近年、日本で話題になっているのが、コンセプトカフェ(コンカフェ)。メイド系を皮切りに、コスプレ系、ナース系、男装系などさまざまなバリエーションがあり、女性向けのコンカフェも人気です。そしてこうした形態は、実は戦前の日本にもあったのです。
コンカフェという営業形態
筆者も女性向けコンカフェに何度も足を踏み入れたことがあるひとりです。江戸時代や学園など、統一された世界観の中、制服を身にまとったスタイルのいい男性スタッフが料理を運んできてくれるお店の楽しさは、彼らと会話を交わすことができるところ。
ホストクラブと大きく違うのは、席について接客はしないということと、指名料がないということ。また、メニューもオムライスやジュースなど、見かけも値段も可愛いものがほとんどなので、気軽に訪れることができます。
カフェと女給
『カフェと日本人』(高井尚之・著/講談社・刊)によると、明治のころから若い女性スタッフが飲み物を運んでくることを売りにしていた店があり、それを目当てに通う男性客もいたそうです。そこで働く女性は「女給」と呼ばれていました。
有名なのは大正時代に銀座にあった「カフェー・ライオン」や「カフェー・タイガー」などです。和服に白いエプロンを付けた女性たちのお給仕が話題になり、永井荷風ら文人も多く通っていたことでも知られています。
昭和初期には新宿にもカフェが出来、「容姿端麗なウェイトレスを揃えて学生に人気の店もあった」と書かれています。お目当ての女性と少しでもやり取りしたくて足繁く通う男性の気持ちは、コンカフェのスタッフとお話をしたい令和の客と通じるところがある気がします。
人気投票を行う店も
本書には、銀座の「カフェー・タイガー」の営業形態について詳しく書かれていますが、それがどこかで見たようなもので、驚きました。女給を赤組・紫組・青組の3チームに分け、チームごとに売上を競わせていたというのです。そして女給の人気投票があり、その投票券はビールを1瓶飲むと得ることができたのだとか。
なんと作家の菊池寛もひいきの女給のために「150票を投じて、見事タイガーのナンバーワンにした」のだとか。現代のお金の価値に換算すると13万5000円になるそうです。このチーム制にして人気投票を行うというやり方は、現代のアイドル商法とそっくりです。
色分けの商法
面白いのは、この時代にも色分けがされていたことです。現代のアイドルや地下アイドルも、ひとりひとりにテーマカラーが設定されていることが多く、ファンは自分が応援するタレントのカラーをペンライトで灯して振っています(今どきのペンライトは何色も切り替えることができてとても便利なのです)。
また、ビール1瓶で投票券1枚というのも、CD1枚買うと投票券1枚が得られるという今どきのアイドル総選挙のシステムと良く似ています。ただし、この総選挙、本家とも言われるAKB48では2018年を最後に行われなくなりました。10年連続で行い、一区切りついたと言うのが理由とのことです。
アイドルとカフェ
人気投票があったということですから、大正時代のカフェは、会いに行けるアイドルに近い感覚があったのかもしれません。現代のコンカフェはどうかというと、カフェスタッフがライブを行ったり、一緒にチェキを撮影してくれるお店もあるので、やはりアイドル的な部分があると感じます。
近年、AKB48は、配信のポイントで選抜メンバーを決める「SHOWROOM選抜」を導入しています。アイドルもネットでの発信力が必要な状況になったようです。未来のカフェも、ネットと絡んでいく可能性はあるのでしょうか。アニメ風の絵柄のヴァーチャル店員さんが登場する日も、近いのかもしれません。
【書籍紹介】
カフェと日本人
著者:高井尚之
発行:講談社
“日本初”の喫茶店から、欲望に応えてきた「特殊喫茶」、スタバ、いま話題の「サードウェーブ」までの変遷をたどった、日本のカフェ文化論。