「五反田スタートアップ」第2回「株式会社クレオフーガ」
渋谷や六本木と比べ、ユニークな事業展開をしているベンチャーやスタートアップが集まりやすい五反田。その地にオフィスを構える企業にフォーカスし、事業内容や五反田を選んだ理由などをインタビューしていく「五反田スタートアップ」連載の第2回をお届けする。
今回は、音楽投稿サービス「クレオフーガ」と音源素材販売サービス「オーディオストック」を運営する、株式会社クレオフーガの代表取締役社長・西尾周一郎氏にお話を伺った。音楽投稿サービスというと、ピンとこないかもしれないが、イラスト投稿サービス(pixivなど)の「音版」と考えてもらえば、理解が早い。また、後者の「オーディオストック」ではビジネス的にも規模の拡大が加速している。
“新しい時代の芸術を創造していく”という思いを込めた、その名前とサービスを生み出した背景に何があったのか、これまでの実績やその中で得られた発見などを語っていただいた。
【会社概要編】キーワードはエレクトーンとPC
――まず、西尾さんが音楽の共有システムをサービスとして立ち上げられたきっかけについてお願いします。
株式会社クレオフーガ代表取締役社長・西尾周一郎氏(以下:西尾) 実は、プロの作曲家になりたいという夢を僕自身が持っていました。僕の中には「音楽」と「IT」という2つのキーワードが常にあったんです。幼稚園のころから10年ほどヤマハエレクトーン教室に通っていたこと、高校時代にはバンドを組んでいたこと。そして、父親はIT企業のSEで、使わなくなったPCのお古をもらえるという環境にあったこと。
ずっと音楽に親しんでいたので、作曲もしていたのですが、いまみたいに投稿サイトがそれほどあるわけではなく、個人サイトにアップロードする以外に発表できる場がない。自分のバックボーンである音楽とITを組み合わせてできること、アマチュア作曲家が自分の作品を発表できる場を作ればいいのではないか、というのがきっかけでした。そして、大学在学中に「DTM作曲コンテスト」サービスを開始。ゲーム曲の募集を始めたんです。
――アマチュアの作曲家とゲーム会社をつなぐというコンセプトが最初からあったということですか。
西尾 そうですね。単なる投稿サイトでは面白くないと思ったんです。もちろん、その頃は人脈も営業力もなかったので、自主的な企画を立てて主催する、ということを繰り返していたのですが、そのうち大きなコンテストも任せてもらえるようになりました。
アマチュアだからこそ作れた“ゲーマーの楽しめる曲”
――大きなコンテストですか?
西尾 バンダイナムコゲームスさんの「太鼓の達人」のゲーム曲を募集する「太鼓の達人 楽曲募集だドン!」です。
当初は「いい曲が集まらなかったら、ゼロ曲採用ということもあるからね」と先方から釘を刺されていたのですが、蓋を開けてみると1000曲ほど集まり、その中から優秀な10曲以上の採用がありました。
それがきっかけでユーザーも増加。DTM環境が比較的安価に構築でき、個人でも自宅でいい作品を作りやすくなってきました。加えて、インターネット環境も整ってきたため、どこにいてもその才能を表しやすくなったという、いい時代の流れのおかげでもありますよね。
この取り組みは、コンペを発注する企業側にもメリットはあります。プロの場合、それまでの実績があるし、企業が何を求めているのかを読めてしまう。当然クオリティは高いが、無難な曲作りに走ってしまう傾向があるんです。でも、インディーズ作曲家はそんな空気を読むようなことはしない。尖った曲、ユーザーが楽しめる曲を平気でバンバン出してきます。つまり、「どこかで聞いたことがあるような旋律」ではなく、まったく新しい音、面白いと思える音を企業としては採用できたそうです。
集まる曲は数千点――埋もれさせない場も提供!
――ところで、現在の事業領域とサービスについて教えていただけますか。
西尾 曲がだいぶ集まってきましたので、2013年に音源のマーケットプレイス「オーディオストック」サービスを開始し、クレオフーガと並行して提供しています。
――マネタイズとしても機能している?
