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2025/2/5 19:00

ポイント還元率は楽天ペイ有利! それでも「生き残るのはPayPay」と専門家が語る意外な理由

クレジットカード・キャッシュレス決済に関する疑問や悩みを“クレカの鉄人”岩田昭男師範がズバッと解決する連載企画。今回はQRコード決済の“二大巨頭”でありつつ、現在変革のときを迎えているPayPay、楽天ペイの最新事情を紹介します。

 

【第25回】PayPayと楽天ペイの最新動向が知りたい!

 

【解説する人】岩田 昭男

クレジットカード・キャッシュレス決済分野のオピニオンリーダーとして、30年以上取材・研究に携わる。『あなたの生活をランクアップさせる プレミアムカード』(900円/マイナビムック)など著書・監修書多数。

 

【今月の悩める子羊】北平悠佐(きたひら ゆうざ)

妻と息子と暮らす35歳会社員。QRコード決済はもっぱらPayPayで、他社カードから引き落としで利用している。以前よりPayPayカード以外のクレジットカードによる決済ができなくなると聞き焦っていたが、2025年夏まではいまのまま使えるようになりひと安心。だが、今回の騒動を見るにつけ、いよいよPayPayカードを持つべきか、自分の周辺でも評判のいい楽天ペイに乗り換えるべきか悩んでいる。PayPayと楽天ペイの現況を知るべく、道場を訪れた。

 

(相談者の要望)

〇PayPayと楽天ペイの最新の状況を教えてほしい

〇それぞれ利用しやすいシーンも知りたい

〇実際どっちがおトクなのか教えてほしい

 

他社発行クレカのPayPayでの利用停止は夏まで延期! 今後の展開はいまだ不透明

師範 PayPayの現状について知りたいというのはおぬしか。

 

北平 はい。私はこれまでPayPayをずっと三井住友カードからの引き落としで使ってきたんですが、一昨年5月に「PayPayカード以外のクレカが使えなくなる」と聞いて焦りました。幸い、その措置は今年1月まで延期。さらに今夏までの再延期が決まったとニュースで見たんですが、最終的にPayPayカード以外は使えなくなるのかと心配で。

 

師範 ふむ、確かに昨年12月に出されたリリースには「他社発行カードを引き続き利用できるための新しい利用方式を検討中」「それまで、いまの利用方式を継続する」とある。

↑2024年12月に発表されたPayPayのお知らせ「2025年以降の他社クレジットカードの利用について」で、2025年夏以降に他社クレジットカードの新たな決済方法が検討されていることが告知された

 

ただ、気になるのは「VisaやMastercardとの協議次第で利用料を取る可能性がある」と書かれていること。現在、それら国際ブランドの手数料が決済システム利用料を上回っている、つまり赤字状態ということらしい。

 

北平 うーん、国際ブランドの手数料がネックというのはなかなか大変ですねえ。PayPayはいろいろな店で使えて便利なので、これまで使ってきましたが、でもさすがに利用料を取られるとなると、ちょっと考えちゃうなあ。

 

師範 じゃが、そもそもPayPayカードを使えば手数料が無料どころかポイントもつくぞ。おぬし、何でそうしないんじゃ?

 

北平 クレジットカードを何枚も持つのがどうもイヤで。PayPayカードが年会費無料なのはわかってるんですが……。

 

師範 ふむ、そういうユーザーも確かに多いな。それなら、銀行口座からのチャージという手もある。もしくは、手間はかかるがセブン銀行やローソン銀行のATMなどで現金を残高にチャージするか、他のコード決済に乗り換えるか。

 

北平 他のコード決済だと楽天ペイが私の周りでけっこう評判が良いですね。ポイントがよく貯まると聞くので。どうせ乗り換えるなら、トクできるほうがいいですから。

 

師範 楽天ペイは、以前は楽天カードからチャージする際に0.5%のポイントが付いていたが、昨年6月からそれが廃止。代わりにチャージ残高からの支払い時に付与されるポイント還元率が最大1%から最大1.5%(※1)にアップした。

