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2023/3/21 21:00

嘘と本当の狭間にあるリアリティ。『川口浩探検シリーズ』の真実に迫る『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』

1970年代後半から1980年代にかけて、テレビ朝日で放送されていた『川口浩探検シリーズ』という番組を知っているだろうか。おそらく、現在40代後半からそれ以上の年代の人ならば、知っていることだろう。

 

タイトルだけでワクワクする探検番組

『川口浩探検シリーズ』は、テレビ朝日が1976年から放送を開始した『水曜スペシャル』という90分枠の番組で放送されていたうちの、番組のひとつ。俳優の川口浩を隊長とし、世界中の謎の巨大生物や未知の動物を追うという内容だ。

 

当時の少年たちは、この番組に釘付けだった。かくいう僕もその一人。なんせタイトルがいい。

 

■ルソン島奥地の秘境に首狩り族は実在した!! 無数の頭蓋骨が語る今なお残る恐怖の奇習!・現地完全VTR取材

■恐怖! 双頭の巨大怪獣ゴーグ! 南部タイ秘境に蛇島カウングの魔神は実在した!!

■謎の原始猿人バーゴンは実在した! パラワン島奥地絶壁洞穴に黒い野人を追え!

■恐怖の巨大怪鳥ギャロン! ギアナ奥地落差1000メートルの大滝ツボ洞穴に原始怪獣を追え!

 

どうだろうか。タイトルだけでもうワクワク感が止まらない。

 

この『川口浩探検シリーズ』。秘境を探検するドキュメンタリー風な番組だが、ツッコミどころが満載のいわば「ドキュメンタリー風バラエティ」。ただ、当時はテレビの影響力が強く、すべて本当の出来事だと思って見ていた視聴者も多い。

 

よく考えてみると、未知の生物が番組内で確認されたのに、どのメディアも取り上げない時点でお察しなのだが。でも、当時のキッズたちはテレビにかぶりついて見ていた。

 

『川口浩探検隊』を探検する

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(プチ鹿島・著/双葉社・刊)は、『川口浩探検シリーズ』が大好きという著者が、当時の関係者などに取材をして、『川口浩探検シリーズ』とは実際にはどんな風に作られていたのか、そして現在のテレビ番組にどんな影響を与えたのかを“探検”する内容となっている。

 

リアルタイムで番組を見ていた僕としては、懐かしいという思いとともに、当時の「おもしろければ何やってもいい」という、ある意味自由なテレビ業界のことを思い出し、懐かしい気持ちになった。

 

当時のプロデューサーにたどり着くことはできなかったが、当時の探検隊員(ADやディレクター)への取材では、興味深い話が続出。それぞれの立場で『川口浩探検シリーズ』を語っていて、当時のテレビマンたちの様子がよくわかる。僕が子どものころに思っていたテレビ業界そのものだった。

 

途中、当時マスコミを賑わせたテレビ朝日のやらせ問題やロス疑惑などの調査も行いつつ、最終的には、当時の構成作家への取材に成功。当時と現在のテレビ業界の違いなどもわかり、たいへん興味深い内容となっている。

 

視聴率なんて関係ない。面白さの探求がすべて

『川口浩探検シリーズ』は、ドキュメンタリーでもノンフィクションでもなく、あくまでもバラエティ番組というのが制作スタッフ側の共通認識だ。双頭の蛇なんていないし、15mもの巨大な身体を持つ未知の水棲生物もいない。でも、それを存在するように見せるエンターテインメントなのだ。

 

簡単に言えば「演出」「ヤラセ」なのだが、制作者側としては、視聴率が欲しいから過剰な演出に走ったりしていたわけではないという。とある当時のスタッフの証言がある。

 

現場はどんどん面白くなっちゃうんですよ。視聴率に関係なく、もっと何かできないかって探求してしまうんです。ある意味視野が狭くなっているんだけど、現場は夢中になってしまうんだよね。だってヘビに足を付けてるときに数字のことなんか考えてませんよ。このアイデアがあったか! っていう盛り上がりしかない」

(『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』より引用)

 

これは、メディア側の人間としては同意できる。コンテンツを作っていくうちに、「もっともっと」というハイな状態なり、いろいろやってみたくなってしまうものなのだ。それがギュッと凝縮されたものが『川口浩探検隊』なのだろう。

 

『川口浩探検シリーズ』と「プロレス」の類似性

『川口浩探検シリーズ』は、出来上がった番組を見ると大げさなエンターテイメントなのだが、その裏側は壮絶だったようだ。ホンモノの毒蛇を大量に用意したり、行くまでに2週間もかかる秘境に趣いたり、断崖絶壁をロープ1本で降りたりといった裏側は、それだけでドキュメンタリー作品になるレベルのものだ。

 

しかし、あくまでもエンターテイメント番組、バラエティ番組という意識で作られていたため、そういうシーンはほとんど使われていない。これは、プロレスと構造が似ている。

 

プロレスも真剣勝負かエンターテイメントかの論争がしばしば巻き起こっている(最近ではエンターテイメントであると認知されている)が、その裏側では、やはりレスラーたちはしっかりトレーニングを積んでいる。一歩間違えば試合中に死に至ってしまうこともある。

 

つまり、我々は完成形だけを見てあーだこーだと言っているわけだが、それを作り上げている人たちには、すべてがドキュメンタリー。「ヤラセ」だろうが「演出」だろうが、それを作っている側の想いは、「最高のものを作る」という一点なのだ。

 

さすがに報道番組で「ヤラセ」は御法度だが、エンターテイメントの範疇で行われるものは、ある程度は許されるべき。そして、その部分を楽しめるくらいの心の広さは持ち合わせておきたい。

 

【書籍紹介】

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実

著者:プチ鹿島
発行:双葉社

70年代後半から80年代にかけ、世界を股にかけ未知の生物や未踏の秘境を求めたテレビ番組『川口浩探検隊シリーズ』。ヤラセだとのそしりを受け、一笑に付されてきた探検隊の「真実」を捜し求める冒険譚。ヤラセとは何か、演出とは何か。テレビの本質とは、何か。

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