経営者が困っている4つのこと
飲食店経営者たちに話を聞くと、困っている点は情報収集・書類作成・待ち時間、そして採算性の4点だと言います。
政府の補助支援制度は次々と発表されますが、実行されるまでに時間差があります。「マスコミで情報が流れると、問い合わせが殺到しますが、現場に詳細が送られるまでに2週間程度かかっています」とある金融機関の職員は、現場の混乱を指摘します。
さらに「一式作ってしまえば使いまわせるのですが、その資料作成のハードルが実は高い」と前述の夫婦は言います。「それに募集要項などが分かりにくく、それだけでは私たちも理解できず、ネットなどで調べました。そういうことでができない高齢者は大変でしょうね」
調べる中で、小規模事業者持続化補助金で通販サイトの開設に助成を受けられると見つけ、申請することにしたと言います。
しかし、融資にしても、補助金にしても時間がかかる点も大きな問題になっています。都内の医療機関の経営者は、「会計士や取り引き銀行の担当者に相談して、すぐに融資や助成金の手続きをしたが、融資は1か月、助成金はいつになるか判らないと言われています」と言います。「都心部の医療機関は、休業要請外だし、いろいろある補助制度の枠外。都心部では在宅勤務で、すっかり人出はなくなり、感染を恐れて患者も来なくなっている。飲食店同様、高額な家賃や固定費もあるのですが」
東京都で5月11日から支給が始まった東京都感染拡大防止協力金では、休業や短縮営業の状況が分かる書類や申請時に税理士や公認会計士ら専門家の事前確認を求めており、手続きの煩雑さに批判が起きています。
そして、最後はテイクアウトやデリバリーなどの採算性です。東京都をはじめ、各地の自治体でそうした動きを支援する制度も拡充しています。ただ、「そもそも人通りが減っている中で、弁当が1日何個売れるか…」。やはり都内の料理店の経営者はそう指摘します。「住宅街から離れており、夜の営業だけだったという場合には、いきなり昼の弁当を出しても難しいですね」
さらに、大きな問題が支援事業の条件だと言います。「都の業態転換支援事業は、過去にケータリングをやったことがあったらダメ。支援制度を受ける前に、事前にテイクアウトに取り組んでいたらダメ。過去にテイクアウト商品の開発に助成金をもらっていたらダメ。使い勝手が悪いと飲食店仲間からも文句が出ています」と言います。
「このままチェーン店ばかりになってしまうのか…」
何人か話を聞いた飲食店経営者の中には、「自己所有物件だから、家賃負担がないだけまだましだ」という経営者や、「地元の大家さんで、減免してくれると申し出てくれて助かった」という経営者もいました。しかし、一方で「政府などが家賃の減免をするとしているが、うちのように店舗を購入しローン支払いを続けているところはどうなるのだろうか」という飲食店経営者や、「一旦、融資を受け、それで家賃を支払った上で、あとで補填されるという制度になると聞き、それまで融資の申請を見直した方が良いのではと言っている同業者が多い」という飲食店経営者もいました。
東京都内、特に都心部の商店街では、商店主の高齢化が進んでいました。また、長年、懸案だった再開発計画が、ここ数年で進展することもあり、廃業する個人経営の飲食店が増加していました。そこに降ってわいた新型コロナウイルス感染拡大の影響は、こうした廃業候補の個人飲食店や個人商店が前倒しで閉店、廃業を進めています。「コロナ騒ぎが収束したら、駅前の商店街の商店は、ほとんどが全国チェーンの店舗になっていたという事態が現実味を帯びてきた」と東京都内のある商店街組合関係者は言います。
WITHコロナの時代にどう生き残るのか
助成金や給付金、融資など制度が次々に整備されています。しかし、飲食店に対してどのような助成金、給付金、融資が、そしてどれくらいの金額が適切なのか、しばしば議論になります。しかし、業態や規模が様々であり、単純なものではありません。従業員を雇用している飲食店では、雇用保険制度による雇用調整助成金を利用して、給与を確保することができます。しかし、夫婦だけなど家族経営の飲食店では、そもそも雇用保険制度が適用されることは認められておらず、利用することはできません。
そのため、中小企業向けや飲食店向けの給付金制度や家賃補填制度を利用する飲食店が多くなります。こうした制度を利用することで、なんとか一時的にはしのげるものの、これから先どうなるのか、不安に思う経営者も多いでしょう。
これから先、新型コロナウイルス感染の長期化、つまりWITHコロナの時代を迎えると考えられています。そうなれば、営業の全面再開になったとしてもソーシャルディスタンスを守るために座席数を減らしたり、感染防止のために換気扇の増設や消毒装置などの設備投資、バイキング形式の料理提供の中止など、新たな投資が求められます。
こうした次の段階への準備を考えていく必要が出てきており、いち早く富山県が「食事提供施設」新型コロナウイルス感染防止緊急対策事業費助成金を5月25日から募集を始めます。非接触型自動水栓(蛇口)や換気扇、空気清浄機、非接触体温計などの新規設置に当たって購入金額12万5000円以上について、定額10万円の助成金を支給するというものです。
今後、緊急事態宣言や休業要請、外出自粛などが緩和され、飲食店の営業再開が進み、その先には再び外国人ビジネスマンや外国人観光客の訪日も増えてくるはずです。そのために、飲食店だけではなく、商業施設、イベント施設、学校などでも、感染症防止対策事業を進めていく必要があるでしょう。そうした面での補助、助成制度の充実も、急がねばなりません。
※都内の飲食店は約7万5000店舗(平成26年経済センサス-基礎調査報告書)あり、そのうち51.3%が1店舗だけの飲食店です。つまり、都内にある飲食店の約半数がチェーン店になっています。さらに、1店舗だけ経営している飲食店の従業員数の平均は4人に対して、複数店舗を経営している企業の1店舗当たりの平均は20人です。飲食店数では、チェーン店と個人経営店ときっ抗しているように見えますが、大型店舗のチェーン店と小規模の個人飲食店という形になっていました。https://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/kekka.html
【プロフィール】
中村智彦/神戸国際大学経済学部教授
タイ国際航空株式会社、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。総務省地域力創造アドバイザー、愛知県愛知ブランド審査委員、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務めている。https://www.facebook.com/officetn/