五反田スタートアップ第12回「dely」
晩ごはんのおかずになにがいいか聞かれたので「なんでもいい」と答えたら不満そうな顔をされた――そんな経験はないだろうか。主婦に限らず、自炊する人にとって“献立決め”は面倒な作業。「学校の給食のように1か月、せめて1週間分でもいいからメニューが決まっていればいいのに」と考える人もいることだろう。
そんなときに役に立つのがレシピサイトや料理動画だ。五反田スタートアップ12回目となる今回は、質の高いレシピ動画サービスを提供しているdelyを訪ね、同社の勢いのヒミツや動画制作の現場などについて、広報の “Angela” 聡子氏に話をうかがった。
全30人のクラシルシェフが1日50本のレシピ動画を作成
――:まずは御社で提供されているサービスについて教えてください。
田中聡子氏(以下 田中):delyが提供しているのは、ユーザーのみなさんに簡単に美味しく料理を作っていただくことを目指したレシピ動画サービス「クラシル」です。iOSやAndroid向けアプリを用意しているので情報にアクセスしやすく、動画の時間も約1分と短いため、忙しい方でも献立決めの参考にしていただくことができます。
――:アメリカからやってきた1分料理動画など、同様のサービスを提供しているところがいくつかあると思いますが、それらとはどう差別化を行っているのですか?
田中:その質問にお答えする前に、ちょっとこちらに来ていただけますか。
――:ここは……キッチンスタジオですか? たくさんのキッチンブースと撮影機材、そして絶賛みなさん料理中ですね。
田中:いま、10人ほどスタジオ内に料理人がいますが、それぞれが調理しながら動画の撮影も行っています。
――:10人ですか! すいぶん多いですね。
田中:管理栄養士や栄養士、食品衛生管理者、調理師、野菜ソムリエ、日本料理人、フランス料理人、パティシエなどさまざまな得意分野を持つ料理のプロたちに、「クラシルシェフ」として料理と動画を作ってもらっているんです。全員で30名ほど在籍しており、そのうち毎日10人ほどがこのスタジオに来て、各自5本ずつ、つまり1日50本の動画を作成しています。
――:人数にも圧倒されますが、1日50本という数にも驚かされました。
田中:このように、動画の多さやレパートリーの豊富さが、ほかのレシピ動画サービスとの大きな違いとなっています。また、すべての動画をプロの料理人が作っているため、どのレシピを選んでいただいても、そのとおりに作れば味に失敗がない、というところも他社とは一線を画すものになっていると思います。
――:レシピの品質や安全性はどのように担保されているのでしょうか?
田中:安全性に関しては、かなり注意を払っていますね。クラシルでは「レシピが提出された段階」「料理ができあがった段階」「動画を編集する段階」「動画を再編集する段階」「動画が書き出された段階」「配信直前」と合計6回チェック。食材や調味料の分量、手順で抜けているところがないか、必要な箇所が動画内で漏れていないかなどを確認することで、安全性、見た目、味など料理に必要なすべての点で品質を担保したレシピ動画を掲載しています。
――:50本の動画を日々出しつつ、各6回チェックされるとは、レシピ動画にかける本気度が伝わってきますね。
「食」を通して人々の生活に寄り添うようなサービスを提供したい
――:先ほども触れましたが、競合となる動画サービスは多いですよね。そんななか、クラシルをはじめられたきっかけはどんなものだったのでしょうか?
田中:2014年4月に代表の堀江(裕介氏)がdelyを立ち上げたときには、自分たちで出前の人員を確保できないような小さな飲食店向けに出前アウトソーシングサービスを行う会社でした。配送人と配送予約システムをパッケージで提供する、というものですね。それが1年で終息し、2015年にはキュレーションメディアを立ち上げたものの競合が多かったためこれも1年ほどで終了。そして2016年2月にこのクラシルを開始しました。
堀江は、「人の生活に寄り添うようなサービスを提供したい」という想いを強く抱いており、特に1日3回触れる機会のある「食」の部分で事業を展開したいと考えていました。このころ、すでにレシピ動画サービスは多数登場していましたが、ほとんどがFacebookやInstagramなどでバズることを狙った分散型メディア。タイムラインで流れていってしまいます。でも、必要なのは見たいときにパッと検索して見られるものではないでしょうか? そしていつでも手元にあって日常的に使えること。そう考えた結果、Webでも見られますが、すぐに動画にアクセスできるアプリ「クラシル」というカタチにたどり着いたんです。
――:それが差別化にもなる、というわけですね。はじめられてから現在まで、どのようなご苦労がありましたか?
