春先は、新人の入社や部署移動などがあり、先輩社員は食事や飲み会などで後輩たちにおごる場面が出てきます。「いまの若い者は飲みに行かない」と嘆く先輩たちもいますが、それよりも悲しいのが、接待交際費や飲食代は会社の費用に計上することが難しいこと。「仕事の一環で飲食をしているのだから経費として落としたい」と思うビジネスパーソンは多いと思いますが、そう簡単には行きません。なぜでしょうか?
また、2月中旬~3月中旬まで確定申告も行われていました。接待交際費についてよく理解しないまま会計をしている個人事業主も少なくないかもしれません。そんな接待交際費について税理士の木下勇人さんに伺いました。
その1: 個人事業主は接待交際費を使い放題!?
――接待交際費の上限や使い方は会社ごとに異なるとは思いますが、おおむねどういった設定が多いのでしょうか?
木下勇人さん(以下、木下) 会社員の場合、会社ごとにルールは異なりますけど、だいたいは会社外の人と飲食をするときにかかる経費ですね。「なんでもかんでも経費にしていいよ」っていう会社はまずないはずで、例えば「月何回までならOK」とか「いくらまでならOK」とかの制限を設けている会社が多いはずです。さらに、こういった接待交際費に関して、直属の上司がハンコを押すなりして了承をして、経理部に回すというのが一般的だと思います。
ただ、これが個人事業主の場合は、接待交際費に対して「いくらでもいいですよ」となっています。
――いくらでも使い放題なんですか?
木下 もちろん税務調査が入ったら細かく内容を見られて「これ、自分の家族でどこかに行ったお金でしょう」とチェックされて「ダメ」ということになりますけどね。こういったことから会社員の感覚と、個人事業主の感覚とでは大きく違うんです。
例えば、個人事業主が「どうせ税金で持って行かれるのだから、節税のつもりで、交際費にして1万円飲み食いしよう!」と思ったとします。そこで問題が起こります。1万円を経費にして、仮に3000円分の節税が出来たとしても、「1万円」という現金は消えているので、手もとに何も残っていないわけです。こういった場合、仮に3000円の税金を払ったとしても、現金を残しておいたほうがいいことが多々あります。この辺のことを勘違いする個人事業主が意外と多いんです(詳しくは後述の「その6:接待交際費はどこまで削るべき?」)。
その2:接待交際費と会議費の違い
――接待交際費と会議費の違いは?
木下 税金の計算上、交際費は原則経費にならず、会議費(科目名は何でもいいのですが、要は”交際費に該当しない”ということ)は経費になります。
交際費とは、法人が得意先や仕入先、その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答などに類する行為のために支出する費用のこと。要は、会社の事業をスムーズに運ぶために必要な見返りを求めて得意先や仕入先のご機嫌を取るための費用です。得意先や取引先に対してだけでなく会社の役員や従業員、株主など「事業に関係のある者」に対する支出もこれに該当します。
一方、会議費とは会議のために使われる費用のこと。平成18年の税制改正で、5000円以下の飲食費は交際費から除外され会議費として扱うことができるようになりました。ただし、以下条件あります。
- 飲食等の年月日
- 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称およびその関係
- 飲食等に参加した者の数
- その費用の金額ならびに飲食店等の名称および所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の名称、住所等)
- その他参考となるべき事項
一人当たり5000円の判断は、飲食店ごとの金額で考えて問題ありません。同じ日に連続して2軒の店を使っても、一次会の店でもらった領収書と二次会のお店でもらった領収書は、それぞれ一人当たり5000円以下であれば会議費として認められます。しかし、同じお店で領収書を分けるのは認められません。
その3: 接待交際費=投資?
――法人企業の場合、接待交際費に上限はあるのでしょうか?
