本・書籍
2016/6/22 22:33

明治・大正期の「おまじない」は科学とオカルトが混在しつつも「お役立ちライフハック」が意外に多い!?

買えない本の意味ない(!?)書評 ~国会図書館デジタルコレクションで見つけた素晴らしき一冊~ 第8回

 

夏といえば怖い話や怪談の季節。怪談の古くは平安時代にさかのぼるといわれ、今でも変わらず人気があるが、それに近い「まじない・おまじない」の類は最近少し影が薄くなったように思う。

 

まだ私が子どもだった2~30年前は、勉強が得意な人とシャーペンの芯を交換したり、好きな人の名前を紙に書いて枕の下に敷いたり……と、いろいろな悪あがきをした気がする。

 

最近はおまじないよりも、もう少し効果があるライフハック的な情報がネットにあふれているため、おまじないの神通力は減ってしまったのだろう。

 

では、今よりもはるかに超自然的な出来事と隣り合わせだった明治・大正期には、どのようなおまじないが行われていたのか。著作権切れの本が閲覧できる国会図書館デジタルコレクションの検索窓に、「まじない」「おまじない」と入力してみた。今回は、面白そうな本が3冊見つかったので、1冊から2個ずつ、計6個の役に立つ(?)おまじないを紹介していきたい。

 

■「まじなひ秘法 : 素人早わかり民間日用」顕神学会 編

20160622-a06 (1)

まずは、顕神学会編「まじなひ秘法 : 素人早わかり民間日用」(大正8年)。この本には日常生活で使えるまじないが、なんとイロハ順に300種類も掲載されている!

 

項目も「はやり風(邪)に冒されぬ」「蜂にさされたる時」「家の内に失せ物あるとき」と非常に身近。なかには、「ニラネギを食いて口の臭からぬ」「だいこんの苦きを去る」など、しょうもない内容のものまであり、目次を眺めているだけでも飽きることはない。

 

この本のなかから、旅行シーズンに使える2つのまじないを選んでみた。

 

「遠足なして(遠出しても)足の痛まぬまじない」

20160622-a06 (2)

「足の甲と裏へ胡麻油をぬれば足痛むことなし。また、洗足してのちに食塩を口にて噛み、足の裏へぬりて火にてあぶるべし。これまた痛むことなし」(一部仮名遣いなどを修正)

 

足に胡麻油をかけたり、塩を塗ったりと、食べるつもりか!? という感じだが、オイルマッサージや、足をつらないように塩分補給していると考えれば意外に科学的かもしれない。

 

「日和(晴天)を祈るまじない」

20160622-a06 (3)

「白紙を幣束(御幣)に切り、それを豆腐にさして家上へ出して、日和を祈念すれば雨天快晴すること妙なり。また、あぶらげを空飛ぶトビにそなえて祈るもまた妙なり」

 

てるてる坊主は定番だが、豆腐という手もあったのか。江ノ島あたりでは、毎日のようにソフトクリームをトビに供えて(奪われて)いる観光客がいるが、晴天続きとは聞かない。

 

なお、「人の前に出て恐れぬまじない」という項目を見つけ、まさかと思って開いたら、「人という字を三遍書きてそれを嘗むべし」と書かれていた。このおまじないは、とんでもなくロングセラーだ。

 

■「魔法の奥の手 : 神秘鬼没虚術自在」秘術研究館 編

20160622-a06 (4)

続いての本は、秘術研究館編「魔法の奥の手 : 神秘鬼没虚術自在」(大正6年)。こちらは、もう少し本格派のオカルト本である。

 

「魔法とは古来相伝の不可思議なる秘術の意味であって……その古来の伝説、秘密を開放し……活用せしめんとするのである」と前書きも壮大だ。

 

「水中歩行自在の妙術」

20160622-a06 (5)

「六鳳草の根を細末とし、花粉とともに雲雀(ひばり)の卵の黄身で練り、これを一日十匁ずつ四ヵ月も食すれば、身体が自然に軽くなり、水上に立っても決して沈まず自由に歩行ができる」

 

必要なのは「六鳳草」と「ヒバリの卵」。六鳳草については、調べてみたがどんな草か判明せず。これが揃えば海水浴ももっと楽しくなるのに……。

 

「汗をかかぬ法」

20160622-a06 (6)

「水晶の玉あるいは数珠の玉(を)、へその中へ入れ上より布にて腹帯をしめ歩行すれば、汗出でず妙なり」

 

こちらも夏にピッタリの秘法。お腹の布の部分があせもになりそう……。

 

■「花柳界おまじないと怪談」朝寝坊記者 談

さて、3冊目は朝寝坊記者談「花柳界おまじないと怪談」(明治44年)。花柳界の女性たちに聞いた恋のおまじないと怪談、2大要素がセットになった本だ。談話形式で書かれているので、ダイジェストでまとめてみた。

 

「鏡を用いての待ち人のおまじない」(堀江丸三席の某老妓談)

 

【紙に想い人のあらゆる悪口を書き並べ、それを鏡の裏へ逆さまに貼り付ける。するとしばらくして想い人が現れる。また、悪口ではなく、「死んだ」と書くのも効果的。】

 

左右反対に映る鏡の性質からの連想だろうか。このあと、本書では悪口だらけの紙を本人に見られてさあ大変! という展開になる。実はこのおまじない、調べてみると今でもネットで見かける現役。凄みを感じる。

 

「剃刀にて男の心の中を(知る)」(堺龍神の菊の字談)

 

【茶碗に水を入れ、そこにカミソリを浮かべて、夜の二時三時に寝床へ持ってくる。寝ている男に見つからないようにカミソリを茶碗の上で揺らしながら、「サア言え」というと、男は寝言で本心をすっかり白状する。】

 

菊の字さんによれば、実際に成功したとのことだが、多分その男は、カミソリを触る彼女を薄目で見て、恐ろしさのあまりいいなりになった、というのが真相ではないか。ちょっとしたホラーだ……。

 

おまじない本を3冊読んでみたが、科学的な小技や裏技と、まったくのオカルト情報が混在していて、それが味わいになっている。明治・大正期は、今よりもたくさんの不思議が世の中にあふれ、それを楽しむ時間の余裕や心の余裕があったのではないか。少し羨ましい。