新連載「五反田スタートアップ」第1回「株式会社トレタ」
東京の「五反田」というと「オトナのお店」のある街というイメージを持つ人も多いのではないだろうか? しかし昨今、五反田はコスパの良いグルメタウン、そして、ベンチャー企業やスタートアップ企業が集中する街に変貌してきている。しかも、これらの企業たちは六本木や渋谷などの大手IT企業から派生したベンチャーとは少し毛色が異なるキャラクターを持ち併せているのだ。
五反田に編集部があり、様々な最新ニュースやトレンドを発信するGetNavi webとしては、こうした動きは見逃せない! ということで、本連載は「五反田スタートアップ」と題し、五反田にオフィスを持つベンチャー企業を取材。事業内容はもちろん、「なぜ五反田を選んだのか?」「五反田で好きなグルメは?」など、ローカルなトピックも併せてインタビューしていく。
第1回目は、飲食店向けのオンライン予約/顧客台帳サービスを提供する株式会社トレタの代表取締役・中村 仁氏とCOOの吉田健吾氏にお話を伺った。「オンライン飲食店予約システム」というと、消費者(ユーザー)の予約が便利になるだけのシステムに見えるかもしれないが、お店側にとっては革命的。紙でアナログで管理していた非効率から脱し、顧客に合わせたサービスが可能になるのだ。また最近では、デポジット機能をリリース。前受金をもらうことで、直前キャンセルの損失を防ぐといったサービスを始めるなど、同社の世間的注目度が一気に高まっている。
【会社概要編】苦しんだからこそわかる飲食店のニーズ
――飲食店向け予約/顧客台帳サービスというユニークな分野を開拓されたきっかけを教えていただけますか?
トレタ代表取締役・中村 仁氏(以下:中村) 私自身、2000年に飲食店の経営を始めたんです。電話で予約を受け付けていた当初は、店の電話で予約を受け、その場で台帳に書き込んでいました。そのうち、経営していた「豚組」でTwitterを使った予約受付を開始。Twitterなら昼夜問わず、ましてや僕が店にいようがいまいが関係なく申し込みできるから、お客さまにとってメリットが大きい、と思えたんです。
中村 リアルタイムに返事をするため、自分が出勤していない場合は空いているかどうかを電話で店に確認してリプライ。「Twitterを使った新しいシステム」と世間から評価していただいたのですが、裏側はこんな感じにアナログな手法が取られていたんですよね(笑)。
直近の予約と違い、2週間くらい先の予約だと、「何とかなるだろう」と考えてその場で「いいですよ!」と返事をしちゃう。困るのはその後でした……。予約の件で店に電話してみると、ちょうど忙しい時間帯で誰も出ない。じゃあ、明日の暇な時間帯に電話すればいいかあ、と思っていると忘れてしまう。当日になって、お客さんとしては予約が通っていると思って来店される、でもぼくが店に予約を入れていない。漏れが生じるようになったんです。
そういう問題が度々起きて、あちこちで「すみません」と謝るような状況に陥ってしまっていました。ふと、「ネットでの予約が普及したら、こういうことがもっとあちこちで起きるんじゃないか」と考えるようになりました。そしてこの状況では、お店も疲弊するしお客さんも不快な思いをしてしまい、誰もハッピーにならない。電話で受け付けていようがネットで受け付けていようが、予約を紙で管理しているという根本的なところから変えないとどうしようもない、という結論に達したのです。
飲食店経営上「欲しい」と思っているツールを作れば、私だけでなく、国内の飲食店50万店のうち同じような苦しみを経験している人たちの悩みも解決できるのではないか、それは事業になるのではないか。そう思ったのがきっかけでした。
予約管理・顧客台帳・テーブルマネージメント機能で誰もがハッピーに
--現在の事業領域とサービスについて教えてください。
トレタCOO 吉田健吾氏 国内では6500店舗ほどのクライアントに利用いただいており、予約台帳のマーケットではトップシェア。海外にも展開中で、この6月にはシンガポールで正式リリースすることができました。
この「予約台帳サービス」には、「予約管理」「顧客台帳」「テーブルマネージメント」という3つの大きな機能があります。予約に必要な名前、電話番号、来店日時情報をいただいたら、予約管理としてだけでなく、データを顧客台帳として活用可能です。
どのお客様をどのテーブルに通すか、というテーブルマネージメントは、平面だけでなく、時間軸でも考えなければならないので苦労しますが、売上に直結する重要な部分。4名席のところに2名の予約を入れてしまうことなく、座席の稼働率が100%になるよう、まるでパズルのように組んでいくんです。トレタがあれば、この作業が楽になります。
――座席の配置や数の初期設定は、飲食店経営者にとってハードルが高くありませんか。
中村 現場の営業スタッフが必要に応じて、
でも、トレタを使えば誰が見てもわかるようになる。座席もきちんと埋まって稼働率も上がる。店としては、予約受付時のストレスからの解放、売上アップに、お客さんとしては予約がきちんと通っていることの安心感につながり、みんながハッピーになれる。そういうツールなので、ITに詳しくなく、紙の台帳を使って“ヒーヒー”言っている飲食店経営者たちに使ってほしいですね。
――これだけのツールを作られるには、苦労されることもあったのではないでしょうか?