木下 資本金1億円以下の企業の場合、2つのパターンがあります。1つは、1年間の接待交際費の累計が800万円までは全額が経費(損金参入)として認められるというもの。もう1つは、飲食そのほかの50%だけ経費(損金参入)として認められるというものです。1年間の接待交際費の累計が800万円までというルールを採用する企業が多いと思いますが、ここでも「経費で落としたい」と考える会社員と経営者側との間では感覚的に大きな違いがあるんですね。
会社員にしたら「これだけ取引先と食事をしているんだから仕事だ。だから経費で落としたい」と思うのでしょうけど、例えば会社の社長にとってみれば「いや、売り上げが上がらなければ、接待する意味がない」と思うのが普通です。「この人と食事をすることで、絶対に契約が取れます!」ということでないと、社長からすれば、まず認めないのが接待交際費ということですね。
――接待交際費は「投資」とも言えそうですね。
木下 会社にとっては投資と言い換えてもよいと思います。見返りがない人と食事をしてもしょうがないですからね。
その4:ゴルフ場会員券は接待交際費になる?
――その関連で言うと、リベートはどうでしょうか?
木下 これは接待交際費ではなく、販売促進費として計上することが多いです。あらかじめ「何割」という設定に基づいて支払うわけですから、これは接待交際費ではないんですね。
――ほかに接待交際費のようでいて、実はそれで落とせないものはありますか?
木下 ゴルフ場の会員権ですね。ゴルフは接待や交際の側面もあり得るものですが、ゴルフ場の会員権は、株式のように時価で取り引きされているもので非償却資産という扱いになるので、少々勝手が違うんですよ。なので、ゴルフ場の会員権の場合は、まず法人で購入し、資産に計上します。そして、それとは別に「年会費」や「ロッカー代」といった費用部分のみ接待交際費として計上するというものですね。
――野球場の年間ボックスシートや、相撲のます席を年間で買っている企業もあります。
木下 接待を目的として購入していて、基本的には、社外の接待に使いながらも、空いているときに役員や従業員が利用するという場合は全額を接待交際費として計上することができます。
でも、その年間予約席を、役員や従業員しか使わない場合は、それらの者に対する現物支給の給与とみなされ、所得税の対象になるので、これはダメです。
――ゴルフや観劇の際の送迎タクシー代は?
木下 得意先や仕入先を接待するための送迎のタクシー代は交通費ではなく交際費としての扱いになります。また、実費ではなく御車代として出して場合でも、それが妥当な額であれば交際費となります。
その5: 福利厚生費との違い
――福利厚生費と接待交際費は具体的に何が違うのでしょうか?
木下 言うまでもなく、これは社内の士気を上げるためのもので、接待交際費とはまったく違います。会社としては無駄な経費はとにかく削減したいものです。でも、あんまり絞り過ぎると、会社員のモチベーションは下がりますから、そこで福利厚生費として忘年会をやったり、社員旅行をやったりして、社内の親睦を深めるためにかかるお金が福利厚生費ということになります。
――そう考えると、接待交際費というのは、あくまでも社外の人との飲食であり、それも見返りのあるものでないと会社としては認められないという、ごく当たり前の仕組みになっているということですね。
木下 はい。当たり前の話ですね。でも、この接待交際費を巡っては、会社員の側、経営者の側で思いが全く異なることは興味深いところだと思います。
その6:接待交際費はどこまで削るべき?
――経営者は接待交際費をどこまで削るべきでしょうか?
木下 会社が軌道に乗ってきて、売上が上がるようになると節税に熱心になる経営者の方はとても多いです。しかし、意識が節税に対して向きすぎると、会社にとって本当に大切なキャッシュフローの最大化という目的とは離れていってしまうことがあります。
極端な例ですが、年間の利益が2000万円出るとして、急いで節税のために交際費を使い800万円を計上するとします。すると、税引前当期純利益が1200万円になるので、法人税を40%としたら、納税額は480万円になる。一方、交際費を一切使わないと、納税額は800万円になります。
しかし、前者の場合は会社のキャッシュフローとして720万円になるのに対して、後者の場合は、納税額は多いのですが、1200万円のキャッシュフローを確保することができます。一見、納税額が320万円減って節税できているように見えるので喜んでしまいがちですが、キャッシュフローという点で考えると、逆に480万円も減少しているという点に注目が必要です。
このように節税に熱心になり過ぎて、本当に大切な会社のキャッシュフローに対する意識が下がるようだとよい経営者とは言えません。