五反田スタートアップ第7回「ダブルエル」
コミック「北斗の拳」に登場する南斗六聖拳の使い手「サウザー」が、リラクゼーションチェーン店「りらくる」をやたらPRしてくる――そんなイラストをWeb上で見かけたことのある人もいるかもしれない。
五反田スタートアップ第7回目はその仕掛け人でもあるダブルエル 代表取締役 保手濱彰人氏に、“グローバルライツマネジメント”という事業内容について、またその裏側や五反田への想いについてうかがった。
長年築いてきた信頼関係がものをいう事業
――:まず、御社の事業内容について教えていただけますでしょうか?
保手濱彰人氏(以下 保手濱):簡単にいってしまえば、総合コンテンツプロデュース、グローバルライツマネジメント事業ですね。
――:グローバルライツマネジメント……。
保手濱:世の中に出たコンテンツ、わかりやすくいえばキャラクターや物語などにはどんなものにも著作権、つまりライツがあります。ほかの人が勝手に改変したり使ったりできません。ぼくたちは、日本の著名な漫画家さんからコンテンツのライツを預かり、より発展的にプロデュースできるよう整えています。 たとえば海外に持っていってその国の言葉に翻訳したり、アニメ化したり、映画化したり、あるいは国内であれば新しい形に作り直したり、企業とコラボしたり、といった感じですね。
――:「クールジャパン戦略」が掲げられて久しいですが、日本の優れたコンテンツを海外展開しよう、ということでしょうか?
保手濱:そのお手伝いをしている、ということですね。
――:「北斗の拳」のキャラクターが、リラクゼーション店の紹介をしているような画像をWeb上で見かけたことがあったのですが、そういうようなものと思って間違いないでしょうか?
保手濱:まさにそれですね。2016年に「株式会社りらくる」さまの500店舗達成を記念して、そのキャンペーンに、Webコミックぜにょんにて連載中の作品「北斗の拳 イチゴ味」(版権管理窓口ノース・スターズ・ピクチャーズ)をご利用頂きました。秘孔をつく北斗の拳のキャラクターともみほぐしは、効果こそ逆ですが相性いいですし。
また、「まじかる☆タルるートくん」のコンテンツをVR化してグローバルに配給するという計画も進んでいます。 ほかにも、海外でいえば、中華圏のCNNともいわれる香港フェニックステレビと組んで、世界的に有名な日本の某クリエイターの作品をアニメ化したりゲーム化したりして世界的に配信するという事業が進展中です。
――:いわゆる「知的財産」を取り扱う業界への新規参入は難しいと思うのですが、起業のきっかけや参入にあたっての舞台裏について教えていただけますか?
保手濱:ぼく自身がマンガの大ファンだというところが大きいですね。ところが、せっかくおもしろい原作でも実写映画化される際、イメージに合わないため台なしになっていると感じることが多々ありました。 それなら自分たちでIP(知的財産権)を取り扱えばいいのでは? と思い立ったんです。幸い、日本で初めて電子書籍サービスを立ち上げた人と出会え、その息子さんと僕のやりたいことが合致し、ビジネスを立ち上げることができたんです。
実は、大学時代にすでに起業しており、その後もいくつかのビジネスを立ち上げるという経験をしていました。やりたいことを形にする方法を知っているというのはこの事業をはじめるうえでも強みになりましたね。 確かに、新規参入が難しいといわれてはいますし、ぼくだけではなし得なかったかもしれません。でも、著名な漫画家さんたちと10年以上の信頼関係を築いてきた人物がメンバーにいる、それが大きかった。おかげで、原作者とじかにやり取りができ、このようにIPを取り扱わせてもらえるようになったんです。
――:では特に起業時の苦労はなかったんでしょうか?
保手濱:苦労という苦労はないですね。前述のとおり、ぼくはいくつかの起業を経験しており、資金調達の面などではある意味“手慣れて”いましたし。 強いていえば、漫画家さんたちと“飲み”をするのですが、楽しくて朝まで飲んでいて翌日が大変、ということくらいでしょうか(笑)
――:「楽しくて」なんですね(笑)。
保手濱:もちろん、楽しいです。ぼくも一人のファンですから。本当に自分の好きを仕事にできた、という感じです。だからこそ、原作の世界観を台なしにするような、原作者の意図にそぐわないようなローカライズやリブートを我慢できなかった、というのもありますね。
――:本当に楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきます。とはいえ、ビジネスですからマネタイズ方面も気になります。
保手濱:そうですね。先ほどの「りらくる」さまの例のようなコラボ企画は「マンガAD」という取り組みの一環として提供しているものです。これにより、企業プロモーションにキャラクターを使用してもらい、その利用料をいただく、というわけです。 また、マンガの翻訳やアニメ化、映画化などを海外で行う場合には、そのプロジェクトのために海外の資本家を引っ張ってきます。そこでイニシャルでライセンスフィーをいくばくか、また後からロイヤリティをいただく、という形で利益を上げています。
【五反田編】 ほどよい喧騒感とコスパよい飲食店のある五反田
――:もともとほかの場所に事務所があったそうですが、五反田へはいつごろ引っ越してこられたんですか?
