ちょっと考えてみる。自分の特徴ってなんだろう。身長はそれほど高くない。かと言って低くもない。太ってはいないけど、細マッチョでは決してない。見た目が誰かに似ているわけでもない。筆者は、これといった外見的特徴に欠ける人間なのだ。
■自分のキャッチコピーを作る
自信がないというのとはちょっと違うが、見た目だけで伝わるものを持ち合わせていないので、言葉に頼ることになる。たとえば、某有名塾のCMに出てくる〝算数の山田〟的なものは使える。実際、こうしたキャッチコピー感覚を就活に取り入れている学生さんたちも少なくないという。
短い時間で端的に自分というものを表現できる手段があれば、邪魔にはならない。そして、キャッチコピーを作ることは自分を見直し、分析する上でも役立つ。立ち位置を確認することにもつながるだろう。
ただし、わかりやすいコミュニケーションツールとして使うのが目的なので、複雑なのとか小難しいのとか、キラキラしすぎてるのはNG。シンプルなほうが伝わりやすいし、覚えてもらいやすい。
■自分ブランディング
自分のためのキャッチコピーは、自分という人間の〝ブランディング〟にもつながるだろう。小池百合子新都知事も、就任会見でブランディングという言葉を使っていた。辞書的な意味は、グッズやサービスに関する概念を価値あるものと認識されるようにするため、マーケットにおける存在を確立させることだ。
もちろん人間にも当てはまる。自分らしさを最大限まで認識してもらうためのすべてのプロセスと言うこともできるだろう。ブランディングの感覚は一般的な意味合いでのニックネーム、もっと広げるなら有吉弘行さんの〝あだ名術〟も同じジャンルだと思う。
■23センチの差が生み出す異世界
特徴のない筆者と正反対の領域で生きているのが、『190センチの世界』(ブックビヨンド・刊)の著者近藤みかどさん(身長190センチ)。長身あるある話に事欠かない人だ。日本人男性の平均身長167.2センチ(平成26年度国民健康・栄養調査/総務省統計局)より23センチも高いんだから、そりゃあさぞかし別世界だろう。
身長が190センチもあったら、どんなスポーツをしても大きなアドバンテージになるだろうし、どこにいても目立つし、何より誰にでもすぐに覚えてもらえるはず。こうしたことは確かに事実なのだが、決していいことばかりじゃないらしい。いや、背が高い―高すぎると言った方が正しいか―ということは、メリットよりもデメリットの方が多いようだ。
サブタイトルの「待ち合わせは近藤で」のとおり、さまざまなシチュエーションで関係者の〝待ち合わせ場所〟にされるのは、まあいいだろう。でも、日常生活においては近藤さん規格のものはほとんどない。駅のトイレ、映画館、飛行機、そして整体の治療院。必ず何らかの不都合がある。着るものだってバリエーションが全くと言っていいほどないらしい。
海外なら少し事情が変わるかと言えば、それも違う。近藤さんがスイスに行った時のエピソード。あらかじめネットで検索してみると、スイス人の平均身長が178センチであることが発覚した。
そんなある日、公園を歩いていると、ベンチに座ったおばあちゃんが声をかけてきました。フランス語がわからない僕は、「フランス語喋れないんですよ」と説明すると、そのおばあちゃんはジェスチャーで、「あなた、背が高くていいね!」と、嬉しそうに伝えてきたのです。(『190センチの世界』より引用)
このおばあちゃんにとっては、日本人のイメージが根底から覆される出会いだったに違いない。
■高身長をうらやむ心理は浅薄かもしれない
それに、平均的な身長の人と同じことをしているのに、理由もなくキレられることがあるらしい。
僕も理想の身長の人と会うと「身長いくつですか?」と聞かれ「190cmです」と答えたあとに、「いくつですか?」っと尋ねると「いちいち聞かないでください!」とキレられます。(『190センチの世界』より引用)
ちなみに、近藤さんの理想身長は先に紹介したデータの平均身長よりも2センチ低い165センチ、それが無理ならせめて168cm、とにかく170cm以下だそうだ。何も知らないで190センチという数字だけに飛びつく者たちの考え方は、あまりにも浅薄なのかもしれない。
本書の文章は基本的には軽妙なトーンだが、ところどころにシニカルなニュアンスが見え隠れする。
結局、「背が高い」ってかっこよく見えるとか、オシャレな感じがするという〝イメージ〟でしかないんだなぁと。加えてちょっとの興味。(『190センチの世界』より引用)
ごくごく日常的な風景も、23センチ目線が上がると激変するというバーチャル体験を提供してくれる一冊。(文:宇佐和通)
【参考文献】
190センチの世界
著者:近藤みかど
出版社:ブックビヨンド
背が高いって女性にモテるし羨ましいって思っていませんか?でも現実は…勝手に大盛りにされる、腰痛は友達、LCCにはもう乗れない!?など、苦労しているんです。背が高いからこその受難の日々をつづりました。笑って泣いて?楽しんでもらえれば幸いです。