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クレカ
2024/7/25 6:30

JRE BANKに申し込み殺到!「Suica経済圏」のアキレス腱と期待

クレジットカードやキャッシュレス決済に関する疑問や悩みに、“クレカの鉄人”岩田昭男師範がズバッと回答する連載企画。今回は新たにネット銀行「JRE BANK」を開始し、2028年の新アプリリリースを発表するなど精力的な動きを見せるJR東日本のSuicaについて、岩田師範が解説します。

 

【第19回】JRE BANKとSuicaの今後について教えてほしい!

【解説する人】岩田 昭男

クレジットカード・キャッシュレス決済分野のオピニオンリーダーとして、30年以上取材・研究に携わる。『あなたの生活をランクアップさせる プレミアムカード』(900円/マイナビムック)など著書・監修書多数。

 

【今月の悩める子羊】翠川絃志(すいかわ いとし)

Suica利用歴20年以上の37歳会社員。通勤などの電車利用はもちろん、コンビニや自動販売機などでの買い物にも積極的にSuicaを利用している。そんななか、JR東日本が新たにネット銀行サービス業務を開始するとのニュースに遭遇。今後Suicaがどう変わるのか、話を聞きに道場を訪れた。

 

(相談者の要望)

〇JRE BANKサービス開始の狙いを教えてほしい

〇サービス開始でユーザーにどんないいことがあるのか知りたい

〇Suicaの今後について、岩田師範の考えを知りたい

 

JRE BANKは特典満載で開始早々に申し込みが殺到!

 

師範  JRE BANKとSuicaの今後について興味があるというのはおぬしか?

 

翠川  はい。JR東日本が新しく「JRE BANK」という銀行を始めたと聞いて、トクする情報はないかなと。特に私はSuicaを使う機会が多いので、トクするのなら口座開設を考えてもいいなと思ってます。

 

師範  なるほど。JRE BANKは確かに業界の一大トピックとなっとるな。今年5月のサービス開始と同時に申し込みが殺到し、2か月で申し込み数は30万件を超えてしまった。これだけ人気になった理由はその特典の手厚さ。

 

1枚でJR東日本営業路線内の片道運賃・片道料金を4割引できる「JRE BANK優待割引券」が年最大10枚もらえるほか、JR東日本の新幹線停車駅47か所からランダムに選ばれた4つの駅のどこかに行ける、JRE POINTを使った往復特典チケットサービス「どこかにビューーン!」の2000ポイント割引クーポンが年最大12枚、普通列車グリーン車を無料で使える「Suicaグリーン券」が年最大4枚提供される。

 

また、JR東日本グループホテルの宿泊料金が最大20%割引されたり、駅レンタカー「トレン太くん」の料金割引などの特典なども条件に応じて付与。さらに、JRE POINTリンク登録をするとJRE POINTがもらえたり、駅構内のATM「VIEW ALTTE」での現金引き出しの手数料が無制限無料になるなどのサービスも付いとるぞ。

 

翠川  へえ~、それは特典の大盤振る舞いじゃないですか! 私もすぐ申し込まねば。

 

師範  これらの特典を受けるには口座残高や取引件数、同行口座での給与受取、ビューカード利用代金の引き落としなどが条件となってくる。当然ながら、使えば使うほど特典も増える仕組みじゃ。

↑「JRE BANK優待割引券(4割引)」は「えきねっと」から申し込み、デジタルクーポンとしてプレゼント。右表の判定条件をクリアすると、所定の枚数ぶんの割引券がもらえる

 

JR東日本が本格的に「Suica経済圏」の構築・拡大を目指し始めた

師範  JR東日本に関してはもうひとつ大きな話題がある。それは6月4日に発表された中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Boader」。ここでSuicaを進化させた新たな「Suicaアプリ(仮称)」を2028年に投入するなどして「Suica経済圏」を拡大するというのだ。

↑JR東日本の枠組みを大きく越えて(Beyond the Border)ビジネス圏を拡大する中長期ビジネス成長戦略の基盤は、各種IDの統合によるデジタルプラットフォームの構築。2028年の「Suicaアプリ」誕生により、サービスを一括して利用できるようになるという

 

翠川  おお、それも気になる話です。

 

師範  それに合わせて、「えきねっと」「モバイルSuica」など関連サービスのIDを統合し、JR東日本のサービスをシームレスで扱えるように。新しい「Suicaアプリ」では、鉄道料金だけでなく決済や金融などでも使えるようにするそうじゃ。

 

翠川  おっ、そこでJRE BANKとのつながりが出てきましたね。

 

師範  その通り!「Beyond the Boader」は「Suica」を単なる移動(交通)のデバイスから生活全般をカバーするデバイスに進化させる計画で、将来的には駅ビルで一定額買い物した客の帰りの運賃を割引するなどのサービスも考えているらしい。

