ビジネス
2020/4/1 19:00

低成長時代の働き方とは?ベストセラー『入社1年目の教科書』著者に聞く、令和時代のビジネスパーソンが心得るべきこと

2011年に出版され、今も売れ続けているビジネス書『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)をご存知でしょうか。新生活が始まるこの時期になると重版を重ね、今では50万部を超えるベストセラーに。新入社員が社会人としての心得を学ぶために手に取るだけではなく、中堅社員にとっても、定期的に見返して襟を正したくなるバイブルのような一冊です。最近では、定年後の再就職を控えた60歳前後の年齢層にも人気なのだとか。

 

著者は、東大法学部卒業後に社会人経験を経てハーバード大学へ留学した経歴を持つ、エリートビジネスマンの岩瀬大輔さん。“天才肌”の岩瀬さんが説くビジネスのノウハウでありながらも、あまねく人びとを魅了している理由は、この本が、素材を生かすための上質な基本調味料のような内容だからでしょう。

 

「仕事の本質は、自分の能力を最大限まで引き出して、関わる人々がお互いを生かし合って、よりよいパフォーマンスを引き出すことです。いつの時代もどんな企業でも、古今東西、大枠は変わらないと感じています。私は外資系企業でしか働いた経験はありませんが、この本が日系企業や公務員の新人研修用のツールとしても活用いただいていることからも、それを実感しています」という岩瀬さん。ここでは、社会人がまず重視するべきビジョンと、岩瀬さんのビジネススキルの磨き方をうかがいました。

↑『入社1年目の教科書』著者の岩瀬大輔さん。大学を卒業して外資系企業に勤めたのち、若干29歳でライフネット生命保険を創業。新入社員として、また起業家・経営者としての両端の経験から培ったノウハウや心構えを説いている
↑『入社1年目の教科書』著者の岩瀬大輔さん。大学を卒業して外資系企業に勤めたのち、若干29歳でライフネット生命保険を創業。新入社員として、また起業家・経営者としての両端の経験から培ったノウハウや心構えを説いている

 

ビジネスメールは簡潔に!

パソコンとスマホさえあれば、オフィスに出社しなくても仕事のできるワークスタイルが増えている今日。最近では、世界中で蔓延する新型コロナウイルス感染症の影響を受け、リモートワークが加速しました。在宅勤務では、直接顔を合わせないコミュニケーションツールのメールが中心になるからこそ、相手に配慮したビジネスメールのスキルが欠かせません。

 

「伝えたい内容をすべて網羅した長文のメールよりも、確実に今、必要な情報がひと目でわかるメールを受け取る方が、相手は助かるはず。また、受け取ったメールへの返信は24時間以内が原則です。返答に時間のかかる内容ならば、いつまでに回答をするかということだけを先に返信しておきましょう。いかに相手に合わせた配慮ができるかは、信頼関係を左右する大切なビジネススキルです」(ライフネット生命保険会社創業者・岩瀬大輔さん)

 

一緒に働きたいと思わせる人になろう!

前述のように、信頼関係はビジネスの基本。新入社員がまず目指すべきことは、取引先の相手や会社の上司、同僚に信頼されることだと、岩瀬さんは話します。「ウソをつかない」「遅刻をしない」「誰に対しても平等に接する」「約束を守る」「すすんで縁の下の力持ちになる」など……。尊敬する友達や恩師、憧れの上司などを思い浮かべると、どんな行動が信頼につながるのかがわかるのではないでしょうか。

 

「幸せに働く秘訣は、『なにをやるかではなく、誰とやるか』。相手が、あなたと仕事をしたいと思える人材になるために、どんな行動をとるべきかを考えてみるとよいでしょう。それが、ビジネススキルを上げる大きなポイントです」(岩瀬さん)

 

新入社員はまずどうしたらいい? 転職したいと思ったらどうする? 再び到来しそうな低成長時代にどんな会社を選べばいい? などなど、ここからは一問一答形式で、岩瀬さんのノウハウを紐解いていきましょう。

 

▼この記事は、GetNaviがプロデュースするライフスタイルウェブマガジン「@Living」から転載したものです▼

挨拶と感謝の言葉を大切に

———岩瀬さんが新入社員のとき、どんなことを意識して過ごしていましたか?

 

岩瀬「『朝のあいさつは元気よく、ハキハキと言うこと』を意識していましたね。当たり前のことなのに、できていない人は少なくないんです。上司や同僚だけではなく、オフィスビルの掃除をしてくれている人や他部署の人など、利害関係のない人にも気持ちのよい挨拶ができるか。これは信頼される人材になるための重要なポイントになります。私の上司は、丁寧な挨拶を誰にでもする方でした。とくに印象に残っているのが、タクシーの運転手さんに対する紳士な対応。乗車時の挨拶から始まり、行き先の伝え方や口調から伝わる思いやりの心、そして目的地に到着した際には、誠意を込めて感謝を伝えてから降車。その姿勢にはとても感動しました。もちろん、すぐにマネをするようになり、今も心がけています」

 

———でも、上司を尊敬できない場合は、どうしたらいいのでしょう?

