ビジネス
2018/11/29 18:00

チャレンジは優しく自然に。ベンチャーの未来語るイベント「Scrum Connect」でヘルスケアの先を感じた

「画期的なアイディアを思いついた!起業してビジネスに!」と会社を興したベンチャー企業が成長していくためには、あらゆる知見や技術、そして資金が必要です。こうしたベンチャー企業を支えるのが、ベンチャーキャピタルと呼ばれる投資会社。成長性を見込まれた企業は、ベンチャーキャピタルに支援を受けることで、ビッグビジネスへの道が加速されていくのです。

 

そんなベンチャーキャピタルの中でも、Scrum Venturesは名だたるIT企業を創出している米国シリコンバレーを中心に投資を行っている注目の企業です。今回は、Scrum Venturesが11月19日に開催したイベント「Scrum Connect」へ伺って、イノベーションの風を感じてきました。

 

↑Scrum Ventures ジェネラルパートナー 宮田拓弥氏

 

SDカードにもオープンイノベーションが必要だった

ベンチャーキャピタル主催というと、スタートアップ企業の話が中心になるのかなと思いきや、今回のトップとなったセッションは「大企業のオープンイノベーション」。オープンイノベーションとは、自社だけではなく、他社や専門家などから積極的に意見を聞き、取り入れることでイノベーションを起こす取り組みです。もちろん、自社のアイディアや技術を他社に提供するケースもあります。

 

登壇したパナソニック株式会社 専務執行役員 アプライアンス社の本間哲朗社長は、パナソニックでSDカード事業を手がけた人物。2000年からSDカード事業に携わったが、当時はほぼゼロの状態だったと言います。「上司からSDカードの仕事をするように命じられたときは、なぜそんなひどい目に遭うのかと思った」と語る本間氏は、「(SDカードを)なるべくオープンなフォーマットにして、世界中の皆さんと一緒にフォーマットを発展させて、色んな事業機会を取り込むことで発展を狙うことにした」と当時の指針を語りました。標準化のためにSDアソシエーションという団体を立ち上げ、様々な顧客の声を聞いてその知見を積み上げていくことで、SDカードをグローバルデファクトスタンダードへと導くことができたそうです。

 

↑パナソニック株式会社専務執行役員 アプライアンス社社長  本間哲朗氏

 

↑本間氏による「SDカード事業におけるオープンイノベーション」

 

「企業とは新しいチャレンジをしないと必ず縮退する」ーーこの原体験から学んだ本間氏は、パナソニック株式会社とScrum Venturesが2018年3月に共同設立した株式会社BeeEdgeにも携わっています。

 

会場では、BeeEdgeが事業化に携わった第一弾として2018年11月に発表されたミツバチプロダクツによる「∞ミックス(インフィニミックス)/ホットチョコレートマシン」が展示され、ホットチョコレートドリンクも振る舞われました。∞ミックスは独自開発のスチームブレンダー機構により、たった30秒でチョコレートを溶かす業務用のマシンです。2019年春を目処に発売を予定しており、想定販売価格は25万円とのこと。イベントで代表挨拶をした内閣官房副長官 衆議院議員の西村康稔氏もチョコレートドリンクに舌鼓を打っていました。私もいただきましたが、チョコレートそのものの香りや味わいが口いっぱいに広がる、今まで飲んだことがない味わいのホットチョコレートでした。

 

↑ホットチョコレートマシン「∞ミックス(インフィニミックス)」

 

↑(写真左より)衆議院議員 西村康稔氏、Scrum Ventures 外村仁氏

 

 

パンツに付けるヘルスタグで継続的な測定

イベントでは7つのセッションが行われましたが、今回注目したのは「ヘルスケア・セッション」で紹介されたヘルスタグです。みなさんはヘルスケアに関するデバイスを使ったことはあるでしょうか。私は腕にはめるタイプをいくつか使っていました。運動不足を痛感する日々で運動量が目標値に達したとき、専用アプリに褒めてもらえると、とても嬉しいものです。また、睡眠の深さや時間を記録できる機器を使ったときは、お酒を飲んだ時の方が睡眠が浅いなど、自分にとって質の良い睡眠を取るためには日中どんな過ごし方をすべきか大変参考になりました。

 

ところが、活動量計には「付け忘れる」という弱点があるのです。お風呂に入るときや着替えるときに、いったん外してそのままになるケースは活動量計を使っている人なら誰でも経験があるでしょう。私は寝るときに腕に何かが付いている状態にどうしてもなじめませんでした。服に付けるタイプの活動量計を使ったこともありますが、こちらには落としてしまう、または服と一緒に洗濯してしまうという落とし穴がありました。常に計測しているからこそデータとして役割を果たすのに、これではもったいないですよね。

 

そんな問題を解決してくれそうなヘルスケアデバイスが、「Spire Health Tag」です。このヘルスタグは、下着や洋服に付けられるだけでなく、洗濯機や乾燥機に入れても問題ありません。バッテリーも1年半もつそうです。

 

↑Spire Health Tagを持つJonathan Palley氏

計測されるデータは、呼吸、睡眠、ストレス、心拍数、カロリー、歩数など。ヘルスタグはシールのように貼り付けるタイプで、男性はパンツのウエスト部分に、女性はブラジャーやパジャマに付けると良いそうです。計測されたデータは、iOSアプリで確認できます。Spireの技術はスタンフォード大学7年間の研究によって支えられているとのことで、米国では2018年9月にAppleストアでも発売を開始、国内では12月よりAppleストアでの販売が予定されています。現在はヘルスタグをひとつ、または複数個をパックにした販売が行われていますが、日本での販売形式はどうなるでしょうか。

 

セッションに登壇したSpire Co-founder CEOのJonathan Palley氏は、「ヘルスケアにおいて、患者が自宅にいるときの状態を知ることはとても大切」だと語りました。「患者に家でも計測するように言っても、付けない場合があります。しかし、衣服に付けておけば継続して計測されるため、高品質なデータを意識することなく得られます。」(Palley氏)

 

Palley氏は今後日本の企業ともパートナーになっていきたいこと、慢性疾患の患者に役立ちたいことなどを語りました。日本でヘルスケアデバイスといえばダイエットや運動管理に留まりますが、Spireは連邦政府と臨床治験を行い、慢性疾患の改善に役立てる機器を開発していくとのこと。日本では法律の違いなどもあり、そのまま転用することは難しいかもしれませんが、「大切なのはテクノロジーではない。結果を出さなければ意味がない」と語るPalley氏の方針が日本でも活かされることを願います。

 

保守的になりがちな日本の風土に、シリコンバレーのスピード感あふれる熱さがどう響いていくのでしょうか。日米のベンチャーの橋渡しとなるScrum Venturesは、これからも新たな刺激を私たちに与えてくれることを確信した一日でした。