 

そこで鍵となるのがSuicaの運用システム。JRE BANKは楽天銀行が所属銀行の「ネオバンク(自らは銀行免許を持たず、既存銀行と提携し、そのプラットフォーム上に独自のインターフェースを構築して金融サービスを提供する銀行のこと。サービスは主にスマホで提供)」として運営され、実際の預金預かりや住宅ローン貸付は楽天銀行が行うことになる。

 

このように、今後の「Suica経済圏」の運営には「楽天ポイント経済圏」のノウハウが生かされるんじゃないかとワシは見とる。ちなみに、JR東日本と日本郵政グループは「ゆうちょ銀行とモバイルSuica」などの連携強化の協定を今年2月に結んでおり、さらに遡ること2021年には日本郵政グループと楽天グループも資本・業務提携を結んでおるな。

 

翠川  おお、その3社が本格提携したら、強大なポイント経済圏が誕生しそうですね!

 

師範  あくまでもワシの見立てではあるがな。そもそも、JR東日本傘下であるVIEW CARDやSuicaの運営戦略にはワシはかなり物足りなさを感じていた。JRE POINTが貯まる店も、エキナカが中心で街ナカにはなかなか広がらず。三井住友カードがセブン-イレブンなどで合計7%ポイント還元を行うのを見るにつけ、Suicaもそんな大胆なキャンペーンを行えばいいのにとずいぶんヤキモキしていたものじゃ。

 

今後、Suica/JR東日本が楽天経済圏の運営システム/メソッドを取り入れれば、そうした街ナカの店も巻き込んだおトクなキャンペーンを打ち出してくれるのではないかとワシは密かに期待しておる。そうなれば「Suica経済圏」の台頭も現実味を帯びてくるな。

  

交通系ICはタッチ決済にシェアを奪われる可能性も

翠川  お話を聞いていると「Suicaの前途は明るい」って感じですね。

 

師範  ところが不安材料もなくはない。例えばJRE BANK優待割引券が使えるのはJR東日本の路線内のみ。関東から関西、九州などに旅行する際の「東海道新幹線」には使えないなど、旅行好きにはやや残念な制限と言える。さらに心配なのが、全国規模で見ると、Suicaの利便性が今後低下していきそうなことじゃ。

 

翠川  それはいったいどういうことですか?

 

師範  SuicaはこれまでJR東日本の路線以外でも使えた。全国の駅改札やバス乗降口などに共通でSuicaやPASMO、ICOCAなどの交通系ICに対応する読み取り端末が採用されていたからじゃが、鉄道・バスなど地方の公共交通機関でこうした端末を今後採用しないと宣言する会社が出てきたんじゃ。

 

翠川  ええーッ、それは何故?

 

師範  有り体に言えば、端末の購入費や規格の維持費が高コストすぎるんじゃな。例えば熊本の鉄道・バス5社の場合、従来の交通系IC端末を更新すると約12.1億円かかるのに対し、別の規格の機器への入れ替えは約6.7億円で済むとのこと。

 

また、国土交通省のキャッシュレス推進スキームが「導入には補助を出すが維持には出さない」という方針なのも、交通系IC端末の更新(維持)に二の足を踏む原因になっとる。前述した熊本の鉄道・バス会社は2025年春以降に撤退することを表明しているが、今後も全国の鉄道・バス会社が交通系IC端末の更新時期を迎えるタイミングで、Suicaなどの交通系IC対応を終了する状況が増えていきそうじゃ。

 

そして、それに代わって普及すると予想されるのがクレジットカードのタッチ決済やQRコード決済の対応端末。特にタッチ決済は外国人観光客も利用しやすいことから急速に普及するはず。三井住友グループの影響力が大きい関西エリアでも、私鉄・地下鉄を中心にタッチ決済が交通系の支払いの中心になる可能性は大きい。

 

翠川  なるほど。Suicaの将来にもポジティブ要素とネガティブ要素と両方あって、単純に楽観視できないわけだ。

 

師範  労働人口が徐々に減っていることもあり、“交通系決済システム”としてのSuicaは正直「ジリ貧」と言わざるを得ない。それゆえ、「Suicaを交通だけでなく生活全般で利用するデバイスに成長させていきたい」というのがJR東日本の目論見じゃろう。

 

また、JRE BANKで銀行事業を提携する楽天にしても、これまで鉄道系のサービスに芯となるものがなかったため、今回の連携が「楽天ポイント経済圏」拡大の起爆剤になるやもしれん。この提携がさらに拡大するのか、それともまた別の動きがあるのか、今後のポイント経済圏の勢力図の変化に注目したいところじゃな。

 

  • 価格などの情報はすべて本稿執筆時のものです。

構成/佐伯尚子 文/平島憲一郎 監修/岩田昭男