第20回アジア競技大会 (2026 / 愛知・名古屋) の陸上競技が行われた名古屋市瑞穂公園陸上競技場で、専門学校生や大学生から写真を仕事にする人まで10人が、プロと同じフォトポジションから大会を撮影する「キヤノン ユースフォトグラファーズ2026」が開催された。

「キヤノン ユースフォトグラファーズ2026」は、次世代を担う若手フォトグラファーが、アジア競技大会の現場でトッププロの撮影を間近で学ぶ場だ。キヤノンは、一人ひとりの挑戦や成長を後押しし、写真文化のさらなる発展に貢献することを目指している。2026年9月25日〜26日に開催された2日間のプログラムを追った。

起床は朝6時「それがプロカメラマンの第一歩」
講師の青木紘二さんは株式会社アフロの代表取締役で、オリンピックを20回以上取材してきた。大きな会社を率いる立場だが「うちの会社は社長とは呼ばないので」と言い、自らを「カメラマン青木」と名乗る。参加者たちを、同じ仕事仲間として迎えた。

講義は、プロの心構えから始まった。「カメラマンは撮影の日には遅刻してはいけません」。青木さんは本題に入る前にも、入ってからも、この話を口にした。プロになった日から、朝6時に起きると決めた。「まずそこから。それがプロカメラマンの第一歩でしたね」。普段夜更かししている人が6時に起きれば寝不足になり、それが撮影に影響する。体調を整え、時間を守ることで、クライアントからの信頼が得られる。

オートフォーカスのなかった時代、青木さんは高速道路の脇で、走ってくる車のナンバーを読む練習を重ね、それを追いピンの練習につなげた。今はカメラがピントも露出も合わせてくれるからこそ、その一歩先をどう狙うか、見えているもののどこを、どの位置で切り取るかが大事になる。そのためには、いろいろなことを知っておくと役に立つ。

電車に乗ったら、端から端まで広告を見て歩き、頭の中で映像を作る練習をする。スポーツを撮るなら、後ろにどんな背景を持ってくればいい写真になるかを考える。どれも写真に生きると青木さんは言う。プロの仕事については、「クライアントが欲しい写真を撮るのが仕事。いい写真は二の次です」と言い切った。「それでも1日に1枚は、自分はこれでいいという写真を撮ることを大事にしたい」と話す。

話に熱がこもったのは、選手の撮り方だった。青木さんも若いころは形の美しさやアクションの大きさを優先していたが、写真を見る選手にとっては「男前に写っているか、美人に写っているか」のほうが、ずっと大事だという。

ある選手に自分の好きなプリントを見せたところ、気にしたのは顔だった。ほかの選手からも、優勝の瞬間の写真は表情があまりよくないので使ってほしくないと言われたことがある。選手は意外と顔を見ている。「オートフォーカスがピントを合わせてくれる分、顔を見る余裕がある」と青木さん。いい表情を確実に捉える。それくらいの気持ちを持ってほしいと参加者に語りかけた。
世界のプロと同じポジションから撮影
競技場に着くと、青木さんは、上階のカメラマン席から選手が走り抜けるトラックレベルまで、さまざまな撮影位置をくまなく歩いて回り、競技が始まる前に準備を整えていた。「撮影現場では撮っているものだけを見ない。周りで何が起きているかということを常に観察して」。講義でそう話していた青木さんは、本番の前からその言葉どおりに動いていた。


参加者が撮影するポジションは、100m走のスタートからフィニッシュまでを正面から一望できる特設のカメラマン席、選手に手が届きそうなトラック外周のフォトポジション。いずれも超望遠から超広角まで、レンズワークが試される特等席だ。

ナイターとは思えないほど照明はまばゆく、演色性も申し分ない。写真を撮る最高の舞台だ。この場所が特別なのは、選手までの距離ではなく、世界中から集まったプロカメラマンの隣、つまり彼らと同じ場所から撮れることだ。

マナーにも、青木さんは触れていた。「場所取りは大事なんですけど、しっかりマナーを守ってください」。場所の取り合いになる現場では、いつもいい位置に立てるとは限らない。ベストではないポジションでもそこで何が撮れるかを考えることから、普段撮れない写真が生まれることもあるそうだ。

参加者たちが、競技場にあるキヤノンプロフェッショナルサービス (CPS) のブースに引き上げてきたのは、23時近く。皆が生き生きとした目をしていた。


心配していたけれど、しっかり撮れた
撮影翌日の講評会では、10人がそれぞれ3枚を選んでスクリーンに映し、狙いを話すと、青木さんが1人ずつ講評していった。
河村宙さんの1枚には、「仕事で使えるという観点で撮れている」としたうえで、「選手がいちばん美しく見えるカットを選べば、人も評価するし本人も喜ぶ」と助言した。

