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2020/8/25 19:00

日本が生き残る道は? 米中が先行する「アフターデジタル」時代との向き合い方

アフターコロナ時代に向けて「アフターデジタル」を再定義

元木:『アフターデジタル』に続き、『アフターデジタル2』が7月に刊行されましたが、これはどういうことが契機になっていますか?

 

藤井:『アフターデジタル』を読まれた方の意見を読んで、誤解されていると感じることがいくつかありました。特に、中国の先進的なビジネスやサービスの事例を多く取り上げたこともあり、「中国を礼賛しているのではないか」というご意見は多くいただきました。私としては礼賛したつもりもないし、日本が中国のようになるべきとは一言も書いていないんですが、明確なビジョンを提示できていないことを顧みて、日本の将来の洞察なども入れて、急いで続編を書いたというわけです。

 


『アフターデジタル2 UXと自由』
藤井保文 / 日経BP
『アフターデジタル』に関する誤解などを解きながら、コロナ禍によって世界でさらに加速するアフターデジタルの最新事例と世界の変化を解説。日本企業が向かうべきビジョンも提示されており、国内で進む変革を知りたい方も必読です。

 

元木:中国や海外のアフターデジタルの事例を拝見しましたが、集めたデータの活用はすごく進んでいますね。

 

藤井:モバイル端末が出て、関連サービスが充実したこともあり、ユーザーの行動データが細かくわかるようになりました。製品を売るだけでよかった時代から、データをもってお客さんにずっと使ってもらう体験提供型時代に、競争原理が変わってきてしまっています。データの有無で提供する価値に大きな差が出てしまいますから、追いつかないと本当に負けてしまう。

 

実際、コロナ禍では、SNSやECでユーザーとの恒常的な接点を作ってこなかった企業は、淘汰される時代になってきています。一例をあげるとすれば「平安保険グループ」という企業は、保険商品を売りながら、ユーザーが病気になったタイミングやどんな病気にかかりやすいか、さらに家族構成やどんなものに興味があるかのデータを集め、医療や娯楽、住宅など、ユーザーにとって必要な商品を欲するタイミングで提供して、業績を伸ばしています。

 

元木:個人のデータを見られるのは嫌だなって日本人も多いですよね。取られる側からするとセキュリティ的な不安もあります。

 

藤井:そもそも中国は土地やデータもすべて国が管理しているので、日本は中国のようにはならないだろうとは思っています。それに、中国でも、小売りの購買データと健康データなどが全部つながっているわけじゃないんですよ。中国の国民も勝手に自分のデータが使われることはひどく嫌がりますから。例えば、大ヒットした顔交換アプリ「ZAO」の、「ユーザーの顔の所有権は自社にあり勝手に使用できる」という規約が問題になり、SNSで大炎上したことがありました。中国でもユーザーが便利だと思っているサービスや、信用している企業以外にはデータの提供をしていないんです。

 

日本では集めたデータを、売り上げアップを目的としたクロスセル・アップセル(客単価を上げるための営業施策)に使ったりプロモーションに活用したり、他の企業に提供してお金を得ることもあります。中国では集めたデータを、いかにユーザーエクスペリエンスや製品づくりに還元するかを大事にしていて、還元するスピードが早いほど競争力になると考えています。「平安保険グループ」のユーザーも、ここ1社だけにしかデータを提供していません。

 

以前、日本企業のデータの使い方について、中国企業の方と話していた時、「その目的はユーザーに不義理だ」と言われました。ユーザーは信用してデータを提供しているわけで、ベネフィットで返さなければ取引関係が成立しない。信用を失えば、結果として企業もサービスも潰れていくので、絶対にやってはいけない、とも言っていました。また中国礼賛ととられるかもしれませんが、日本の「アフターデジタル」を妨げているのは、時代遅れの日本企業の体質にあることも『アフターデジタル2』のメインメッセージになっています。切り替えないと、社会の発展が止まるのではないかと懸念しています。

 

元木:日本の企業でもそれに気が付いて、「アフターデジタル」を意識したビジネスをスタートしているところはありますか?

 

藤井:昨年ぐらいから第2フェーズに入っていますね。先日、知人から「新宿を歩いていたら近くにあるデパートからスマホに通知が来たんだけど、これってOMOなんですか?」と聞かれました。「便利だと思いました?」とその方に尋ねたところ、「単なるキャンペーン告知ですよね」というので「じゃあOMOじゃないですね」と答えました。

 

私たちはビジネスパーソンであると同時に、サービスを利用するユーザーでもあります。大事なのはデータを活用し、ユーザーにとってベネフィットや誠意ある行動をしてくれているかどうかです。通知がきてうれしいと思った方にとってはサービスであり不快に思ったらそうじゃないということで、これはユーザーが判断するしかないことです。

 

AIに人間の仕事を奪われる!? コロナ禍で加速するアフターデジタル

元木:やや話は変わりますが、AIの時代になったら人の仕事が奪われると思ったんですけど、本書を読んだら仕事がどんどん増えると書いてありましたね。

 

藤井:みなさんの生活でも、デジタルだけでは提供できない感動とか信頼が当然あって、それをAIが提供できるようにはしばらくならないだろうし、不可能といっても過言ではないと思います。人が目の前でサーブしてくれる安心感だったり、細かい機微に気づいてくれる思いやりを提供する仕事はなくなりません。