西尾 そうですね。音楽共有サービス自体でも収益は出ているのですが、完全ではないと感じています。毎月コンテストがあるわけではありませんし、めちゃくちゃPVがあるというわけでもないので。会社としては、安定した収益を定期的に得ていかないといけませんしね。
それともう1つ。コンテストを開催すると、数千という曲が集まるんですが、採用されなかったものも有効活用したい。あのゲームには合わなくても必要としている人がいるんじゃないか、と前から抱いていた想いがあったんです。
そこで、曲や効果音をお預かりして、買いたい人に買ってもらう。写真でいうところのPIXTAと同じですね。動画などのBGMや、ウェディング向け動画など商用でも自由に使えるようにしました。YouTube広告やスマホゲームなど、サウンドが求められる時代になってきたため、タイミングが良かったですね。
オープン当初は1万点程度でしたが、いまでは5万点ほど集まり、色んな場面で使っていただけるかなと思っています。継続的にお使いいただく人向けにサブスクリプション(月額)サービスも開始していますが、ある程度音源のボリューム数がないとメリットが少なくなってしまうので、もっと投稿してもらえるような施策を打ちたいところではありますね。
――売り込みなどはされていますか。
西尾 少人数でやっていることもあり、いまのところはSEOで検索にヒットするようにして、インバウンドで来訪者数を増やしているところですが、音源点数が増えてきたので、きちんとやっていきたいところですね(笑)。あ、でも6月29日〜7月1日に東京ビッグサイトで開催された「コンテンツ東京 2016」の中の「第4回プロダクションEXPO」に出展したんですよ。
――これだけ点数が多くなると、苦労も出てくるのではないでしょうか。例えば、ほしい曲にたどり着く“検索機能”を音で行うのは大変だと素人目にも感じるのですが。
西尾 音源はカテゴリ分けすると同時に、投稿時にタグを付けていただくようにしています。ロック、テクノ、ヒーリング、POPなど。タグでどんどん絞り込めるようにしているのですが、音って聞かないとわからないので、どういうUIにするのがベストなのか、ということについては現在進行形で模索しているところです。
また、盗作を出さないという課題もあります。利用規約で縛ってはいますが、毎月1000〜2000点もの投稿があるため、100%防ぐのは不可能だと感じています。そこで、投稿作品については、耳でチェックする審査を外注でお願いしています。また、万が一に備えて保険にも加入していますね。
pixivなどのイラスト投稿サイトに比べると、音楽というのは裾野がそれほど広いわけではないため、ビジネスモデルとして地道な部類。そういう意味での苦労もありますね。
【五反田企業編】「以前は渋谷にいたけれど、音楽業界の会社にそんなに行かないことに気づいたんですよね」
――五反田にオフィスを構えたのは、サービスコンセプトと何かしらの関係があったからなんでしょうか。
西尾 そういうことは特にないんです。以前は、表参道や南青山、外苑前など音楽業界の企業が多い渋谷にオフィスがありました。でも、考えてみたらそんなに出向くことないな、と気づいたんです(笑)。そこで家から近いここにしたんです。近いといっても同じエリアというわけではなく、東急池上線でつながっているというだけなんですけどね。
――五反田はどんなところが良いと感じられていますか。
西尾 渋谷と違ってビジネス街のためか、人が少ないところがいいですよね。出身が岡山(県)なので、あんまりがちゃがちゃしたところは苦手なんです。それから、駅から徒歩3分と近いのに、家賃が安い。コストバランスを考えると、もうここしかないかなって感じています。
いまでも本社は岡山にあるんですが、西に行くのにはとても便利なんですよ。品川まで5分で出られますし、羽田空港も近いですし。食べるところもたくさんありますしね。
――五反田愛が溢れ出ていますね(笑)。よく行かれる「食べるところ」を教えていただけますか。
西尾 ランチは「小料理はなれ」によく行きます。1000円未満で食べられるため、オープン当初からお世話になっていますね。週に1回ほど行くのが、ミシュランにも掲載されたことがある「ぎたろう軍鶏 炭火焼鳥 たかはし」。ここは900円の親子丼を出してくれるんです。お酒を飲まないため、居酒屋はよく分からないのですが、夜だと「食堂とだか」がおすすめですね。ちゃんとした食事が食べられますから。
ちょっと残念だなぁと思うのは、おしゃれなカフェが少ないんですよね。女性が好みそうな。打ち合わせするときに使いたいんですけどなかなかなくて。ちなみに、僕のお気に入りは「Forest」。オーガニック系のおしゃれな雰囲気ですよ。
――今後も五反田を拠点にしたいと思われますか。
西尾 五反田大好きなので、ずっといると思います! だって、離れる理由がありませんもの。
――カフェはないけど。
西尾 カフェはないけど(笑)
――コラボしたいと思う五反田拠点の企業はありますか。
西尾 お世辞でも何でもなく、(GetNavi webの所属する)学研とコラボしたいですね。というのも、「ボカロで覚える歴史」シリーズを出されましたよね。面白い取り組みじゃないですか。音楽は、聴いて楽しめるから、リピートしても苦にならない。そこをうまく使ったなぁと思います。ただ単に楽しむだけじゃなく、付加価値をつける。学習に使ったり、ヒーリングに使ったり、可能性は無限大だと思っているので、逆に「コラボしたい」という企業がありましたら、お待ちしています!
アマチュアでも作曲でマネタイズ可能な世の中に
――最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。
西尾 オーストラリアで同様のサービスを展開している「AudioJungle」は、市場をオーストラリアだけに限定せず、世界中をターゲットにしていて年商10億円。そこからの収入だけで年収1000万を超えている人も数十人います。
うちでは、月収15万円程度。食べていけるかいけないかギリギリのところですよね。音楽流通の場として、アマチュア作曲家が自分の才能で、作品で食べていくための手段として使ってもらうためには、マーケットを世界に広げる必要があるので、展開中の英語サイトを充実させ、規模を拡大させていきたいと考えています。
幸い、クライアントからの評価も上々で、この方向性で間違っていないんだなという確信が得られている。これまで以上に「個人の作曲家を応援する」という、このサービス本来の目的を果たすために、力を尽くしていきたいですね。