↑※1:楽天キャッシュでのコード・QR払いが対象。内訳は、チャージ残高(楽天キャッシュ)での支払い時に楽天ペイから1%還元、楽天キャッシュから0.5%還元、合計で1.5%還元となる

 

このポイント付与は楽天カードからのチャージ払いに限らずすべてのチャージ払いに適用されるため、楽天カードユーザー以外には大きな朗報じゃったな。また、楽天ペイは楽天カード紐づけによる支払い、楽天銀行口座からの引き落としによる支払いでも最大1%のポイントが付く。これはPayPayの基本ポイント還元率0.5%と比べると、かなり魅力的と言える。

 

北平 PayPayは最大2%還元になりますけど、それには「PayPayカード ゴールドでの支払い」かつ「前月30回以上(200円以上の支払い)」「前月合計10万円以上」の支払いと、条件がやや厳しいですもんね。

 

師範 その代わりPayPayは「あなたのまち応援プロジェクト」など、全国の地方自治体と提携したポイント還元キャンペーンを精力的に行っとる。例えば、1月は熊本県山都町でキャンペーンが行われ、同町の指定店舗での買い物にPayPayを使うと最大20%相当のポイントを付与。ほかにも当たると最大で支払額全額が戻ってくる「PayPayスクラッチくじ」など様々なキャンペーンを展開するのがPayPayの特徴と言えるな。

 

北平 そういえば昨年12月に東京都と行った最大10%のポイント還元キャンペーンは利用が多すぎて予定の3日前に終了しましたね。

 

師範 あのキャンペーンは楽天ペイも参加していたがな。

 

独自経済圏確立に邁進するPayPay、幅広いユーザーに門戸を開放した楽天ペイ

北平 PayPayが「ユーザーにはPayPayカードを持ってほしい」という姿勢を見せているのに対して、楽天ペイが楽天カードユーザー以外にも門戸を開いているのは対照的に見えます。

 

師範 PayPayに関しては、LLINE Payのサービスが4月に終了するなど、グループ内の事業を整理し、ユーザーを囲い込もうとしているのが見て取れる。その先にあるのは強固な「PayPay経済圏」の確立で、利用できるネットショップを増やしたり、通信障害時でも使えるオフライン決済機能を追加したり、使い勝手の改善に精力的じゃ。これに対し、楽天も楽天ペイ、楽天ポイントカード、楽天Edyをアプリ統合。楽天カードアプリの主要機能も楽天ペイアプリに搭載し、今後は楽天証券や楽天銀行など「楽天経済圏」の様々なサービスがひとつのアプリ上で利用できるようになる。いわば「幅広いユーザーに門戸を開きつつ、『楽天経済圏』のより深い利用も促す」のが楽天の戦略じゃな。ちなみに楽天は楽天ブラックカード、楽天プレミアムカード、楽天ゴールドカードの会員を対象に、カード利用額の引き落としを楽天銀行に設定するとボーナス金利を最大年0.18%付与するなどの特別プログラムを提供開始。これは楽天の上級カードユーザーにとっては大きな魅力となるぞ。

 

楽天ペイは中〜小規模のチェーン店、PayPayは個人商店の加盟店が充実

北平 ところで街中でQRコード決済が使える店って、楽天ペイよりPayPayのほうが多い印象ですね。最近は楽天ペイが使える店も増えてる気がしますけど。

 

師範 単純比較はできんが最新のデータを見てみると、楽天ペイの加盟店数は2024年6月時点で920万か所(「楽天ペイ」「楽天Edy」「楽天ポイントカード」の利用可能箇所合計数)以上、PayPayは2023年3月時点で1000万か所以上(PayPayカードでの利用可能箇所も含む)。楽天ペイは加盟店に中~小規模のチェーン店を多く抱える一方、個人商店の開拓にはどうも消極的に見える。それに対し、PayPayは商店街の個人商店にも積極的に営業をかけて草の根で加盟店を増やしてきた。また、ネット通販への対応を見ても、PayPayがYahoo!ショッピングのほかAmazonで使えるのに対し、楽天ペイは楽天市場では使えるがAmazonでは使えないといった違いがあるな。

 

北平 PayPayが個人商店にも普及した理由はなんなんですか?