濵嶋友陽さんには、「世界のトップ選手というのは動く芸術品なんですよ」。

黒澤莉子さんの1枚には、「静かな喜びがあり、目がちゃんと生きている」と声をかけた。

村上稜真さんの2枚については、「組写真として、雑誌なら字が入れやすい」と評した。

安田篤奎さんは「日本の選手だったらもっとよかった」と自分の1枚を振り返った。しかし青木さんの見方は逆だった。仕事で来ている日本のカメラマンは、日本の選手を撮らなければならない。つまり「これはあなただから撮れる」。撮影の仕事を長年続けていると、このような写真は撮れなくなってしまうのだという。

講評を終えると、青木さんは「昨日はすごく心配だったんですよ。どこまで撮れるかなという気持ちがあって」と打ち明けた。思い返せば、競技場に向かう前の講義の会場で参加者が手にしたのは、「EOS R1」と「RF100-300mm F2.8 L IS USM」、そして1.4倍と2倍のエクステンダー。CPSのスタッフにサポートしてもらいながら、借りたばかりのフラッグシップミラーレスカメラに、ぎこちなくレンズを付ける姿もあった。本当にアジア競技大会の陸上競技を撮れるのだろうか? と思わせる場面だった。

しかし蓋を開けてみれば、子どものころからスマホで写真を撮ってきた世代のレベルの高さに、青木さんは本当に驚いたという。講評の途中でも「予想していたよりも、はるかにしっかり撮れているね」と、ほっとしたように笑っていた。

最優秀作品を選ぶ時間、青木さんはパソコンの画面に並ぶ30点の作品を、真剣に見比べていた。キャリアのあるカメラマンと、初めてスポーツを撮るカメラマン。どちらの目線で選ぼうか。青木さんは、なかなか難しい問題だったと話した。最後は、プロの目線で、プロがいいと思う1枚に決めた。

プロの現場で何をつかんだ? 参加者に聞いた
客席からは絶対に撮れない写真を狙った
普段はライブステージなどを撮っていて、陸上競技は撮ったことがないという石井柾さん。フォトポジション確認の合間にどんな写真を撮りたいかと聞くと、客席からは絶対に撮れない写真だと言う。講義で青木さんが「今日は仕事ではないのだから、どアップで撮るくらいの勇気を持って」と話したのを受けての答えだ。

100m走の撮影では、まず選手横一列で全体を撮り、前に出た選手を見つけて追う。それがわずか10秒ほどの間に起こってしまうので、思いどおりに追い写せたときが楽しかったそうだ。青木さんの講評は、「やる気があれば十分食べていける写真」。そのうえで、まだ仕事ではないのだから「プロが撮っていない写真を撮るくらいの気持ちを持って」と付け加えた。

タイムを見るときこそ選手の個性が出る
光と影。水谷塾でスポーツ写真を始めた梅田朗江さんが意識してきたテーマだ。ナイターの陸上競技は初めてだったが、狙いは背景と選手のシルエットの美しさ。そして絶対に撮りたいのは、選手の表情だった。

撮影を終えた梅田さんは、自分の中の基準はある程度超えたと振り返った。フォトポジションの取り合いもゆずり合いも楽しめたという。現場に入ったからこそわかることもあり、もっと実験したかったとも話した。梅田さんが選んだ1枚は、女子の準決勝を終えた選手が、タイムを確かめる真剣な眼差し。喜ぶ姿や悔しがる姿を撮りがちだったが、今回はそこを狙ったという。青木さんは、「タイムを見るときこそ本人の個性が出る」と、その狙いを認めた。

表情が見えることにこだわった
弟が陸上競技をやっていて、客席から見たことはある。けれど、そのときは本当にただ応援しているだけだったと、三谷結さん。普段は子どもの撮影を仕事にしていて、陸上競技を撮るのは初めて。大丈夫かなと言いながらも、すごくワクワクしていると話した。

フィールドに入ってみると、「自分の見る視点がそもそも違った」と振り返った。初めて入る場所で試行錯誤し、ここで撮るならこういうのがいいと少しずつわかってきた。この経験は、仕事にも生かせそうだという。仕事では、こう撮ってと言われたとおりに撮ってきた。今回の撮影で「もっとやっていいんだ」と思えた。距離感の近い写真を、もう少し自分から「踏み出して」撮りに行くのも、ちょっと面白そうだと話す。

三谷さんがベストショットに入れたのは、こちらを向いた棒高跳びの選手の必死な顔を捉えた1枚。青木さんが「ちゃんと顔が見えることを大事にして撮っている。見る人の心を捉える」と、表情が見えることにこだわった狙いを評価した。
勇気を持って撮ることを心に刻んで世界を目指す
野球と飛行機を撮ってきた宇佐美雄大さんにとって、陸上競技は初めて。それでも準備をしてから臨んだ。今大会を含めて映像でいろいろ見て、どこから撮れるのか、どんな写真が撮れるのかを想像した。撮影前には、いくつものポジションを回り、この競技はここで撮ろうと考えていた。

