルニア州のオレンジカウンティにある何軒かの店舗に通っていた。
どの店でもレジから駐車場で車を誘導する係の人まで、みんな本当に楽しそうに働いていた。支払いはクレジットカードを使うので、何回か通ううちにファーストネームで呼ばれるようになった。すべての店員さんから“楽しいオーラ”が出ているので、「何か買うならあの店で」という気持ちになり、自然に足が向いてしまう。内藤さんがおっしゃっているのは、こういうことじゃないんだろうか。
セルフプロデュース本としても読める
この本の出発点を明らかにするために、「はじめに」からもう一文紹介したい。
流行っているお店は、どういう理由で流行っているのか。人気の店員さんは、なぜお客に好かれるのか。売れる店舗は、どんな風に商品を陳列しているのか…。モノを売る現場には、まさに不思議がいっぱいだ。そういう不思議さを、心理学というメガネを通して分析してゆきたい。
『お客をハメる「売れる!」心理学』より引用
章立ても見ておこう。
第1章 お客の“心”の中は、いったい、どうなっているのか?
第2章 お客の「買う気」を引き出す心理テクニック
第3章 お客の心を奪う営業マンは、どうやってモノを売っているのか?
第4章 売れる「お店」がこっそりやっている仕掛け
第5章 どんな“広告”が人の心を動かすのか?
章立てを見ると、モノを売るスキルについて語るというのが大テーマであることは間違いない。しかし、心理学的要素を背景に語られるコミュニケーションスキルとセルフプロデュースについての本という読み方もできるような気がしてならない。
人間関係にも役立てたい
具体的なエピソードを交えながら進む項目は、コラムも含めて全部で60個。それぞれの項目の終わりにまとめのひとことが添えてある。これを最初に見てからその項目を読むと、アイデアの浸透がよりよくなると思う。
買う側の気持ちの分析から始まって、買う気を起こさせる要因に触れ、売る側が持つべき特質を語り、店と広告という道具の効果的な活かし方を解き明かしていく。やっぱり、売れる店にも指名が多いホストさんにもきちんとした理由があるのだ。その大前提となるのが、コミュニケーションスキルとセルフプロデュースであることは言うまでもない。
【書籍紹介】
お客をハメる「売れる!」心理学
著者:内藤誼人
発行:学研プラス
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