保手濱:2016年8月ですね。
――:その際、五反田に決められた理由を教えていただけますか?
保手濱:坪単価、駅からの距離などさまざまな条件を勘案して“いい物件”があったから、ですね。ここに来る前は道玄坂に事務所があったんですが、坪単価がどんどん値上がりして。あそこはもともとラブホ街だったから安かったんですが、そのイメージが払拭されるに連れ高くなっていったんです。いま、五反田も一歩奥に入ればちょっと雰囲気が・・・というイメージがあるようで、それで安いんでしょうね。とはいえ、山手線も地下鉄も通ってます。昔、道玄坂にあった要素をすべて持っているいい場所です。 「六本木は?」と聞かれることもあるんですけど、ちょっとぼくには合わないかな、と思ってて。どちらかといえば、漫画オタクですしね。
それから、ぼくの実家が東急池上線沿いにあって、そこから大学に通うのにここで乗り換えていた馴染みの街、というのも大きかったですね。 学生時代、また卒業直後はエンジニアとして東大生を採用したくて本郷に事務所を構えていたこともあったんですが、この事業ではその必要性もありませんしね。
――:五反田を拠点にして良かったと思われましたか?
保手濱:駅が近い。安い。アクセスがいい。ベンチャー企業が多いのでコラボもしやすい。それに出勤時間が短くなりました。ちょうどいい喧騒感というところも気に入っています。もしここが手狭になって移転するとしても、また五反田にしたいくらい。
――:お気に入りの飲食店は見つかったでしょうか?
保手濱:馬肉料理を提供している「あぶみ邸」が好きですね。ぼくが立ち上げた東大起業サークルTNK出身の「株式会社ナイル」の社長(高橋飛翔氏)に教えてもらったお店なんですが、全力で飲んでも8000円。それから「焼きジビエ 罠」も好きです。「罠ハイ(ハイボール)」というのがあってなんと1杯350円ですし、一通り食べられるコースでも2000円。両店ともコスパがよくて気に入っています。 ほかには、駅から近い「日南」がおすすめですね。外から見ると雰囲気は非常にラフですが、中に入るととても落ち着いた雰囲気ですし、意外とお高くもありません。五反田にはまだいろいろお店があると思うので、どんどん開拓していきたいですね。
――:全力で飲んでも8000円とはリーズナブルですね。
保手濱:人によって全力具合も違うと思いますけどね(笑)。
――:今後、コラボしてみたい企業があったら教えていただけますか。
保手濱:五反田じゃないんですけど、イラストやアニメーション制作をしているフーモアさんとコラボしたいですね。五反田の企業でいうと、マンガって幅広いので、例えばRettyさんとコラボすればグルメとマンガ、Freeeさんとコラボすればクラウド会計について説明するマンガ冊子の作成など、いろいろなことができるのではないかと思っています。
日本のコンテンツで世界平和を実現
――:ところで、社名の由来を聞かせてもらってもいいですか?
保手濱:表向きに用意しているものでなくてもいいでしょうか(笑)。ぼくが大好きなアニメ「コードギアス」と「デスノート」の主人公たちがとてもかっこよくて、彼らのようになりたいなぁと憧れを抱いているんですよね。そしてその名前が「ルルーシュ」と「ライト」。それぞれの頭文字「L」が2つなので「ダブルエル」としています。 海外の人には伝わりにくいので、「ライセンス(License)のランドマーク(Landmark)的な存在を目指しています」と話していますけどね。
――:ありがとうございます。最後になりますが、今後のビジョンについて教えていただけますか?
保手濱:ぼくの最終目標は「世界で一番すごい人と呼ばれること」。これは資産家としてすごいということではなく、マザー・テレサやガンジーのように、人の幸福度に貢献するという意味でのすごさを念頭に置いています。 誰でも、マンガを読んだりアニメを見たりして感動したことがあると思います。つまりコンテンツは心に影響を与えるものなんです。 特に日本のコンテンツにはアメコミのように絶対悪というキャラクターがいません。殺しておしまいではなく、「ドラゴンボール」などでも悪者だったはずのピッコロがいつの間にか味方になっている。将棋でも取ったコマを味方として使える。そんな具合に相手を取り込む懐の広さを日本文化は持っており、それを反映しているのが日本のコンテンツだと考えているんです。 原作者の意図したとおりに世界に広がっていけば、日本のコンテンツが世界平和をもたらすのではないか? ぼくはそう信じています。この事業を続けて、広げていくことによって、コンテンツの力をもっと発揮させ、世界に平和を実現させたい――それがぼくの抱く今後のビジョンです。