 

岩瀬「私が恵まれていたなと思うのは、厳しい上司でしたが論理的で、感情に任せて叱るタイプではなかったことです。厳しい口調で注意を受けても、『確かにそうだよな』と、その場で納得できました。それに加え、部下からの意見も素直に聞き入れる企業体質だったので、納得がいかないことには、はっきりと反論していました。新入社員時代から大して落ち込むことはなく、叱られても一晩眠れば、ケロッと立ち直れていました。たとえ感情的な上司に叱られたとしても、ダメージを引きずる必要はありません。仕事で叱られるのは、人格の否定ではなく教育的指導のためだから。減点主義の考えはやめましょう。中には、人格を否定してくる上司や、尊敬できない先輩もいるかもしれません。しかし、上の立場にいる方は、なんらかの仕事のスキルが優れているはずです。参考になるスキルを見習うことに注力して、自分の成長に生かすのが得策だと思います」

 

会社は学校じゃない!
叱られることがスキルアップに

———叱られたことを引きずってしまう人も、けっこういるのではないかと思うのですが?

 

岩瀬「ビジネスの評価は、学校のテストで100点満点を取るものとは違います。1ヵ月かけて100点のものを出すよりも、1週間で50点のものを出すほうがいい。そこに、上司から赤ペンを入れてもらい、アップグレードをしていくことで、最終的には最短納期で最高のパフォーマンスを目指すのが仕事です。そう考えると、褒められるよりも厳しいくらいの指摘をされる方が、ありがたいと思えてきませんか? 叱られることが自分のスキルアップになっていると考えれば、落ち込むことが減るような気がします」

 

———岩瀬さんは上司から叱られることが、むしろ“喜び”だった……?

 

岩瀬「私も人間ですから、叱られたいわけではありません(笑)。でも、指摘されることに、なんら恐怖心はありませんでした。少しでも仕事のクオリティを上げたかったので、上司に提出したレポートが真っ赤になって戻ってくると、うれしくなりましたね。自分で調べることや、一度ミスした内容と同じことを繰り返さない努力は必要です。新入社員の間は、できないことがあるのは仕方がないので、できるところまでやってあとは上司を頼ってもいいと思います。とはいえ、少しでも自分でできることを増やしたいし、ビジネススキルを上げたいので、お茶出しのチャンスや、資料のコピーは率先して行い、上司の仕事ぶりを観察するチャンスを逃さない意識は持っていました。『百聞は一見にしかず』。見て学ぶことはとても勉強になります」

 

悩むくらいなら転職するな

———最近は大卒の若者の約30%が3年以内に離職していると聞きます。3年以内に転職するのは早すぎますか? また、転職するまでに身につけておくべきスキルがあれば教えてください。

 

岩瀬「3年間働いたくらいでは、即戦力になるビジネススキルは身につかないと思います。だから3年以内に転職してはダメ、ということではありません。今できることをコツコツと積み重ねていった先に転職のチャンスが来て、抑えきれない衝動があるのであれば、転職するのが自然な流れかなと思います。『転職したいけれど、やめておくべきか?』と悩んでいる段階では、動くべきではないと思います。起業も同じ。『起業したい気持ちがあるんですけど、岩瀬さん、どう思いますか?』なんて相談されたら、絶対に反対しますね。転職も起業も、結婚と同じような気がします。抑えきれないときめきやご縁を感じたときが、ベストなタイミングだと思います」

 

———コロナショックで再び需要が冷え込むことが想定されている今、どのような会社を選ぶのがよいのでしょうか?

 

岩瀬「新型コロナウイルスの影響で倒産する企業が出てきたり、内定取り消しになったりという事例が出ていますが、じゃあ、新型コロナに強い会社に就職するべきかというとそんな発想はナンセンスだと思います。ショック療法じゃないですけど、『リモートワークを増やす』『会議の量や回数を減らす』などの改善を検討するのはいいと思います。株の売買などは、時代の動きを敏感にキャッチする必要があるでしょう。しかし、この先も予期せぬ事態はいくらでも起きる可能性はあり、時代の流れを正確に読むことは誰にもできません。短期的な視野で仕事を選ぶ方法は、この先も時代に振り回され続けることになります。就職活動をした結果、内定された企業の中で自分にできる仕事を必死にやる。経験を重ねることで、ビジネススキルを磨いていくことが大切だと思います」

 

やるべきことは何年経っても変わらない!