フォトポジションに入った感想を聞くと、すごく高ぶったという。隣には著名なカメラマンがいて、世界のプロカメラマンたちと肩を並べて撮っている。プロが現場から送っている写真を見て、こんな撮り方もあるんだと気づかされた。いちばん楽しかったのは最後の100m決勝。最前列に座って撮れたうえに、選手から目線をもらえたことだという。カメラに目線を向けたのは、100mを制したタイのブーンソン選手だった。

宇佐美さんの作品を見た青木さんは、こう語った。「すごく勇気がある。この気持ちを忘れないようにしてほしい。仕事になると忘れちゃうから。勇気を持って撮る、いい姿勢だと思います」。宇佐美さんが持ち帰る青木さんの言葉も、「勇気を持つこと」だという。通信社を志望し、目指すのは世界大会を撮るカメラマンだ。
最優秀作品は「仕事では撮らない写真」
最優秀作品に選ばれたのは、男子100mを制したタイのブーンソン選手が国旗を掲げる姿を、やや後ろからハイキーな露出で捉えた金野恵理さんの1枚だ。「仕事で撮っている人はこの写真は撮らないです。撮る暇がないと思う」と青木さん。選手の向こうに並ぶカメラマンまで入れた構図と光の狙い方を評価した。例えば陸上競技でグラビアを8ページ組むなら「これ表紙になりますよね」と話した。

「やった!」という瞬間が好きな金野恵理さん。バスケットボールが好きでカメラを始め、陸上競技を撮るのは今回が初めて。狙いは棒高跳びと100m走、そして目標を達成した選手の表情だった。実際に撮ってみて感じたのは、バスケットボールとの違いだ。フィールドが広く、撮りたい選手との距離が遠い。動く距離も長いので、そのぶんずっと狙い続けなければならない。周りのプロからは、ポジションをどこにするかを瞬時に判断することを学んだ。プロのフォトポジションに入った高揚感は、もちろんあった。緊張するよりも、ワクワクしたという。いちばん楽しかった瞬間も、会場に足を踏み入れた時だった。

アマチュアイズムを忘れないで
講評会の最後に、青木さんは、参加者の写真を撮る基礎能力がすごく上がっていると認めたうえで、こう言葉を継いだ。「アマチュアイズムを忘れないでくださいね」。アマチュアだからこそ、いい作品を撮る一番のチャンスがあるという。自分の会社に入ってくるカメラマンにも、プロだけどアマチュアイズムを絶対忘れるなと常に言っているそうだ。仕事の写真を8時間撮らなければならない日も、そのうちの20分でも、自分のこれだと思う1枚を撮る。講義で聞いた1日1枚の話にも通じる考えだ。

今回のイベントを終えた参加者に、青木さんのたくさんの言葉の中から一つだけ持ち帰るなら? と尋ねると、10人のうち4人が、アマチュアイズムやアマチュアの心を挙げた。「カメラマン青木」の言葉は、しっかりと参加者の心に刻まれていた。
いちばん好きな写真は「この次に撮る写真」
話は、これからの写真のことにも及んだ。カメラが勝手に撮ってくれる時代に、その上で自分は何ができるか。長く撮っていると怖いのはマンネリ化で、「それとどう戦うかも一種のゲームだと思えば面白い」と青木さん。一生懸命やれば、ダメでもそれでいい。そう思って撮れば落ち込むこともなく、いつも楽しい。

いちばん好きな作品を聞かれると困ると言いながら、青木さんはこう答えた。「おそらくこの次に撮る写真じゃないかなと思っています」。前日の講義でも、同じ思いを語っていた。これでいいやと思うようになったら、カメラマンをやめる。けれど、「この次は撮れるんじゃないかっていう……夢があるんですよ。だからいつまでたってもやめられない」。
参加できなかった人へ
講評会のあと、この企画に参加できなかった人たちに向けて、青木さんに言葉をもらった。
「特にアマチュアの人に言いたいのは、自分のセンスを信じろと。そして絶対にいい写真を撮ってやるという強い意志を持つこと。これが強い人って意外と少ないんですよ。とにかく何でもいいから1枚だけ絶対にいい写真を撮ってやろうと思うだけで、写真のレベルって上がっていくと思うんです」。
自分の能力で最高のところを常に目指していくことで、レベルが上がっていくとも話した。「写真というのはクオリティで評価される世界なので、人よりも上のものを撮っていかないと生きていけないんですね。それを忘れないでほしいと思います」。青木さんは、そう結んだ。

〈協力〉キヤノン株式会社、キヤノンマーケティングジャパン株式会社