クレジットカードやキャッシュレス決済の疑問や悩みを“クレカの鉄人”岩田昭男師範がズバッと解決する連載企画。今回は先ごろ楽天Edyや楽天ポイントカードとの統合が発表された楽天ペイ、及び楽天グループの現状と今後の動きについて、岩田師範が解説します。
【第17回】楽天グループの決済サービスの現在と未来が知りたい!
【解説する人】 岩田 昭男
クレジットカード分野のオピニオンリーダーとして、30年以上取材・研究に携わる。『あなたの生活をランクアップさせる プレミアムカード』(900円/マイナビムック)など著書・監修書多数。
【今月の悩める子羊】 浦井 活仁(うらい かつひと)
楽天ポイントを中心にポイ活する34歳独身会社員。先日、共通ポイントサービスの楽天ポイントカードアプリとキャッシュレス決済サービス楽天ペイアプリ、楽天Edyアプリが2024年末以降に統合されると発表され、今後の使い勝手がよくなるのか、ポイント還元率に変化があるのか気になっている。今後の楽天グループの動向予測を聞くべく、岩田師範を訪ねた。
(相談者の要望)
- アプリ統合で何が変わるのか知りたい
- 楽天カードと楽天ペイ、楽天Edy。楽天ポイントを一番おトクに貯められるのはどれ?
- 楽天の今後の狙いについて師範の考えを聞きたい
まずは楽天ペイアプリと楽天ポイントカードアプリが統合へ!
師範 楽天グループの最新動向について知りたいというのはおぬしか?
浦井 はい。先日ニュースで「楽天ペイが楽天Edyや楽天ポイントカードと統合する」と言っていたのですが、何がどう変わるのか詳しく知りたいと思いまして。
師範 うむ。正確には楽天ペイアプリと楽天ポイントカードアプリを2024年の12月頃に統合すると発表されたな。また、楽天ペイアプリと楽天Edyアプリとの統合は2025年になる予定。よく「楽天ペイとの統合で楽天ポイントカードや楽天Edyがなくなるのか?」という質問があるが、実際はどちらもそのまま使い続けられる。
浦井 でも、いつも使ってる楽天ペイのアプリは、普通にポイントカードとしても使えますよ。わざわざカードを取り出す必要がなくて助かってます。
師範 実はすでに楽天ペイアプリにはバーコード表示機能をはじめ、ポイントカード機能のほとんどが搭載されとる。楽天ポイントカードアプリはポイント管理に特化しているぶん使いやすくはあるが、スーパーやドラッグストアなど楽天ポイントと楽天ペイの両方に加盟している店舗も多く、そこでポイント二重取りするのに同一アプリで済むメリットは大きい。ひとつのアプリで楽天ポイントを貯め、支払いもできるのが楽天ペイアプリの特徴で、最大2.5%還元になるためなかなかお得じゃ。
浦井 楽天Edyは楽天カードと一体型になっているものもあり、端末にカードをかざすだけで支払いができるのは便利ですが、最近はタッチ決済ができるようになったのもあって、出番が減りました。
師範 スマホを使う場合に限っては楽天Edyでの支払いは便利。おサイフケータイ機能の付いたAndroid機限定ながら、QRコード決済のようなアプリの立ち上げが不要で、読み取り端末にスマホをかざすだけで支払いが完了し簡単スピーディに使えるのがメリットじゃ。支払いでもチャージでも楽天ポイントが貯まり、楽天Edyの還元率は最大1%になるぞ。
楽天ペイのポイント進呈ルールが変更。チャージ払いなら誰でも最大1.5%還元に!
師範 ところで、その楽天ペイのポイント還元に関して、見逃せんルール変更があった。これまで楽天ペイでの決済時に1%還元(100円につき1ポイント還元)、プラス楽天カードから楽天キャッシュへのチャージ時に0.5%還元(200円につき1ポイント還元)だったのが、この6月4日よりチャージした楽天キャッシュで支払いをすると最大1.5%還元になる。
これは楽天カードからチャージしていたユーザーにとってはやや残念な変更じゃ。というのも、チャージを1000円単位で行えばポイントが付かない端数は発生しないが、支払いの場合はかならず端数が出る。「チリも積もれば~」で還元ポイントにかなり差がつくはずじゃ。一方で楽天カードからチャージせず、銀行口座からのチャージやコンビニATMでのチャージを利用する者にとってはポイント還元率が1.5倍になり、メリット増と言える。楽天ペイはこの2月に全国の金融機関からのチャージを解禁。4月にはローソン銀行ATMからのチャージも解禁しており、これらは明らかに楽天ペイの利用者数拡大を狙ったものじゃろう。
浦井 コンビニに行くついでにチャージして、ポイントもお得に貯められるのは嬉しいですね。
師範 そんな楽天カードユーザーにオススメの裏技がないわけではない。実は昨年7月から、Android版の楽天Edyアプリ限定ながら、楽天Edyから楽天キャッシュへの電子マネー移行が可能になった。いまのところ楽天カードから楽天Edyへのチャージでは、200円につき1ポイントの楽天ポイントが付与される。そこでまず、楽天カードから楽天Edyにチャージして0.5%のポイントをゲット。さらにチャージした楽天Edyを楽天キャッシュに交換し、その楽天キャッシュを使い楽天ペイで支払うことで1.5%還元。合計2%のポイントを獲得できるわけじゃ。
浦井 うう……。私、iPhoneユーザーなんで、その機能は早くiPhone対応にしてほしいですね。
師範 残念ながら、楽天ペイへのチャージポイントが6月になくなるこのタイミングで、iPhoneでの楽天Edyチャージポイント付与開始は期待薄じゃな。
楽天はアプリの統合で決済の利便性向上に注力!