 

師範 一番大きかったのは決済手数料じゃ。PayPayでの売り上げに対して加盟店が払う手数料は当初無料に設定され、それでこれまでキャッシュレス決済を導入できなかった小規模経営の店もPayPayを導入することができた。現在は決済手数料が有料化され、1.60%または1.98%になっとる。これに対し、楽天ペイの決済手数料は基本的に3.24%。2021年~2022年に無料だった時期があるが、いまは有料に戻っとる。つい最近、楽天は中小事業者を対象に楽天ペイとクレジットカードの決済手数料を2.20%に引き下げるプランを提供し始めたが、それでもPayPayのほうが割安。これが、街の個人商店にもPayPayが普及した最大の理由じゃ。

 

北平 私がよく利用する店や食堂もPayPayしか使えないところがけっこうあります。なので、PayPayはやはり使い続けたい。

 

師範 クレジットカードを1枚に絞るならよく利用する店舗基準で選ぶのをオススメしたいが、そうでなければPayPayと楽天ペイの二刀流、さらに言えばPayPayカードと楽天カードの2枚持ちで使い分けるのもアリじゃろう。

 

北平 楽天ペイはこれまで使ってなかったんですが、楽天カード会員でなくてもチャージ払いなら1.5%ポイント還元を受けられるのはスゴい。師範が言われるPayPayと楽天ペイの二刀流もそれほどハードルは高くないみたいだし、チャレンジしてみたいと思います。

 

現金派に寄り添うサービスで勝ち上がってきたPayPayは今後も業界をサバイブする!

北平 それにしても、PayPayってQRコード決済シェアトップである一方で、他社のクレカが今後も使えるのか不確定だったりと、今後の展望が少しだけ心配なんですが。

 

師範 確かにPayPay内では他社カードへの対応はずっと問題になっとる。じゃがワシが見るに、PayPayの真骨頂は現金派ユーザーの囲い込み。その意味ではかなり上手くやっとると思うぞ。PayPayはこれまで、Yahoo! JAPANカード〜PayPayカード以外のカードに対し、ポイント二重取りなど他のQRコード決済がやっているクレジットカード優遇を一貫して行なってこなかった。PayPayはまさに現金(現金払い)に寄り添うサービスで、そこがクレカを持たない層に受けたわけじゃ。「PayPayクレジット」などはVISAやMastercardが思いもよらなかった決済方法。また、オンライン決済のみならず、スマホがオフラインの状況下でも決済できるようにする発想もクレジットカード会社にはなかったはず。「キャッシュレス化が正義」と言われる昨今じゃが、個人的にはワシは「最後はキャッシュ(現金)」だと思っとる。

 

北平 えーーッ!! キャッシュレス決済専門家の岩田師範が。マジですか!?

 

師範 というか、キャッシュレスの世の中であっても「現金との関係をどういうふうに保つか」が大事ということじゃ。その意味では世の中が変わっても、PayPayは生き残っていくと思う。一方、楽天は元々クレジットカードありき。楽天市場と楽天カードの組み合わせを武器に、一大経済圏を築いてきた。それだけに「現金に寄り添うPayPay」の躍進はショックだったはず。楽天が楽天ペイを中心に経済システムの再構築を進めているのはまさしくPayPayの影響が大きいと思うぞ。

 

北平 おお、なんだか壮大な話になってきましたね。

 

師範 楽天グループはここ数年ずっと「楽天モバイル問題」に苦慮してきたが、モバイル事業に長年注力を続けており、モバイル事業のアクティブユーザーも楽天グループサービスにさらなる流入と商業価値をもたらした。楽天カードとみずほ銀行との業務提携も発表されたし、ここから楽天の反転攻勢が始まりそう。いずれにせよ、PayPayと楽天ペイがお互いをライバル視し、切磋琢磨している間はお互い成長していくじゃろうな。逆にどちらかが決定打を出して「これで勝ったな!」となったら、その時点で成長は終わりとなるのかもしれん。

 

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構成/佐伯尚子 文/平島憲一郎 監修/岩田昭男