中村 開発時にはUXの面で苦労しました。BtoBでここまでUXを考えているアプリはほかにないのではないでしょうか。現在苦労しているのは、サービスが止まらないようにすること。契約してくださっているのは予約が大量に入っている人気店ばかりですから、もし30分でも止まってしまったら、予約を受け付けられないばかりか、来店されたときに混乱してしまい、大惨事になってしまいます。
吉田 そこで、AWSを超える稼働率(Amazon Web Serviceの稼働率は99.95%以上)を目指すと同時に、オフラインでも予約台帳を閲覧できるよう、アプリ内で一定時間ごとにPDFとして保存する機能を搭載しました。そうしたバックアップを二重三重にしたうえで、サーバーの安定性を高めているという状況です。
――ところで、マネタイズはどのようになっているのでしょうか。
中村 店舗ごとに、月額1万2000円の契約料をいただいてまかなっています。
――えっ!? こんなに高機能で1万2000円ですか? 1端末1万2000円じゃなくてですか?
中村 1店舗で、ですね。ご自身で端末をご用意いただければ、インストールする端末台数やユーザー数は無制限です。分かりやすい料金体系を心がけています。
【五反田企業編】五反田にオフィス――「ちょっと渋いでしょ」
――五反田にオフィスを構えた理由を教えていただけますか。
中村 創業したのは渋谷でした。そこはベンチャーの巣窟みたいなビルで、広さは10坪。すぐ手狭になったので、目黒に引っ越しました。そこは23坪、そして恵比寿の60坪ときてここに200坪のオフィスを借りることになったんです。
――200坪ですか!?
中村 最初は近場で150坪の物件を探していたんだけど、家賃がかかりすぎる。でも100坪ちょっとではすぐ手狭になる。もう少しエリアも広げてみようかと考えていた矢先に、ここTOC(ビル)があったんです。
家賃が安く、200坪のワンフロアー。ぼくが思い描くオフィスの理想のイメージはサンフランシスコのスタートアップ企業にあるような、倉庫を異世界として改装したものなんですが、実はここ、ソニーが半導体か何かを作っていた場所で、自由に作り変えていいというところも魅力でした。
そして、オフィス内に自分たちで淹れたコーヒーを飲みながらコミュニケーションの取れるカウンタースペースを広く取りたかった。ここだからこそ実現できたんじゃないかと思います。
――コスト以外で、五反田の魅力はありますか。
中村 トレタ的には、いい飲食店が多いというのが良いですよね。駅までの帰り道だけでも本当にたくさんあります。あと、ぼくらみたいなベンチャーで「オフィスは五反田です」って言うとちょっと渋いでしょ。
――五反田界隈で行きつけのお店を教えていただいてもいいですか。
中村 居酒屋なら「大衆ビストロ煮ジル」、焼き肉では「大阪焼肉・ホルモンふたご」、ランチなら「志野」ですね。オフィスビルの地下にあって、七味唐辛子をたっぷりと使った肉七(豚肉七味炒め定食)ばかり食べてます。
――それはわたしも食べてみたいです(笑)
中村 ぜひ! せっかくなので帰りに寄っていってください。
――これからも五反田にいてくださいますか。
中村 こんなに広いところはありませんから、しばらくはここを拠点としていきたいと考えています。そうですね、このビルが老朽化で「もう使えない」というくらいまで、居続けたいですね。
――ご近所で、コラボしたいと思う企業はありますか。
中村 ぼくたちのサービスは飲食業向けなので、実名口コミサービスを展開されているRettyさんとは相性が良いのではないかな、と考えています。あと、駅前の立派な野村證券ビルに入っている、Web接客ツール「KARTE」プレイドさんですね。真っ当すぎますかね?(笑)
――最後になりますが、今後のビジョンについてお聞かせください。
中村 ツールは広まっていけば“インフラ”になります。店舗は管理された顧客台帳と丁寧な接客をしたいと考え、エンドユーザーは質の良いサービスを受けたいと思う。媒体ともうまく連携して、トレタで誰もがハッピーになれる仕組みづくりをしていきたいですね。また、飲食業界以外でも、「予約あるところにトレタあり」といわれるようになったら嬉しいですよね。