田中:いきなりはじめたので、サービス開始当初は十分な料理人を確保できない時期がありました。最初のレシピ「ホワイトソースのペンネ」は堀江が自分で作ったりして。いまではおかげさまで30人ものクラシルシェフに恵まれていますが、質と量の担保という面での苦労は、これからもなくならないですね。
――:メニュー数も関わる人も多いクラシルのサービスですが、アプリは基本的に無料で提供されています。マネタイズはどのようになっているのでしょうか?
田中:閲覧できるレシピ数が通常よりも増える「プレミアム会員」からいただく月額料金もありますが、ほとんどはタイアップ広告が収入源。たとえば、チョコレートを使ったスイーツレシピのこちらの動画を見ていただくと、右肩に「Sponsored by」というテキストとロゴがありますよね。このように食品メーカーだったり、調理器具メーカーから広告を出していただいているおかげで、これだけの量の質の高い動画を掲載できています。
もちろん、ユーザーさんたちに支えられてここまで伸びてくることができたので、広告の掲載もユーザーファーストでやっていきたいですね。
【五反田編】
「ゴミを毎日出したい!」という条件にかなうオフィス
――:ここからは五反田にまつわる質問をしていきますね。オフィスを五反田に決められた理由はなんでしょうか?
田中:弊社で提供しているのは料理動画。キッチンスタジオを作れるというのが条件のひとつでした。それには洗い場など水回りの問題だけでなく、いくつもキッチンを設置するための広いスペースも必要だったんです。
また、できあがった料理はもちろんスタッフ一同でおいしく食べているのですが、毎日50本の動画ということで、調理過程でどうしても生ごみがたくさん出てしまいます。そうなると、毎日ごみ収集をしてくれるオフィス、というのも絶対条件でした。そのふたつをかなえる場所がここだった、というわけです。
――:実際に五反田に来られていかがですか?
田中:飲食店が、しかも夜遅くまで開いているお店が多くて働きやすいと感じました。仕事が終わってからでも、のんびり(お酒を)楽しめるなぁと。
それから、五反田のベンチャー企業って仲がいいですよね。たぶん、渋谷と違ってほどよい規模感で、アットホームなんじゃないかな、と。そういうところが五反田の良さだと感じています。
――:飲食店の話が出ましたが、よく行かれるお店があれば教えていただけますか?
田中:ランチでは「ロマーノ 五反田」がかなりお気に入りです。出てくる量が多いのにおしゃれな雰囲気なんです。肉料理も“ドーン!”という感じで盛られてくるので、体を鍛えているエンジニアたちも、「タンパク質がたくさん摂れる」店としてよく利用しているようですね。1テーブルのスペースも広く、ランチミーティングで使うこともあります。
それから、五反田にはエスニック系料理を出す店も多くて、なかでもペルー料理の『アルコイリス』がクラシルシェフたちのお気に入りになっているようです。
夜なら、「クラフト麦酒ビストロ CRAFTSMAN(クラフトマン)」ですね。若いメンバーは、「串カツ田中」によく行っています。
――:今後、コラボしたい五反田の企業はありますか?
田中:同じビルに入居しているインターネットメディア事業、エネルギー事業のグッドフェローズさんと何かできたら、と考えています。飲食つながりでTORETAさんとも何かしたいのですが……。
――:最後になりましたが今後のビジョンを教えていただけますか? また、読者へのメッセージがあればお願いします。
田中:わたしたちが提供しているサービス「クラシル」という名前のとおり、暮らしに関係するあらゆる分野をカバーするブランドに成長していきたいと考えています。
一人暮らしだと、自炊するより外で食べたほうが安上がりになるんじゃないかと考えている人は多いと思います。でも、毎日だとやっぱり食費が高くついちゃうんですよね。何かを作るために買った食材が余ってしまったら、ぜひクラシルを使ってみてください。「余り物」というワードで検索してもレシピがたくさん出てきますから。ときどき、ちょっとだけでもいいので、クラシルを参考にして料理をしていただくと、きっと毎日の生活にほんの少し彩りが出て楽しくなると思います!
――:わたしもぜひ参考にしたいと思います! 本日はどうもありがとうございました。