———『入社1年目の教科書』はビジネスのバイブルとして定期的に見返したい内容です。社会人10年目くらいの方からは「おわりに」の内容への反響が高いようですね。

 

岩瀬「この本を作っていたときは、正直『おもしろくない内容だな』と思いながら原稿チェックをしていました。当時は、一つひとつを見ると、あまりにも当たり前すぎる内容だと感じていたからです。でも、こうして世に出て、多くの反響をいただくようになって感じるのは、ビジネスは当たり前のことをいかにしっかりとこなすかが大切だということ。『頼まれたことは、必ずやりきる』『50点で構わないから早く出せ』『つまらない仕事はない』という3つの原則と、50のルールを並べているのですが、すべてを見渡すと、自分がどんな気持ちで仕事をしているのかがわかります。

 

本の最後「おわりに」で触れている内容は、会社にとって大きなチャンスになるようなテレビ出演のオファーが舞い込んだときの話です。即、オファーを引き受けたのですが、当時の私には知識が不足している分野だったので、そこからテレビ収録本番までにどうやって、知識を習得していったのかを解説しています。この短期勝負での動きが、中堅社員の方に好評のようです。パフォーマンスの高い仕事を成し遂げるのは、アスリートに通じるものがあるかもしれません。日々の基礎練習を疎かにせず、積み重ね続けるからこそ、本番で最高のパフォーマンスが出せるのだと思います」

 

『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)
1572円(税込)

新入社員が仕事を進める上で大切な「仕事の3つの原則」と具体的な50の行動指針が1冊に凝縮されています。50万部突破のロングセラー。

 

ワークライフバランスが推奨される今日ですが、若いうちに仕事にかける時間を削るべきではないという岩瀬さん。

「長くダラダラと働くのはもちろん反対です。しかし、若いうちにスキルアップのためにがむしゃらに働くことは大切だと思います。サッカー選手がプロになるための練習時間を惜しんだり、料理人が料理の上達に費やす時間を削ったりすることはありません。仕事のスキルは実際の仕事の中で実践しながら身につけるもの。残業時間で計るという意味ではなく、仕事にかける時間や労力は惜しまないで欲しいなと思います」(岩瀬さん)

 

最後に、岩瀬さんが若手ビジネスパーソンにおすすめする本を3冊、紹介しましょう。

 

▼この記事は、GetNaviがプロデュースするライフスタイルウェブマガジン「@Living」から転載したものです▼

岩瀬さんオススメのビジネススキルを上げる本

自宅でできるビジネススキルアップのひとつに、読書があります。最後に、岩瀬さんが若手ビジネスパーソンにおすすめする本を3冊、紹介しましょう。

 

1.『絶対ブレない「軸」のつくり方』

『絶対ブレない「軸」のつくり方』(ダイヤモンド社)
1572円(税込)

岩瀬さんにとって20年来の友人であるビズリーチ創始者の南壮一郎さんの著書。楽天イーグルスの創業メンバーとして、やりたいことを諦めずに、泥臭く行動し続けたエピソードがまとめられています。「圧倒的な行動力で不可能を可能にしていく姿から、仕事に立ち向かうおもしろさが学べます。一歩を踏み出す勇気が足りないときに、ぜひ!」(岩瀬さん)

 

2.『調理場という戦場』

『調理場という戦場 〜「コート・ドール」斉須政雄の仕事論〜』(幻冬社)
660円(税込)

23歳で単身フランスに渡った著者・斉須政雄さんの過酷な修行時代が綴られています。「早くゴールしないほうがいい」「効率のいい生き方をしていると、すり切れてしまう」など、熱い名言がいっぱい。「社会の常識に惑わされることなく、自分の常識で突き進む姿勢に触れることで、仕事や人生の中で大切にするべきことが見えてくるでしょう」(岩瀬さん)

 

3.『自分を超え続ける』

『自分を超え続ける』(ダイヤモンド社)
1430円(税込)

著者の南谷真鈴さんは19歳の女子大生であった2017年に、日本人最年少でエベレストの七大陸最高峰の登頂に成功。彼女が山の中で経験した死と隣り合わせの壮絶なドラマが紹介されています。「生きる意味とはなにか、南谷さんがありたい姿とは、自分の限界ギリギリの挑戦をしている姿が、読み手に静かに問いかけてくる、魂をゆさぶられる一冊です」(岩瀬さん)

 

自分という素材を引き立てるようなスキルを身につけ、どんな仕事でも最高のパフォーマンスを引き出すことを楽しむのが岩瀬さんの仕事術です。『入社1年目の教科書』の初版が出たのは、2011年5月19日。本が完成する直前に3・11の東日本大震災が起き、当時は多くの企業で入社式が見送られました。9年後の今も、新型コロナウイルス感染症の影響で、入社式を中止する予定の企業が多いようです。奇しくも同じような情勢の中で、時代を生き抜くビジネススキルをどう磨いていくべきか。岩瀬さんのノウハウから多くのヒントが得られるのではないでしょうか。

 

【プロフィール】

ライフネット生命保険株式会社創業者 / 岩瀬大輔

1976年埼玉県生まれ。1997年司法試験合格。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了(ベイカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長に就任。同年7月より18カ国の国や地域に拠点を有するアジア最大手の生命保険会社であるAIAグループ(香港)に本社経営会議メンバーとして招聘される(いずれも2019年退任)。著書は『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)、『ハーバードMBA留学記─資本主義の士官学校にて』(日経BP社)、『生命保険のカラクリ』『がん保険のカラクリ』(共に文春新書)、『ネットで生保を売ろう!』(文藝春秋)など多数。

 

▼この記事は、GetNaviがプロデュースするライフスタイルウェブマガジン「@Living」から転載したものです▼