日本には47の都道府県が存在するのは誰でも知っていることだろう。そして、その各県に公式マスコットキャラクターがいるのも、なんとなく知っているのではないだろうか。
有名なところでは、千葉県のチーバくん、奈良県のせんとくん、鳥取県のトリピー、熊本県のくまモンなどがいる。ちなみに、千葉県のふなっしーは非公式キャラクターなのでご注意を。
埼玉県の公式キャラクターは?
埼玉県の公式キャラクターは「コバトン」(もうひとり「さいたまっち」もいるが今回は割愛させていただく)。埼玉県の県鳥かつ越谷市の市の鳥である、シラコバトがモチーフとなっている。
実はこのシラコバト、結構貴重な鳩なのだ。なんせ、天然記念物に指定されているくらいだ。
ほぼ埼玉県にしかいないシラコバト
『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(柴田 佳秀・著/山と溪谷社・刊)によれば、シラコバトは以下のような鳩だ。
シラコバトは、尾羽が長くすらっとしたスタイルのエレガントなハトで、ドバトよりも一回りは小さく見える。
(『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』より引用)
実際に画像を見てみると、いわゆるその辺で見る鳩(ドバト)に比べると淡いクリーム色でスリムな印象。エレガントさは確かにあるなぁという感じだ。
実はこのシラコバト、日本では埼玉県を中心とした関東のごく一部にしか生息していない。しかも第二次世界大戦後の乱獲が原因で、絶滅寸前となったことで1956年に国の天然記念物に指定されている。結構希少な鳩なのだ。
江戸時代にやってきた外来種
国の天然記念物という希少な鳩なのだが、実は日本固有の種ではなく、外来種。元々はインド、ミャンマー、中国西部に分布している。では、なぜ日本にやってきたのだろうか。
じつはシラコバト、江戸時代に人為的に放されたという説が有力である。(中略)江戸時代にシラコバトを放した一番の目的は、鷹狩り用の獲物といわれている。
(『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』より引用)
江戸時代は鷹狩りがブームで、徳川将軍家や紀伊徳川家の御猟場が埼玉県東部から千葉県にかけてあった。そこに輸入したシラコバトを放したため、関東のごく一部にしか生息していないのだろう。
江戸時代は将軍家に寵愛されていたシラコバトだが、明治時代になると庶民にも狩猟が解禁され、シラコバトが乱獲されたため、その生息数は激減。1948年には60羽まで減った。そこで国の天然記念物に指定されたという経緯がある。
外来種だけど天然記念物
外来種は、基本的には日本の生態系を崩すために駆除対象であったりするが、なぜシラコバトは天然記念物に指定されたのだろうか。
天然記念物の指定基準には、「家畜以外の動物で海外より我が国に移植され現時野生の状態にある著名なもの」というのがあり、まさにシラコバトはその要件を満たしているのである。
(『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』より引用)
つまり、当時は外国の珍しい生きものが日本に定着したので大事にしようという風潮があったのだ。そのおかげで1982年には推定1万羽まで増え、2002年にはJRの駅構内に7つも巣が確認できるくらいになっていた。しかし、2019年にはたった38羽まで減ってしまった。
コバトンはシラコバトの未来を背負っている(?)
その原因は鳥インフルエンザ。シラコバトは養鶏場のニワトリの飼料を主な餌としていたのだが、鳥インフルエンザの流行で鶏舎を完全に外界からブロックしたために、シラコバトが餌を充分に採れなくなったのだ。そのほか、鶏舎の地方への移転や、天敵であるオオタカが市街地で増えたことも要因とされている。
もしかしたら、コバトンは日本で最後のシラコバトになる可能性もある。そう考えるとコバトンを大事にしなければならない。日本におけるシラコバトの象徴として、末永く頑張っていただきたい。
ちなみに、シラコバトはヨーロッパや北米にもいるので、地球上から今すぐ絶滅するということはなさそうなのでご安心を。
【書籍紹介】
となりのハト 身近な生きものの知られざる世界
著者:柴田佳秀
発行:山と溪谷社
ハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった、身近な生きものの世界を見る目が変わる一冊! 馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。そんなハトには、知られざる驚きの能力と、人との深いつながりがあった。