少食の人は有能だ。いままで私が出会った有能な人は少食だった。
忘れられない先輩が2人いる。どちらも優秀なビジネスパーソンだ。ふたりとも昼飯を食べない人だった。朝と夜の1日2食。
ひとりは働き者で、人間の限界を超えた出張回数をほこる彼のことを、私たちは「鉄人(アイアンマン)」と呼んでいた。
もうひとりは60代のおじいちゃんだ。定年後に再雇用された営業部員で、アダ名は「フィクサー(仕掛け人)」だった。日ごろは昼行灯だが、たまにどこかへ電話してから行き先もつげずに外出する。帰ってくると、かならず数百万円単位の契約を持ち帰った。出来高はいつも営業部の上位だった。
「1日3食ではない」つまり少食の人は有能である。私の経験則は、医学的にみて正しいのだろうか?
■少食は長寿の秘訣!?
『できる男は超少食』(船瀬俊介/著)によれば、少食にはさまざまな健康効果が認められるという。たとえば、肌に張りがよみがえるなどの若返り、回春、必要な睡眠時間が短くなる、メタボリック症候群の改善、脳がスッキリして記憶力アップなど。
さらに同書は「鶏卵農家は、鶏に卵を産ませるために、まず、2週間ほど断食させる」事例を紹介している。飢餓(ファスティング)によって生殖力が加速するためだとか。ほかにも「カロリーを6割に制限したマウスの寿命が2倍にのびた」という研究結果もあるらしい。最近でもアメリカの国立老化研究所やウィスコンシン大学が猿(サル)に対して同様の研究をおこなっている。
結果は一様ではない。寿命が伸びた場合もあれば、縮む場合もあったという。どっちだ? まあ、100%効き目のある薬や治療法というものはない。鎮痛薬にしても、効き目が強力とされているロキソニンよりも、大衆薬であるイブプロフェンやアセトアミノフェンのほうが効くという人もいる。私のことだが。
少食が、かならずしも長寿に良い影響を与えるとはかぎらない。しかし、体調を改善したり、仕事の生産性を高めることはあるようだ。例として『できる男は超少食』の著者である船瀬俊介さんの1日を紹介したい
■実践している人の献立
船瀬さんの1日は、朝の3時にはじまる。起きたあと、梅干しをつまみながら番茶を飲むという。漬け物を食事には数えないから、この段階では1日0食。
夜明け前の3時30分から、さっそく仕事をはじめる。書斎にこもって執筆をする。船瀬さんは「作家」であり、200万部のベストセラー『買ってはいけない』の共著者として知られている。いままで90冊以上の本を出版しており、精力的な仕事ぶりがうかがえる。
何度か小休止をはさんで、13時ごろに昼休みをとる。家族とテレビを観るなどしてくつろぐ。奥さんは昼食をとるが、船瀬さんは番茶を飲むだけ。まだ食べない。1日0食。
ふたたび執筆を開始する。午後からは、出版社の編集者との打ち合わせなどもあるという。電話で済ませるので、喫茶店でなにか飲んだり食べたりする必要がない。夕方6時ごろまで書きまくって、船瀬さんは原稿用紙50枚ほどを仕上げるという。
夜の7時。ようやく船瀬さんが飯を食う。ある日の献立は「玄米小豆ごはんと、野菜と豆腐や麸、油揚げを入れた具だくさん味噌汁、なすとほうれん草の味噌油炒め。デザートは自家製豆乳ヨーグルトにフルーツをたっぷり入れて」というものだ。1日1食。
ヘルシーなご馳走って感じで、おいしそう。だが、船瀬さんは食べすぎないよう気をつけており、いつも腹八分目ですませる。そのあと入浴して夜10時には眠ってしまう。ふたたび翌朝3時に目をさます。
■無理せずに生産性を高める
「1日1食」の食生活は、人をえらぶ。スポーツ選手のような激しく体力を消耗する職業人には不向きで、デスクワークに従事している人に向いている。
極論のように見えて、そこへ至るまでの過程はごく常識的なものだ。間食をひかえて、腹八分目をこころがけ、基礎代謝をおさえれば、食べなくてはならない量がへって、健康を維持したまま3食から減らせるかもしれない。
たとえば、3食のうち昼飯を食べなくても体調が良いということになれば、仕事がはかどる。多くの会社員にとって午後は仕事のピークであり、昼食のせいで眠気もピークをむかえる。生産性を高めるという観点からも悪くない健康法ではないだろうか。
ちなみに、船瀬さんは「食べることをガマンしなくていい」と言っている。なぜなら「1日1食」は宗教の教義や戒律ではないからだ。うまくいけば「食べなくてもいいかな」と思える時間が長くなる、いままで食事をしていた時間をつかって好きなことができる、そういうオマケがついてくる。それだけのことだ。
■腹いっぱい食べたいときもある。人間だもの
1日3食に異論をとなえている人たちは、けっして原理主義者ではない。たとえば「肉食は邪食だ」と主張している沖正弘(ヨガ指導者)も、知人たちとの集まりでは焼き肉を口にするという。弟子が問うたところ「食事には、栄養面の他、交流もあるからだ」と答えたそうだ。
ベジタリアンである船瀬さんも肉を食べることがある。ときには1日1食にこだわらず、親友たちとの酒盛りで夜遅くまでたらふく飲み食いを楽しむ。
私はそれらを「生き方の不徹底」とは思わない。むしろ人間味がある。かた苦しいのは長続きしない。健康法も炊飯器もファジィにかぎるのではないだろうか。(文:忌川タツヤ)
【参考文献】
できる男は超少食
著者:船瀬俊介(著)
出版社:主婦の友社
オバマ大統領やマイクロソフト創業者ビル・ゲイツは超少食で知られる。日本でも星野リゾートの星野社長、ジャパネットたかたの髙田社長、ビートたけし、タモリ、福山雅治などは1日1食。スポーツ界でもサッカーの小野伸二は1日1食、横綱白鵬は少食、陸上の為末やジャイアンツ球団は定期的に断食するなど、各界で活躍する人に少食実践者が多く、活力の源=大食、という図式は成り立たないことがわかる。少食にすることで眠っている本来の能力が目覚め、「できる男」に! メタボ解消はもちろん、頭が冴え、体が軽くなり、集中力アップ、短眠でも疲れない。そして、若返って精力絶倫に。さらにボケない、病気にならない、寿命も伸びる。