「聖地巡礼」という言葉は誰しも聞いたことがあるのではないだろうか。もともとは、宗教上重要な意味を持つ聖地に赴く行為を指す。イスラム教のメッカ、キリスト教やユダヤ教のエルサレム、仏教の比叡山、高野山、神道の伊勢神宮などが聖地とされている。しかし、最近の聖地巡礼は宗教的なものとは少し違う。
■アニメの舞台を訪れる現代の「聖地巡礼」
ここ数年の「聖地巡礼」は、アニメの舞台となった場所を訪問することを指す。アニメによっては、その舞台となった場所の地名を出している場合もあるし、出していない場合もある。出していない場合でも、モデルとなった建物や場所などがあれば、そこをファンが訪れるのだ。
最近の聖地は、『ガールズアンドパンツァー』の舞台となった茨城県の大洗町、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の舞台となった秩父市、『けいおん!』の舞台となった高校の校舎のモデルである滋賀県の旧豊郷小学校などが有名だろう。
仕事で秩父市に訪れたときに、道の駅や駅前の看板などでアニメ関連のものを見つけると、「ああ、ここが」と思ったものだ(ちなみにそのアニメは見たことがないけれど)。
■探してみると意外な聖地もある
『アニメ探訪 真 聖地巡礼ガイド』(聖地巡礼委員会・著/カンゼン・刊)には、全国の「聖地」がマップ付きで紹介されている。
僕はそれほど多くのアニメを見ているわけではないが、見たことのあるアニメの聖地をこの本から探してみようと思う。
あまり知らなかったのだが、『きんいろモザイク』は千葉県の佐倉市や習志野市が舞台。オープニングでも登場するのは京成本線の実籾駅。ここには友人が住んでいた。実に地味な駅だという印象がある。
『生徒会役員共』は、神奈川県相模原市の相模大野が舞台。駅近くのショッピングセンター「モアーズ」もアニメに登場する。
『氷菓』は岐阜県高山市の飛騨高山、『ひぐらしのなく頃に』は岐阜県大野郡白川村。『たまこまーけっと』は京都府京都市、『中二病でも恋がしたい!』が滋賀県大津市。『たまゆら』が広島県竹原市。少し古いが『ラブひな』が山形県の銀山温泉。
本書には載っていないが、鳥取に訪れたときには『琴浦さん』の看板を数多く見かけた。
■アニメ以前にも「聖地巡礼」はあった
本書を読んでみると、北海道から九州・沖縄まで、聖地がたくさんあることがわかる。そして、その聖地を巡礼するアニメファンも数多くいる。
前述した『ガールズアンドパンツァー』の聖地である大洗町は、町をあげてロケなどに強力。現在でも定期的にガルパン関連のイベントを開催するなど、うまく町おこしに利用している感がある。
「聖地巡礼」は、アニメだけの話ではない。福岡県出身のミュージシャン、甲斐よしひろの実家である床屋にはファンが定期的に訪れていたようだし、尾崎豊の終焉の地となった東京・足立区の民家は「尾崎ハウス」と呼ばれ、ファンが訪れていた(現在は取り壊されている)。
Perfumeの「マカロニ」という曲は、東京都内でロケがされていたが、その場所を丁寧に訪れているファンも多いし、角川映画の「尾道三部作」と言われる『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の舞台となった広島県尾道市は、現在でも聖地巡礼に訪れる人は多い。
イギリスに行ったときに、あのビートルズの「アビーロード」のジャケットと同じ写真を撮ったことがある人もいるのではないだろうか。それも「聖地巡礼」だ。
■「聖地巡礼」はアニメの時間と視点を共有するもの
人はなぜ「聖地巡礼」をするのだろうか。それは、「虚構のなかの現実を見つける」ためではないだろうか。
アニメや映画は、虚構だ。現実を下敷きにしたものといえど、作り物だ。しかし、そのなかにある「リアル」を見つけることで、その虚構が自分たちと地続きであるということを確認したいのではないだろうか。
そして、自分もその虚構のなかの登場人物となり、同じ時間と視点を共有する。「聖地巡礼」にはそんな意味があるのではないだろうか。
最近では、地方を舞台にしたアニメが増えている。そして、その数だけ聖地が増える。聖地が増えれば増えるほど、アニメファンは生きる世界が増える。
「聖地巡礼」は、アニメの世界をより深く知り、より楽しむために必要な儀式なのだろう。もしかしたら、聖地を訪れることでそのアニメの楽しみ方が変わるかもしれない。僕も一度、「聖地巡礼」をしてみようか。(文:三浦一紀)
【参考文献】
アニメ探訪 真 聖地巡礼ガイド
著者:聖地巡礼委員会
出版社:カンゼン
本書はアニメファンが気になる最新アニメ、人気アニメ、名作アニメの「聖地」を一挙に収録! 全国の「聖地」をマップ付きで詳細解説しているだけでなく、取材に基づく食べる・遊ぶ・撮る・泊まるなどの観光情報も随所に掲載しています。「聖地」をめぐるための旅のお供として必須の聖地巡礼本の決定版です! ◆北から南、日本全国各地のアニメ聖地を徹底解説!