ジェイク・ダイソン氏は創業者ジェームズ氏の長男にして、ソフトウェア、AI、コネクティビティを含む技術開発を主導するチーフエンジニアだ。ダイソン社の未来を担う彼に、同社の哲学と今後について訊いた。
※こちらは「GetNavi」2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
「コネクティビティが鍵を握る未来はとてもエキサイティングです」
ジェイク・ダイソン
ロンドンのセントラル セント マーチンズ大学で工業デザインを学び、プロダクトデザイナーの道へ。2015年に同氏設立の「ジェイク ダイソン ライト」社がダイソンに統合。現在ダイソンのウェアラブル製品などを統括する。
父から「絶対諦めないこと」「恐れないこと」を学んだ
ジェイク氏はプロダクトデザイナーとしてLED照明の開発・製造・販売を行う会社を運営。2015年にダイソン参画後は、ソフトウェア分野のキーマンとなっている。また彼は、父ジェームズ氏が5127個の試作を経て画期的なサイクロン掃除機を開発する過程を間近で見ていた証人でもある。
「父は当時、コーチハウスで様々な実験をし、数多くのアイデアを試していました。父がサイクロン掃除機の仕組みを思いつき、それを段ボールで試作した日のことも覚えています。ただ、その後も父は毎日悪戦苦闘していました。たった2人のサポートスタッフと父だけで、段ボールで作った試作品から信頼性のある掃除機を実際に作り上げたんです。当時コンピュータもない環境で、3人で画期的なサイクロン掃除機を完成させたのは本当にスゴいことだと思います」(ジェイクさん・以下同)
また、当時ジェームズ氏は米国企業との5年に渡る訴訟問題にも苦しんでいた。
「当時の父は訴訟関係の分厚い書類を、蛍光ペンで線を引きながら毎晩毎晩読んでいました。父のスゴいところは独学でエンジニアになり、独力で法律を学んで訴訟に対峙したことです。また彼は独学のマーケッター、独学のセールスマンでもあった。すべてを現場で経験しながらイチから学んでいった。それによってとてもバランスの取れたクレバーな起業家になれたのだと思います。私が父から最も影響を受けたのは『意志の強さ』。10年間も掃除機の開発を続けて決してギブアップしなかった。自分を信じて、ついに何かを達成できることを証明しました。当時は巨大な多国籍企業が市場をリードし、父は単なるピーナッツに過ぎなかった。でも『俺は怖くない。絶対やるぞ!』と言い続けた。『絶対諦めないこと』と『恐れないこと』を父から学びましたね」
エキサイティングな発想は自由な研究から生まれる!
ダイソンの最大の特徴で、哲学と言えるのが「エンジニアファースト」の姿勢。同社は利益のうち他メーカーを遥かに凌ぐ割合を研究開発に充てている。1万4000人以上いる社員の約3分の1がエンジニア・科学者なのも驚きだ。
「『研究』は消費者に見えない部分。我が社では科学者が製品開発の裏で自由に色々な実験・研究をしていて、そこから非常にエキサイティングなアイデアが生まれます。そしてそれを基にエンジニアリングを行う。『このアイデアがこの問題を解決するのではないか!』と気づいたときに開発を進めるんです。ダイソンの将来にとって重要なのはこれまで同様、あくまで『研究』と『実験』です」
一方で、時代に合わせて変わってきたことは、エンジニアの仕事の仕方だとジェイク氏は語る。
「製品開発のプロセス、研究、発見、そしてエンジニアリングはいまも昔もいっしょ。変わったのはほかの分野・領域に目を向ける部分ですね。世界の様々な領域を見て問題を解決しようとするようになりましたし、掃除機から扇風機、ヘアドライヤー、ヘッドホンと常に新たな興味深い分野に目を向けるようにもなりました」
現在ジェイク氏は、ダイソンの最新製品カテゴリであるウェアラブル部門を統括。画期的なDyson Zone空気清浄ヘッドホンの開発も彼が主導した。
「『大気汚染』はダイソンが解決したかった社会問題のひとつ。空気清浄できるウェアラブルなものを魅力的なかたちで実現したかった。そこで気づいたのが、街中にはヘッドホンをしながら移動している人が多いこと。そのときオーディブルなヘッドホンと空気清浄機は完ぺきな組み合わせだ、この2つが問題解決への正しいアプローチだと考えました。また、私たちにはオーディオ・アコースティックの経験値があります。10年20年と掃除機を静音化する取り組みを続けてきましたし、空気清浄機やヘアドライヤーの静音化にも取り組んできました。気流のノイズの理解、モーターや電子装置の理解・知見が数多くあり、オーディオヘッドホンに関してもベストなサウンドクオリティを提供できる自信があったのです。それでも開発前にはヘッドホンについてたくさん学びましたし、今後もさらに研究していきたいと考えています」
今後は「ロボティクス」と「コネクティビティ」が重要
今年創業30周年、日本法人設立25周年を迎える同社は、空気清浄ヘッドホンやロボット掃除機など新製品を続々と発表。世界的テクノロジーカンパニーとしての存在感をますます高めている。
「我々の将来のビジョンは『継続して製品のポートフォリオを拡大していくこと』と『より多くのテクノロジーを生活に生かせるようにすること』。『新分野への投資』も継続していきます。それによって、どんどん新しい領域を切り開いて、イノベーションを続けていきたい。特に『ロボティクス』には非常に興味深い未来があります。さらに、今後は『コネクティビティ』が大きな役割を担うようになるでしょう。『製品をどう使うか』という意味でも、『ひとつの製品がほかのどの製品に反応するか』という意味でも、『コネクティビティ』は重要なテーマです」
「ダイソンの複数の製品が連携し合う未来は?」との質問には、「すべてのプロダクトをコネクトできるようにして、我々が製品をモニターできるようにしている」と答えてくれた。
「これは私たちの会社にとっても消費者にとっても重要なポイント。1個の製品が何かを検知したとき、それがほかの製品と関わることがあれば、製品はもっと改善できます。そしてそんな可能性があるなら、我々はそのコネクティビティをどんどん拡大していきたい。すでに我々はそれを基に、独自のエコシステムを確立しています。ヘアケアプロダクトもウエアラブルプロダクトもいろんなものを検知できるようになっている。我々にとって、未来はとてもエキサイティングなのです!」