師範 何より驚いたのは、三木谷社長が、キャッシュレス決済のニーズが高まるなかで楽天は業界をリードできるように、決済サービスの利便性の向上に力を入れると言っていたことじゃ。これからの時代、クレカ中心では世の中の変化に対応する動きが鈍くなる、その意味ですでにPayPayに遅れを取っていると感じているのではないか。
浦井 なんと! 楽天といえば楽天カードが肝心要だと私も思ってました!!
師範 PayPayが画期的だったのは、電子マネーでありつつ現金に極めて近い立ち位置にあること。これまで電子マネーは法律上出金(現金化)が難しかったが、PayPayは出金の対象を「PayPayマネー」、つまり銀行口座とセブン銀行ATM、ローソン銀行ATM、ヤフオク・PayPayフリマの売上金からチャージした、本人確認済みの残高に限定したことで法律問題をクリアした。特にPayPayの送金機能は利便性が高く、昨年のPayPayの送金回数は約2.8億回。これは銀行の振り込み件数の6分の1の規模に達する。今年4月には1回の送金上限も30万円に引き上げられ、より幅広いニーズに対応できるようになった。
浦井 なるほど。ちなみに楽天ペイでは送金はできないんでしたっけ?
師範 楽天ペイでも楽天会員同士の送付が可能。1回の送付上限は10万円で、本人確認が必要ない楽天キャッシュ【基本型】では月額30万円、本人確認を行えば出金可能な楽天キャッシュ【プレミアム型】なら月額100万円まで送付することができる。
浦井 それだと大学生の子どもへの仕送りなんかすごく簡単で、親は助かりますね。
師範 ちなみに楽天がスマホ決済に力を入れるのは、加盟店拡大のため、という理由も大きいようじゃ。クレジットカードやIC型電子マネーの決済に必要な端末は導入コストが大きいため、楽天カードや楽天Edyの加盟店は資金力のあるフランチャイズ店舗が多かった。だがそれではPayPayのように個人経営の店舗に導入してもらえない。そこでより導入コストがかからない楽天ペイアプリを決済の中心に据えようと考えたんじゃろう。さらに、クレジットカードは概ね普及してしまって新しい展開を考えにくいという側面もあるやもしれん。
浦井 キャッシュレス決済にいま大きな変化が訪れているんだなあと改めて実感しますね。
新たに生まれ変わる楽天グループに大きな飛躍の兆しあり
師範 ともあれ、いままさに楽天に大きな変化が起きつつあるのは間違いない。これから楽天は決済サービスの利便性向上を行い、さらに他サービスへの流入を増加させることを目指している。楽天は2006年にグループ内の様々なサービスを結びつけ、ユーザーにそれらのサービスをシームレスに利用させるビジネスモデル「楽天エコシステム」を発表したが、これがのちに独自の経済圏につながっていった。エコシステムのデータはこれからもまだまだ活用できる印象じゃ。
楽天は今後その分析にもさらに力を入れるじゃろう。楽天グループは東大学部生の就職者数で3年連続1位になるなど優秀な人材が各所から集まっているから、彼らにそれらのデータをどんどん分析させればいい。さらに、楽天にはAIに精通する社員も多く、AI企業としての躍進も期待されとるぞ。楽天は以前より、楽天市場をはじめとしてAIを活用したデータ分析などを実施。また楽天だけでなく、他のポイント経済圏にAIが入ってくるのも時間の問題じゃ。ユーザー各人の給与データや買い物履歴を自動で分析し、おすすめのクレジットカードを紹介するなんて朝メシ前。楽天市場の一角が、Meta(旧Facebook)が提供しているメタバースサービス「Horizon Worlds」のような、コミュニケーション自由度の高い仮想空間になる未来も容易に想像できる。
浦井 そんなSFみたいな世界が訪れるのなら、すごくワクワクします。
師範 これから楽天がスマホ決済中心にやっていくとなると、キャッシュレス決済にカードが不要という流れはいよいよ決定的になりそう。クレジットカード会社の淘汰は、今後ますます進んでいくんじゃろうな。
- 価格などの情報はすべて本稿執筆時のものです。
構成/佐伯尚子 文/平島憲一郎 監修/岩田昭男