本・書籍
2023/8/11 10:30

「ギターウルフ」も「タクシードライバー」も「ジョーカー」もみんな“オルタナ”!芸人・永野さんの人生論が詰まった一冊

青いシャツを着て奇妙な動きをしながら「ラッセンが好き〜♪」と歌うネタで一世を風靡した芸人・永野さん。個人的に、永野さんの思考が大好きでラジオやYouTubeをよく拝見しているのですが、『オルタナティブ』(永野・著/リットーミュージック・刊)も最高でした……!

 

2021年にも『僕はロックなんか聴いてきた』という、自身の青春時代である90年代のロック愛を語る一冊が発売されています。今回の『オルタナティブ』では、音楽だけでなく、永野さんの半生を支えてきた映画や人物も紹介しながら自身の「オルタナティブ論」を語る内容になっています。90年代のロックが好きな方、ちょっとマニアックな映画が好きな方、また「なんで俺だけキツい人生歩まないといけないんだ」「俺の気持ちは誰も理解できない」そんな葛藤を抱えている人には涙ものの内容になっていますよ!

オルタナティブとは?

一般的に「オルタナティブ」とは、主流に変わる考え方や代替案などの意味がある経済用語。今回、永野さんの語るオルタナティブとはどんな意味として使われているのでしょうか? 「はじめに」には、こんなことが書かれてあります。

 

90年代に自分がのめり込んだ音楽はオルタナティブロックと呼ばれ珍しがられていましたが、自分は外道こそが世界に彩りを与えていると信じていました。しかし今の世の中、そんな魅力ある外道はすっかり姿を消しました。一世を風靡したオルタナティブロックという言葉すら今の若者は知らないでしょう。

こんな今だからこそ自分の半生を振り返り、自分が愛おしいと感じた、グッとくる人や作品たちを集めてそれらを「オルタナティブ」と呼ばせてもらうことにしようと前回同様チームを組んだ有能な編集者に力説されまして、今回もタイトルは編集者のセンスにお任せしました。

(『オルタナティブ』より引用)

 

これを読んでハッとしました。最近、本来の意味でのオタクやサブカル人種がいなくなってしまった現象と似ているな……と。以前は「そんな趣味なの!?」と驚かれていたことが、「あっ、聞いたことある!」と受け入れられる世の中になっていますよね。これが多様性なのかな……とも感じますが、一方で「自分だけが知っている優越感」みたいなものは年々減っているように思いました。

 

「共感」がオルタナを消した?

『オルタナティブ』では、永野さんが好きなカルチャーを振り返りながら、永野さんの思うオルタナを伝えてくれています。例えば、バンドのギターウルフはオルタナだとか、映画『稲村ジェーン』や『タクシードライバー』もオルタナで、映画『バットマン』シリーズに登場するジョーカーもオルタナ。さらにラッパーのD.Oや50セントもオルタナとして登場します。共通項は、ぜひ本書でお確かめください(笑)。読み終わるころには社会の「オルタナ」を見つけやすくなりますから!

 

さまざまな視点から「オルタナティブ」を語っていくのですが、個人的に一番刺さったオルタナ論はこれでした。

 

今はみんなが共感を求めるじゃないですか。「理解してよ!」「理解しなきゃ!」のオンパレード。自分は昔の「別にわかんなくてもいい、そのかわり勝手にやりますよ」って雰囲気が好きでした。オルタナでした。

(『オルタナティブ』より引用)

 

そう! そうなんですよ!! この背景には、インターネットやSNSの登場も大きいかもしれませんが、昨今は“みんな”で共感する文化が昔より濃くなりましたよね。そりゃオルタナも生まれにくいわ……と納得した次第です。時代は繰り返すので、今後どんなオルタナが出てくるか期待したいところですが、現状ではなかなか出にくい時代なのだろうなと思いました。

 

文章に滲みでる永野さんの人柄が最高!

永野さんは2015年ごろ、テレビでのラッセンネタが流行りましたよね。もちろん、そのころも拝見していましたが、個人的に好きになったのは2022年6〜7月に放送されていた『デドコロ』というラジオ番組でした。ラッセンのネタは知っていましたが、ラジオで話す永野さんが言い方はアレですが、教祖様のように感じてしまい(笑)、なんでこんなに私の心のツボをついてくるの!? と毎週楽しみに聞くようになったのです。

 

『オルタナティブ』にも、ラジオで語るような永野さんらしい言葉がたくさん紡がれています。最後に、これぞ永野さんな一文を紹介させてください! さまざまな音楽や映画は、経済的にも心にも余裕があるほうがいいものって作れるよね、という話をしている「実は成功してからのアルバムだって面白い」の中の文章です。

 

表現としてのそういう余裕は好きな一方で、人としては苦手な奴が多いです。遊んでいる大学生とか、良い大学出ましたとか、ボンボンとか、そういう奴は大抵舐めた顔して接してきます。逆に輩の人たちの接し方で嫌な気持ちになったことはありません。それは輩の人たちは縦社会を生きて、高学歴系は横の繋がりで生きているからだと思います。

(『オルタナティブ』より引用)

 

この後にも文章は続くのですが、表現的に掲載が難しいと思ったので割愛しました(笑)。ぜひ本書でお楽しみください!

 

『オルタナティブ』はある種、踏み絵のような一冊かもしれません。永野さんの「オルタナ論」に共感できる人、まったく理解できない人と分かれる可能性があるな〜と感じたからです。個人的には、オルタナこそかっこよさだ! と思っていたのでウルウルしながら読んでしまったのですが、「いやいや、みんな一緒がいいじゃん」「みんなで面白いことしようよ」と思っている人にとっては、理解できなくて突き放すだろうな……と。

 

そう思うと、この『オルタナティブ』こそめちゃくちゃオルタナな一冊なのだと思うのです。なぞなぞみたいになってしまいましたが(笑)、共感が多い時代に一石を投じてくれた『オルタナティブ』、気になる方はぜひ読んでみてくださいね!

 

【書籍紹介】

オルタナティブ

著者:永野
発行:リットーミュージック

亜流すぎる芸人・永野が世に放つ“オルタナティブ論”。落ちこぼれ芸人・永野に寄り添った人、音楽、映画たち。

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