書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。
新型コロナを予見したジャーナリストの新刊
グローバル社会になって限られた資源の取り合いがさらに激化しています。食糧はもちろん、レアメタルやレアアースに関する摩擦も記憶に新しいところ。
そんな資源争奪戦の対象に普通の砂も入っているというから驚きです。砂の使い道なんて砂時計か公園の砂場くらいしかぱっと浮かびませんよね。しかも、海岸や砂漠に行けば、それこそ掃いて捨てるほどあるはず。これは妖怪・砂かけばばあにとっても一大事です(笑)。……と、らちもないことを考えながら、新書『砂戦争 知られざる資源争奪戦』を開きました。
著者の石 弘之さんは、環境問題の第一人者として知られるジャーナリスト。2014年刊行の『感染症の世界史』が、「新型コロナウイルスの登場を予言していた」と注目を集め7.7万部を突破。その著者が今度は砂の危機を報告しています。
私たちの生活は砂で成り立っている!
実は、現代では砂は道路や半導体などさまざまなものの材料となっていて、なかでもメジャーな用途はコンクリート。中国で都市化が進んだことにより高層ビルが一気に建ち並び、中国全体での年間消費量は約25億トン近くになっているそうです。
ならば砂漠のある国は大儲け……と思いきや、砂漠の砂はあまりに細かく、塩分も多いためコンクリートには不向きなのだとか。砂漠の真ん中にそびえ立つドバイの世界一高い超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」のコンクリート砂はオーストラリア産。ちなみに、ドバイのメイダン競馬場のダートはドイツ産……。あれだけ砂に囲まれた国なのに、なんとも言えない気持ちになりました。
驚きだらけの本書ですが、なかでも衝撃的だったのが第4章「砂マフィアの暗躍」。違法な砂取引は約70か国に広がり、場合によっては数百人レベルの武装組織が採掘が禁止された川の底から砂を吸い上げているそう。特に砂マフィアの活動が盛んなのがインドで、反対するジャーナリストや取締担当の役人が標的にされ、殺人に発展する例も多いとか。たかが砂とは言っていられない状況です。
日本の砂浜の危機にも触れられていて、砂に関するさまざまな問題が知れる良書。数字のデータも豊富にあげられているので、読んでいて信頼感、納得感があるのも新書として優れています。明日から公園の砂場を見る目もきっと変わりますよ!
【書籍紹介】
砂戦争 知られざる資源争奪戦
著者:石 弘之
発行:KADOKAWA
文明社会を支えるビルや道路、パソコンの半導体などの原料は、実は砂だ。現在、地球規模で都市化が進んでおり、すでに砂の争奪戦が始まっている。にもかかわらず国際的な条約はなく、違法採掘が横行。マフィアが暗躍し、殺人事件まで起きている。人間の果てしない欲望と砂資源の今を、環境問題の第一人者が緊急レポートする。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。