 

この構造は、2018年に話題となった「カスタマーサクセス理論」がわかりやすいですね。この理論では、アフターデジタル後の顧客との接点を“ハイタッチ”“ロータッチ”“テックタッチ”の3つに分けています。ハイタッチは1対1の個別接点、ロータッチは1対複数の接点、テックタッチとは人が介在しない接点です。ハイタッチは感動とか信頼を生むのが得意で、医者とかコンサルタントサービスが挙げられます。ロータッチは楽しみとか心地よさ、学びになるなど心地よさの提供が得意で、イベントやセミナーなどがその代表。AIだけでできる接点はデジタルタッチとなります。

 

例えば今後、健康診断はAIでできるかもしれませんが、病気の方に言葉をかけたり、そばに寄り添うケアリーバーの仕事は逆に増えていくでしょう。アパレルでも、コーディネートはAIでもできますが、別のモノを勧めるといった接客は、人でないとうまくできないと思います。AIとの役割分担が明確になり、細かいプロセスに関する仕事は減っていくかもしれませんが、分野によってより人を必要とする職種もあるので、AIに人の仕事がすべて奪われることはないのです。

↑対談でもテーマとなった「カスタマーサクセス理論」。アフターデジタルでは、3つの階層に分かれたユーザーと接する機会を組み合わせることで、ユーザーの満足度を高め、より深い関係を築き上げていく。これによって、オンラインとつながる日常生活自体も変化していくという理論です

 

元木:例えば「アフターデジタル」で紹介されていた無人コンビニは、未来的であると同時に、人の必要性を感じさせないことに不安も覚えました。

 

藤井:執筆した2018年は、新しいビジネス事例として紹介しましたが、無人にするとどうしても店内が冷たい雰囲気になって人が来なくなるんです。現在、中国で成功している無人コンビニは、完全無人ではなく、必ず人が1人常駐しているものなんですよ。スタッフは来店客に挨拶をしたり顔見知りになったり、買い物の仕方を教えたりしています。人を全部排除すると無機質な倉庫みたいになり、商品の新鮮味も薄れます。人がいると店と縁ができますから、結局ユーザーは完全無人ではない店を選んで通うわけです。ここも続編を書いた動機ですね。

 

あと、データをメインにしたデジタル技術によって管理社会のディストピアになるのではないかという恐怖に対しても、テクノロジーを使った、ディストピアにならない社会の方向性はあることを伝えたかったですね。

 

元木:『アフターデジタル2』の原稿がGoogle ドキュメントで無料公開されていることも、藤井さんらしいと感じました。私は本が好きなので、書籍で拝読しましたが。

 

藤井:世界の変化が速く、執筆時は目新しい事例が出版した時にはすでに古くなっていることも多いので、本自体も更新性や即時性のライブ感がある方がいいなと思って、今回誰でも読めるように公開しました。

 

元木:まさに「アフターデジタル」ですね(笑)。2でも触れられていますが、コロナによって今後のアフターデジタルはどのように変わっていきそうですか?

 

藤井:イデオロギーと社会、2つの側面でとらえています。まずイデオロギーでは、中国、台湾、韓国でコロナの抑え込みがうまくいったことを受け、EUのGDPR(一般データ保護規則)が考え直されようとしています。有事の時の国民の健康状態や居場所は一定一括で管理できた方が、国も国民もいいんじゃないかというもので、今後は個人データをどう使うかが議論されるようになると思いますね。IDを統合し国が管理する動きがもう少しポジティブになるかもしれません。2つめは、社会の変化として、コロナを契機に、ウーバーイーツやZoomといったすでにあったサービスを、みんなが使うようになったことが挙げられます。

 

元木:コロナでアフターデジタル化がより進んだということですね。

 

藤井:人手が余った企業が、人手の足りない企業に人材を提供する、場と人の流動性を高めた共有という方法も新しい流れでしたね。デリバリー予約が簡単にできるプラットフォームがあれば、飲食業など本当に困っている人たちが助けを求めやすくなることもわかってきました。企業としては、課題が噴出する社会に貢献するための準備をすることも重要になるため、アフターデジタルへの社内的な取り組みもまとめやすくなり、舵を切りやすくなっているはず。これをきっかけに変革が進むことを期待しています。

 

元木:ビジネスもガラリと変わっていきそうですね。となりますと、今後の私たちはアフターデジタルとどう向き合っていけばいいですか?

 

藤井:オンラインとオフラインが融合し、今より便利になるし今までよりデジタルの価値もより高まっていきます。不安だとかデジタルはよくわからないと構えるより、自分がいいなとか好きだなとか、便利だなと思うことに敏感でいればいいのだと思います。

 

【プロフィール】

株式会社ビービット 東アジア営業責任者 / 藤井保文

東京大学大学院 情報学環・学際情報学府修士課程修了。2011年ビービット入社。2017年から上海支社に勤務。2019年3月に「アフターデジタル−オフラインのない時代に生き残る」を出版し、世耕元経済産業大臣をはじめ各界著名人からの推薦を頂いている。続編となる「アフターデジタル2 UXと自由」は2020年7月29日の発売直後からシリーズ累計13万部を突破するベストセラーとなっている。

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